和解!
空はすっかりオレンジ色。間もなく夜が訪れようとする、黄昏時。ぴぃぴぃ鳴く雛の声に耳を澄ませながら、あたしは乾いた地面に、ひーらちゃん状態のまま、膝を抱えて座っていた。
……二号、帰ってこないなぁ。
女の子が病院に搬送されたのを見送ったあと、本部に戻ったあたしを待っていたのは、説教だった
。
色んな人にお叱りを受けたけど、結果的に女の子のためになったことと、ひーらちゃんの意志疎通の取り難さが考慮され、一応、お咎めはなしになった。
けど、医療本部の女医さんーーー実はそこそこ偉い人ーーーには非常に冷たい目で、次はないわよ?と宣告されてしまった……。
実は二号ほどレベルの高いヒーラーは滅多にいないそうで、医療本部の秘蔵っ子だったらしい。しかし、本人の希望と、ゆるキャラ制度の重要性を考慮して、泣く泣く手放したと。
そんな貴重な人材をあんなに手荒に扱うなんて、有り得ない。あなたと違って、代わりはいないのだと、面と向かって言われてしまった………。
……もしかしたら、本格的に首かも。でも、後悔はしてない。女の子に傷が残ったら、それこそあたしは一生後悔するから。
それで首になるなら、それまでのこと。ゆるキャラを辞めて、別の方法で望みを叶えるだけだね(諦める気はこれっぽっちもないよ!)。
ただ、二号には悪いことしたな、とは思ってるよ
。振り回してしまったし、仕事を押し付けて、一人で帰ったと考えてるかも。
このままあたしがいなくなったら、どっちもスッキリしないままでしょ?
謝って、話しをして、関係を改善しておきたいの。
…………と思って二号を探してみたけど、まだ帰って来ていないのか、見つからなかった。
詰め所に戻ってみたけど、人がいる様子もない。
もしかしたら、病院から直帰しちゃったのかな?
いろいろあって疲れていたし、あたしは裏庭の定位置で休むことにした。ここなら二号が詰め所に戻った時、すぐに分かるしね。こう見えて、結構人の気配に敏感なんだよ!
なんて、考えていた時だった。彼女の気配を感じたのは。
「やっぱり、ここに居たんですね……」
初めて聞く、二号の声。若い女の人だとは知ってたけど、なんだか疲れている……って、あたしのせいか。
「本日は、まことに申し訳ありませんでした」
あたしは二号の存在を感じ取ると、すぐさま謝罪の体勢を取る。
「やめてください!あなたが謝る必要なんて、ないんです!こちらこそ申し訳ありません!」
なぜか二号も謝ってきて、謝罪合戦が勃発する。ひーらちゃんが一号二号と揃って、地面に耳がつくほど頭を下げて、謝罪しあう。……かなりシュールな図だ。
「あの、怒ってないの?」
「怒るなんて……むしろ、今までの態度を考えるなら、あなたこそ怒るべきでは?
私は、あなたを知ろうともせず、勝手に決めつけ、拒絶していました。思い返せば、あなたはいつもこの裏庭にいましたね……私は、あなたの居場所さえ奪っていたのですね」
その言葉に、あたしは思わず頭を上げた。違うよ!あたし、そんなに柔じゃないよ!
「あたし、昔から要領悪くて、愛想も悪いから、最初はよく誤解されるんだ。仕方ないよ。それに、ずっと裏庭にいたのは、あそこの鳥の巣を観察してただけなんから、気にしないで!」
「……鳥の巣?」
ようやく二号も頭を上げたので、あたしは鳥の巣の位置を指し示し、説明する。
「うん、10日くらい前かな?あの巣の雛が一匹、下に落ちてるのを見つけてね。ちょうど草が茂った所で、大きい葉っぱがクッションになって怪我もないし、落ちてすぐだったのか衰弱もしてなくて、あたしの能力を使って巣に帰したの」
百聞は一見にしかず、とあたしは耳先から月色砂子を取り出し、足元の適当な小石を雛に見立て、落ち葉でくるみ、そっと持ち上げた。
「落ち葉越しだし、この月色砂子は研究所の実験で無味無臭が証明されてるから大丈夫だと思うけど、人間の臭いがついたら親鳥は子育てしなくなるって言うじゃない?ちゃんと育ってるか見てただけなんだよ!」
二号はしばらく無言だった。太陽の残光が消え、周囲の明かりが人工灯に切り替わってから、やっと呟く。
「……私は本当に、何を見ていたんでしょうね。……変身解除」
ピンク色の光が溢れ、中から女の人が現れる。
ミルクティ色のフワフワした髪、たれ目がちのつぶらな瞳、二号のイメージにぴったりな可愛らしい人。年は、あたしとそんなに変わらないっぽいから、敬語は癖なのかな?
「今日のことで、私はあなたをもっと知りたいと、仲良くなりたいと思いました。今更かもしれませんが、改めて自己紹介します。私の名前はユーリ。
本日より“ぴーらちゃん”を名乗ることになりました。どうか、お友達になって下さい」
そう言って、ぴーらちゃんことユーリさんは素敵な笑顔で手を差し出してきた。
正式名称が決まったなら、あたしはまだひーらちゃんでいられるらしい。仲良くすることにも異存はない。
ユーリさんに応えるべく、あたしも変身解除する。緑の光がパッと散った。ユーリさんはあたしの義手を見て一瞬目を見張ったけど、すぐ気を取り直して握手してくれた。
「あたしの名前はアリアティスだよ。よろしくね、ユーリさん!」
「ユーリと呼んで下さい。私も、アリアって呼びますね?」
お茶目に笑うユーリは本当に可愛い。
「ユーリって、見た目も雰囲気もぴーらちゃんっぽいね。これじゃあ、すぐ正体バレそう!」
「…………あなたは、ギャップあり過ぎです。詐欺みたい」
人間版の見た目までひーらちゃんだったら、人生ハードモード過ぎるでしょ。そう言うと、ユーリは声を上げて笑った。
打ち解けられて、めでたしめでたしかな?
一段落です。




