第21話
「グルルルル……」
低い唸り声を響かせながら、灰色の獣が草原を駆ける。
グレイウルフ。
灰色の毛並みと鋭い牙を持つ狼型の魔物だ。
「黎、来るぞ!」
「分かってる!」
拓真の声に応え、ショートソードを構える。
速いっ!
地を這うように迫ってくる灰毛の牙。
ゴブリンなんかとは比べものにならない。
「ガァッ!」
グレイウルフが地面を蹴った。
横へ跳ぶ。
鋭い牙が、ほんの僅か前を通り過ぎた。
着地したグレイウルフが振り返る。
「――っ!」
僕も地面を蹴った。
一気に距離を詰め、剣を振り下ろす。
だが、グレイウルフは素早く横へ跳んだ。
「グルァッ!」
そのまま身体を捻り、再び飛びかかってくる。
「くっ!」
剣を横にして受け止める。
ガチンッ!
牙と刃がぶつかった。
「ぐ……っ!」
重い。
腕に強烈な衝撃が走る。
グレイウルフは前脚を僕の胸へ押しつけ、そのまま押し倒そうとしてくる。
「この……!」
必死に踏ん張る。
その時。
「黎、伏せて!」
「――!」
千紗の声。
考えるより先に身体を沈めた。
直後、頭上を千紗の放った矢が通過する。
「ギャウッ!?」
矢をまともに受けたグレイウルフが横へ吹き飛んだ。
「今!」
「うん!」
体勢を崩したグレイウルフへ駆け寄る。
起き上がるより早く、ショートソードを振り下ろした。
刃が首筋へ食い込む。
「ギャッ――」
短い悲鳴。
グレイウルフの身体から力が抜けた。
「はぁ……」
息を吐きながら剣を引き抜く。
その直後。
「そっち行ったぞ!」
晴人の声。
顔を上げる。
もう一体のグレイウルフが、こちらへ向かっていた。
「グルァァッ!」
「黎!」
目の前に拓真が割って入った。
グレイウルフが飛びかかるのと同時に、槍を突く。
それは狼の肩を抉るが、骨で止まる。
狼の突進の勢いに押された。
「っ……!」
拓真の身体が僅かに後ろへ押される。
それでも倒れない。
「晴人!」
「任せろ!」
槍に阻まれたグレイウルフの側面へ晴人が回り込む。
「おらぁっ!」
振り抜かれた剣が、胴体を深く斬り裂いた。
「ギャインッ!」
血を撒き散らしながらグレイウルフが倒れる。
それでも立ち上がろうとする魔物へ、晴人がもう一度剣を振り下ろした。
今度こそ動かなくなる。
「……終わった?」
僕が周囲を確認すると、拓真も辺りを見渡した。
「ああ。これで最後だ」
草原に静けさが戻った。
「っしゃあ!」
晴人が嬉しそうに剣を掲げる。
「余裕だったな!」
「最後、拓真に止めてもらってたじゃん」
千紗が冷めた目を向ける。
「はぁ!? あれは連携って言うんだよ!」
「都合のいい言葉」
「なんだと!」
「はいはい。喧嘩するな」
拓真が呆れたように二人を止める。
僕はそのやり取りを眺めながら、小さく笑った。
冒険者になってから、何度かダンジョンへ潜った。最初はゴブリン一体を相手にするだけでも必死だった。剣を握る手は震え、魔物が近づいてくるだけで身体が固まった。
今だって怖くないわけじゃない。
それでも。少しずつ、戦えるようになってきている。
「黎」
「ん?」
「魔石」
「あ、忘れてた」
拓真に言われ、倒したグレイウルフを見る。
慣れてきたとはいえ、死体を触るのは未だに好きにはなれない。それでも以前のように躊躇することはなくなった。
ナイフを取り出し、魔石を回収する。
「これで何体目?」
「七体」
千紗が答えた。
「まだ七体かぁ」
晴人が不満そうに頭の後ろで手を組む。
「十分じゃない?」
「せっかく二層まで来たんだぞ。もうちょい稼ごうぜ」
「欲張って怪我しても知らないよ」
「大丈夫だって。今日の俺達、絶好調じゃん」
「そういう時が一番危ないんだよ」
拓真が釘を刺す。
「分かってるって」
絶対分かってない顔だった。
「まあ、時間はまだある。もう少しだけ探索してから戻ろう」
「よっしゃ!」
晴人が拳を突き上げる。
僕達は魔石を回収し終えると、次の獲物を探して歩き始めた。




