どうして?
……え?
いつもなら
見上げる位置にあるはずの橘さんの顔。
今は目の前にある。
話していても
いつもは合わせようとしない視線が
こんな時に限って、しっかり合う。
でも、目の雰囲気が違う気がする。
…というか
こんな近くで橘さんの顔を見たことがない。
美形なのは
職場の女の子が「橘さん派」「◯◯さん派」
と話しているのを聞いていたから
知っていたけど…
近くで見ると相当かっこいいのがわかる。
トクン…
橘さんの右手が
私の頭の後ろに回される…
え……
「ちょ…ちょっと、橘さん?」
「どうしたんですか?」
夜の風がサーッと流れていく。
心地よくて涼しいはずなのに
顔に血が上ってくるのがわかる。
…た、高木さん
早く出てきて…
なんか橘さん、おかしいよ……
そのまま橘さんが近づいてきて
唇が
私の唇にそっと触れた…
両手で橘さんの胸を押して
大きな身体を離す。
「橘さん!何考え…」
もう一度キスが降ってきた……
胸を叩いて拒絶する私の両手を
左手で握って…
「橘さんは、私の先輩で上司でしょ?」
「今そんなの関係ない」
「結婚してるでしょ?橘さんも私も」
結婚してると言うと
ピクンと動いたから
私の声は届いてると思った。
でも
キスの雨が止むことはなく、
私の中の“これはダメだ”という声が
酔いと混乱と、橘さんへの気持ちに押されて
だんだん弱くなっていって——
抵抗する力が
少しずつ抜けていってしまっていた。




