あの夜とは違う時間
「4時じゃなかったかな?」
橘さんがキョロキョロとして
営業時間の張り紙を探してくれている。
「そしたら、始発で帰ります!」
ギョッとした目で
私を一瞬見つめて、
「おっけー」
「良かったじゃん、おじさん」
「深山さん、とことんモードだよ」
「やったー」
顔を真っ赤にした高木さんが
バンザイしてその指をピースに変える。
「…だって、遅れたし飲み足りないもん。」
理由は何でもよかった。
あの夜と同じ状況にならなければ。
ただそれだけ。
それだけ。
ー23:45
最終電車出発ー
「俺、トイレ!」
高木さんが席を立った。
ーー大丈夫
今夜は、外じゃない
橘さんと2人だけど2人じゃない
私たちと同じように
飲み明かすお客さんは多かった。
満席に近く熱気が満ちた店内。
「本当に平気だったの?帰らないで」
眉を下げて心配そうに
橘さんが聞いてくる。
目線が自然に合うのは
橘さんが座って頬杖をついたからだ。
「今夜は帰っても寝るだけなんで」
「ふーん、潰れないでね」
今度は眉を上げてイタズラに微笑む。
ドクッーー
高鳴った胸の音が橘さんに聞こえないようにー
ごまかすようにー
「はぁ?大丈夫ですよ!」
「橘さんが振ってきた仕事のせいで、
私は腹立ってるんです!」
「あ、やっぱり?」
わざとでした、と言わんばかりに
ベーッと舌を出してケタケタ笑ってくる。
「深山さんは、イチから全部説明しなくても
やってくれるから有難いんだよね」
「安心して任せられる」
右手をポンッと私の頭に乗せると
「いつもありがと」
とイケメンの無駄遣いと言ってもいい
100%の笑顔を私に向けた。
それから、
少し考え込んだあと
言うかどうか悩んでいる様子で
「でもね、飲むと深山さん」
「相手の目をジーッと見る癖があるよ」
「それは勘違いさせちゃうこともあるかも」
「いい?ダメだよ」
「高木のおじさんだって勘違いするからね」
初めて言われた。
自分の癖。
そうなんだ……
ってーーーー
飲んでる私の癖を言うなら
知ってるなら…
見てるってこと?
覚えてるってこと?
口角をキュッと上げて笑う姿を見ていると
橘さんに対して強烈に興味が湧いてきた。
私…知りたい。
橘さんのこと。
職場の人と馴れ合うのは嫌いだけど
何故か橘さんのことは知りたい。
全てを見透かすような目。
意外と思ったことを素直に言う口。
だけど
それは誰にでもじゃないことを知ってる。
だから
橘さんの狭いストライクゾーンに
私が入れたように錯覚してしまう。
こんな風に人に興味を持つなんて
もしかしたら初めてのことかもしれない。




