初めての返信
その日の定時後、
私は1人で残業していた。
そう、
橘さんが振ってきた仕事のせいで。
ニュアンスで仕事を依頼してくるから
電話で話を聞いた人しかできないし
その感覚を言語化することが難しい。
電話の数=仕事量として積み上がる。
せっかく金曜日なのに
1人でキーを叩く音が響くオフィス。
その音は
悲しいような怒りのような
なんとも言えない音を醸し出す。
仕事が終わったらすぐに退勤しようと
隣の空席に置いていた鞄から
スマホが震えたのがわかった。
仕事中にスマホを見るのは
気が引けたけど
息抜きがてら通知を確認する。
「こないだの立ち呑み来てるんだけど」
「これから」
「みんな来るよね?」
定時でさっさと帰った
高木さんからのLINE。
カターン!
ついまた感情的にキーを叩いてしまう。
高木さんは
もう1人で始めてる雰囲気を感じる。
「はぁ…仕事中だわ」
この温度差が悔しい。
自分が仕事中なのを
毒づきたくなってしまった私は
ついついトトトッと返信する。
「残業中なので、遅れても良ければ」
ーーー既読2
18:33
まただ。即既読。
高木さんはともかく
私に大量の仕事を振った橘さんも即見てる。
「あー、もー、腹立つ!」
オフィスに1人なのをいいことに
イライラを隠さなくなった私は
手元の炭酸水をゴクゴクと一気に流し込む。
炭酸水のシュワシュワが爽快で
気分を落ち着かせたいとき
上げたいとき
私は炭酸水レモンを選ぶ。
喉の奥に沁みていく。
口元にペットボトルをつけたまま
目線を動かすと
ーー
これから行くよ
ーー
目に入った初めてのLINE。
橘さんの返信だった。
「はぁ?!」
思わず声が出てしまう。
人に仕事を振るだけ振って
私は残業だと知っていて
飲みにこれから行く?
ありえない
ありえない!ありえない!
私のイライラは
ピークに達しようとしていた。
なのにー
仕事は雑にできない。
何故か私は
橘さんのニュアンスの仕事依頼を
完璧に返せてしまう。
だから、頼ってきてくれてるのかな
なんて思ってしまうこともある。
それを優越感と言うか
嬉しいと言うか
少し違う感情を持って仕事をしているのは
紛れもない事実だった。




