酔いどれとシラフ
外まで漏れるワイワイした声に気づくと
立ち呑み屋さん店先の
提灯の灯りが見え始めていた。
金曜の21:00にもなれば
お酒も進んで楽しい盛り。
イライラがまた復活しそうになり
慌てて息を吸い込んだ。
人の熱気なのか
会社を出た直後のような
ひんやりした感じはしない。
これから
私、橘さんに会うんだ。
…平常心
……平常心
…普通に普通に
……まず「お疲れさま」って言って
…それから……
頭の中で
必死のシュミレーションを進める。
…普通に
そう、とにかく顔に出さずに。
第2ボタンあたりを見る
そうすれば
直接顔を見ないで済む。
だからーーー
眉間に思いっきりシワを寄せて
足を止めて考え込んでいて
全く気づかなかったけど
高木さんは私に気づいていたようだ。
「みーやーまーさーん!」
両手を振りながら
高木さんが出迎えてくれた。
「遅れちゃってすみません!」
「来てくれてありがとー」
「遅くまで大変だったね」
「ビール頼んどいたよ」
「早く飲もうよ」
この間と同じように
箱を積み上げたテーブルと椅子に案内される。
雑多な雰囲気と高木さんのふやけた笑顔で
一生懸命考えた段取りが崩れていく。
「お疲れさま」
少し低くて
嫌味を込めて笑いをこらえたような
橘さんの声が頭上から私に届く。
「全部終わったの?」
「ごめんね、先始めてて」
ひょいと屈んだ
ニヤリとイタズラに笑う橘さんと
目が合った。
ドキンー
ドキンーー
違う…
目を見ちゃダメなのに…
距離が近い。
無意識なのかわざとなのかわからない
酔った橘さんの大きな目に
私の立てた作戦なんて一切無意味だった。
シラフのが強いはずなのに
なんで…
私の身体は言うことを聞かないんだろう。




