特異な人生のある一部分
一夜明けわたし入谷は過去を思い出していた。
人間ではなく吸血鬼と化したわたしの人生を正確には思い出していた。
正式にいつ生まれたかわからないが、正確なのは現在で言う江戸幕府の時代が始まったころで、200年以上前であることは明確だ。
日本語や日本人も現在と違い変化し、わたしが生まれたころの日本と言うものはすでに存在していないのだ。
現在で言う県名も覚えてないが、少し山奥の農民の村の農民の子に生まれたわたしは母がいて父がいて、わたしがいて農民として普通の人生をおくっていた。
山奥とは言うが、現在で言う商品作物を一部だが取扱い、政府こと幕府や藩の管理が行き届き都会と田舎が入り混じった村の体制だった。
土壌は肥えているとも貧弱とも言えず、飢餓や疫病、盗賊の強襲と言った災害とも無縁で、普通に生きて、田や畑を耕して行けば満足とまでは言えないが結婚すると言った、相応の人生は送れることは確かだった。
税の類も滞納者もおらず犯罪も起こらず、現在のわたしの人生とは無縁な毎日だった。
わたしがなぜこんな人生と言うか、吸血鬼になったかと言うと、発端は冬の始まる頃に起きた。
村に突然南蛮人こと外国人だと思われる花魁のような姿の女性が姿を表したのだ。
花魁とは現在で言う風俗関係の仕事をしている女性で、現在とは違い少し華美な見繕いが目立ち、彼女は仕事中でもないのに化粧をしていて派手だった。
表したとは言うが、正確には最初に目撃したのはわたしで、昼頃道を歩いていると地面に倒れていたのだ。
警護と言うかお付きの人間も見られず、行き倒れのようだった。
現在では見慣れたものだが普通の日本人と違い以上に白い肌は死人のように見えて気になったが、生きていて眠っているだけのようなので彼女を保護し家に連れ帰った。
幸か不幸か少し前に両親もなくなり、当時としてはいい年だが結婚もしておらず1人身で彼女を家に置いておき、役人たちへと連絡した。
戻ってみると眼を覚まし、普通の人間とは異なる青い眼でこちらを見て逃げ腰になっていたが、役人たちが捕まえ、調べだすと少し遠くの遊郭で働いていたことが判明した。
当時の日本は歴史で言う鎖国体制だが、これは正確には国交限定や入退国制限、輸出入制限と言うのが正しい状態だ。
オランダや中国との貿易はおこなわれていたし、公的な歴史には存在しないが、日本国内への人身売買と言ったことが裏で起きていた可能性も存在し、彼女も被害者の1人のようだった。
当時のわたしの村では非常に少なく、現在ではなくなったが遊郭に売り払われたり、将来有望だったりすると大きな家の嫁に出されたり、有能でも男ではないからと女性は差別されて扱われていた。
現在の日本よりもひどいとまでは言えず文化的なものだが男尊女卑は多く、彼女も人前では本気で言えないような、人間でもないような扱いをされたことは容易に想像できた。
想像できたとは言え、助けるわけにはいかないしわたしは役人が連れ去った後何事もないように普段の生活に戻ったが、ここからが問題だった。
風のうわさと言うべきか彼女が連れ帰されたと言う話を聞いた少し後で、花魁の幽霊が出ると言う怪談話が村中に広まり始めていた。
わたしはまさかと思い、夜に開いた時間をつくり、調べに言った。
すぐに出会えたと言うべきで、村の外れまで来た時に彼女が姿を表した。
青い瞳に白い肌にあの華美な格好で間違いなく彼女で、見ているとわたしは彼女に捕まって押し倒され、首筋を噛まれた。
言うまでもないが彼女が吸血鬼で、わたしを吸血鬼にした女性だ。
名前は死んだ現在まで本名かどうかわからないがツバキと名乗った。
これが原因でわたしは吸血鬼となり普通に暮らして行けず、村を出ることになった。
無意識か故意か不明だが、幸か不幸かわからないが、ツバキは事情を説明してくれ、責任感もあるのか同行してくれた。
初対面の時は何も話さなかったが話すとなるとどこで覚えたのかと言うか日本中回ってだと思うが奇妙な方言の入り混じった変な日本語を話すし、現在で言うマシンガントークで黙ることを知らず、意外と元気な女性だった。
元気と言うが元気すぎるし、わたしを吸血鬼にしたのも無責任な行動と言うべきだとも感じた。
ツバキが言うには吸血鬼の研究と言うか、起源と言うか、生物としての多様性を調査するために日本に来ていたと話した。
吸血鬼は単体では人間よりも強く多種多様だが、人口が少なく、変異もしやすく、噛まれてなることなど変異性も高く、彼ら自身でも進化の過程を人間以上に把握していないとのことだ。
日本では数が少ないと言うよりも全滅していると言う方が正解だが、わたしが少しだけだが残っていて血統が強く、ツバキは研究成果としてもわたしを連れ帰りたかったそうだ。
確かにほかの人間よりも夜が強かったり遠くの音が聞こえたりと身体能力は少し強いと思っていたが、個人差で同じ人間もいるだろうと考えていたので意外だった。
この後はと言えばツバキに手伝ってもらって、国外脱出して世界中を旅して暮らしていたが、少ししてわたしはいつの間にか彼らと言うべきか、仲間の書類手続きと言うか事務や公的役職についていた。
正確に言うと現在でもだが人間で言う公務員的役職に就任していた。
ツバキのマシンガントークも決して役に立たないことを話していたわけではなかった。
ツバキは実は吸血鬼の有名な家の生まれで知識教養をわたしに分け与え、わたしは日本人の持つ勤労さと言うものも手伝い真面目に働いた。
本来はわたしのような人間がなれるような身分ではないが、ツバキの推薦とわたしが来た当時の日本の政治体制も踏まえ、間接的な監視も踏まえてのことだったが、わたしは路頭に迷うよりかはいいと思ったし性に合うので働いた。
書類仕事は畑仕事よりも楽だし、仕事も少々多忙でツバキとは時折会うこともあったが、会う機会は減っていった。
話すべきは時間が少し経過し、現在ではないが、1929年の10月31日で、わたしたちがハロウィンの悲劇と呼んでいる日のことだ。
当時わたしはアメリカのシカゴに在住していた。
歴史に詳しい人間ならばわかるが当時のシカゴは半塲無法地帯で、普通の人間ならばイタリア系マフィアのアル カポネによる聖ヴァレンタインデーの虐殺が有名だ。
当時の流行から広がったか言語的にもマフィアはイタリア語が起源と言われ、英語ではこう言った違法集団はギャングやシンディケイトと言うのが一般的で、彼の名声は名前だけでなく後世の言語にも影響を与えたと言える。
禁酒法時代とも当時は言われ、飲酒用と言った特定の種類の酒の製造販売が禁止される中で違法性集団の酒の密造に始まり、抗争や密売が横行し、警察もリベート、言わば賄賂を受け取り、治安は泥沼と化していた。
禁酒法はキリスト教の宗教的論理に基づき勤勉な人間を育てようと考えて制定された法だが、現実では統制や罰則、管理は徹底したものでもないし法の制定は裏目に出ていた。
事件の一週間前、言わば1929年の10月24日にはニューヨークの証券取引所での株の大暴落が起きた。
歴史上で言う世界恐慌に相当し、第二次大戦前でもあり、後の世に言われる暗黒の木曜日の名に恥じない暗い時代の始まりだった。
特にシカゴは後の歴史で多くの逸話が語り継がれ、アル カポネをはじめとする犯罪者の中で有名人を多数生み出した。
何でそんな危険な場所に言う声もあると思うが、こう言った場所では法の管理が少なく出所は悪いが金銭も手に入りやすく、わたしたちのような人間が逆に豊かに暮らしやすいのだ。
暗い時代の到来と言い、治安が悪いとは言うが、朝や夜も問わずの四六時中やどこででもではないし、比較的安全な場所もあるしで、わたしたちは人に隠れて静かに生きていた。
書類仕事を任されたわたしの眼とも言えるが、当時の記録によるとわたしたちの仲間は公式な届けがあった数だが、当時の人間の人口の3分の1ほどはいたことを覚えている。
本人には言ってはいないが、セレナーデはこの時幼い子供であり、実はツバキとは一応は遠縁の関係にあるそうで、わたしとセレナーデは間接的ではあるが、ある意味叔父と姪のような関係だ。
「―――――ぅっ?」
外から鳥の鳴き声が聞こえ、空からの明るい光が感じられ、空気も澄んだ感じで、普段は気分のいい朝の気配だが、わたしはその日、正確には1929年の10月26日の眼覚めは普段と違っていた。
手を後ろに回されて固いひもか何かで手を拘束されいすに座らされていた。
「―――?」
昨日は確か夜血液が飲みたくなり外出したことを覚えている。
人間が食料を買うようにわたしたちには相応の提供を受けられる場所や人間の協力者も存在していることも事実だが、わたしはその日、直飲みがしたくなった。
言うまでもなく案の定だが闇に隠れて人を襲って吸血するわけで、わたしは夜道を歩く女性を襲った記憶があるが、後の記憶がなかった、
正確には高いところで待ち伏せし、都合よく裏道を通りかかった長い黒髪の女に後ろから襲い掛かろうとした後、女性が振り返る途中までしかの記憶がなく、気が付くとこうなっていたと言う状況だった。
足もなわか何かで拘束され、動けない状態だった。
気づいて軽くだが暴れてみたが、なわはほどけなかった。
「―――眼ぇ覚めたか?」
「―――?」
暴れたがほどけないと思っている中で、部屋の端から声が聞こえ、わたしは眼を向けた。
発せられた言語はわたしにとっては古く懐かしい日本語で、ドアの右横に2、30代ほどだと思われる黒いスーツ姿の男が床に座り、こちらを見ていた。
スーツ姿とは言うが、室内だが帽子を被った上にサングラスをかけ、コートを着込み、シャツ以外はネクタイまで黒く、手には黒い手袋をして葬儀屋を思わせた。
サングラスは当時開発されたころで一般への普及と言うものは少ないとも言えるが確かに彼はかけていた。
かけていたことをふくめ彼らの存在自体も異常だが、異常なのはこのサングラスで、レンズはマジックミラー式でどちらかと言えば現在スポーツ用などで使われる類によく似ていた。
室内は眼の前にドアが見え、後ろと右横に窓、左横にはドアのある白い壁が存在し、天井と床は黒色だった。
家具はわたしがすわっているいすと、右横に中央に白いいすがあるが、向かい合わせにならべられた2つの白いいすと、左に大きいクローゼットが見えた。
「―――すまんな? おどろいただろう?」
言うと男は立ち上がり、服の中に手を入れるとタバコの箱を取り出した。
箱から一本だけ取り出そうとしているが、うまく取り出せない様子で、彼は喫煙者ではないようにも見え、何とかと言うように取り出すと口にと言うようわたしの口へと向けた。
「―――いえ、いいです。やりません。」
「―――あ? そうなの?」
サングラスで眼が見えないが、意外だなと言うような反応を返した。
「―――あなたもでしょう?」
「―――わかる?」
「―――当然でしょう?」
少し軽い口調で話し、思わずと言うように返すと出した一本を服に押し当てて押し戻し、タバコを服の中に戻した男の口元が緩み、苦笑いを見せ、わたしも軽く笑って返した。
「箱からうまく出せてないし、火を取り出す動作を同時にしなかったし、あなたからタバコの匂いがしませんでしたからね?」
タバコを吸わないのは本当のようで、出した一本を押し込む動作と言い、服に押し込んだ動作と言い、普通の喫煙者にはない粗末な反応だった。
「―――じゃあ酒は? 上物があるんだ。」
「―――ぉぉ?」
よく考えると手足を拘束されている上彼は怪しいが、タバコを出した時と言い何か友好的な感じと、同じ日本人と言うことでわたしは油断してしまった。
タバコがダメだと言う状況の中で、男は言いながら先ほどまで座っていた場所の近くにおいていた酒瓶数本の内1つを手に取った。
「詳しくは知らんが、この時代だ。一杯どうだ?」
ウィスキーにワイン、ラム酒、よく見れば焼酎に日本酒だと思われるビンやビールらしきビンが見えた。
軽く持っているが少し知識があればわかるが上物がそろっていた。
「―――それとも血液がいいか?」
「?!」
「あ、やっぱり反応するんだ?」
男は単刀直入とまでは言えないが、普通に会話をしていたが男は声色を変え一気に深い話に持ち込んだ。
「―――落ち着けよ? 敵意はないんだ。信用しろと言うのは土台無理な話だがな?」
普通の人間に見えるが彼はわたしが吸血鬼だと知っているようで、わたしが何者かと言うように反応する中手を前にだし否定するように左右に振った。
「―――腹減ってないか? 普通の食事もあるぞ?」
「―――目的は?」
「―――」
拘束こそしているが敵意はないと言うのは本気のようだが、わたしは信用できずに質問したが、彼は考えるようなそぶりを見せた。
信用できないのは当然でわたしには狙われる理由は存在しないのだ。
お前は吸血鬼だろうがと言われるかもしれないが、噛まれてなったわたしが言う資格はないと思うがわたしたちにはわたしたちの規則が存在し、人間間との一種の不可侵条約と言うものも千年以上前に制定されている。
多くの人間は文明を発達させた中で知らないし、事実を知る人間や協力者は減少しているが一応は存在し、彼らは殺人と言った大きな事件でない限りは動かないし、第一立場的にわたしに情報が渡らないのは奇妙なのだ。
ヴァンパイアハンターと言われる存在が無いかと言われるとないわけではないが、当時と言い最近と言い協力者も減り、吸血鬼の問題は吸血鬼で始末をつけると言う暗黙の了解も存在し、同族の始末が一般的になっている。
人間も人間で文明発達の関係で忙しく、わたしたちは人間の文明を真似ている状態で、人間は人間で同様に問題が起きたら人間で解決すると言う暗黙の了解でできているのだ。
彼はハンターのような協力者でもないし、彼らにはわたしを拘束する必要はないし、何かを知っていてわたしたちに聞きたいことがあるが、問い合わせる手段がないための強行手段をする謎の存在だと言えた。
「―――」
「―――ぁ?」
「―――目覚めたな?」
男が考えていたが、口を開きかける中でもう1人姿を表した。
男と似たような恰好で同様にサングラスをかけコートは着ていないが首に白いマフラーをかけていた。
男の背が170Cmほどだがもう一人は185Cmほどもあり、機嫌が悪そうな顔でドアを勢いよく開けて大きな足音を立てて近づく様子と言い、男と違い対照的に全く友好的に見えなかった。
話す言語も英語で、肌も白人なのか白く、細身の男だった。
「―――?!」
「ょせ………」
よせ止めろするなと言うような言葉をしてもこいつはすると言う状態で、もう一人はわたしの首を勢いよく手に取り、男が言ってもダメだろうなと言う物言いの中で椅子に座らされた状態のわたしを持ち上げ宙に浮かした。
だれがどう見ても機嫌が悪いと言う状態で、猛獣のようなうなり声を出し、本気で食い殺す気かと疑うほどにも感じた。
「お前の仲間の人口、ここでのな? それとできる限りでいいから住所などの個人情報、お前たちが言う協力者の情報を教えろ。」
「―――簡単に吐くと思うか?」
「―――お前な?」
目的は何かという質問に対してもう一人が半場逆に質問を返すことになった形になるが答え、男が機嫌が悪そうなもう一人に対して無理だからやめろと言うように言い、もう一人は言いながら一応はと言うように手を離した。
離したと表現したが、持ち上げられた状態で勢いよく落とされる状態となり、衝撃が足元に響いた。
男の方は日本語でわたしと話したが、もう一人と話す時は英語だった。
「―――そいつの言う通りでな? シカゴに在住しているヴァンパイアの人口、住所などの個人情報、協力者の情報が欲しいんだ。」
「―――」
「―――ただとは言はない。そちらの応じる額を払う。」
落とされて衝撃を受けているわたしを半場放置しているようにも感じるが彼は言葉を続けた。
「―――――あなたたちは………?」
「―――悪いが言えないんだ。」
何者だと聞く暇もない状態で男はすばやく返した。
「―――敵でも味方でもない―――」
「―――?!」
「―――正義でも悪でもない―――」
何にしてもわたしは誘拐されて、吸血鬼の情報を正体不明のだれかから引きだされようとしていることは明確だと思う中で、男が口を開いた。
「たとえて言うと、調節者だ。」
「―――バランサー?」
「―――フン。」
何のことだと言う思う中で彼は間接的にだが身分を名乗り、わたしがいったい何者かと口を開く中で、もう一人の男は気にくわんなと言うように鼻を鳴らした。
荒木とパールと言う2人が現在に姿を表したが、彼らは紛れもなく2人ではなかった。
ハロウィンの悲劇までの5日間ほどわたしはこのバランサーと名乗る人間たちに監禁された。
『悪用は絶対にしないと思うし、俺たちは雇われているだけで、ヴァンパイアが本当にいると言うのも半信半疑だった。』
『お前が無理なら上の方にかけあってくれないか?』
『情報提供した場合の支払いは現金以外に金のような貴金属や宝石、―――油田の権利はダメか?』
男の方はと言えば友好的に話しを進めようとしてきたし、無理なのはわかっているが何とかできないかとわたしに何度も言った。
もう一人はと言えば何も言わないが吐かないと口に手を突っ込んで内臓全部引っ張り出してやると言うか、やりかねないほど機嫌が毎日悪かった。
2人は対照的だが合わせて統制した反応で、数時間後開放こそされなかったが食事時や寝る時、トイレ以外などは手足の拘束を外されある程度は自由に動けるようになった。
左横のドアはトイレでバスルームとシャワーも存在し、わたしは5日以上監禁されたが食事も与えられ、苦しい生活は送らず、身体的に逆に健康な状態で帰ることになった。
『やつらがかぎつけてきたら厄介だろうが?』
『信用できるか?』
『―――あいつ連れて帰った方が堅実だろうが?』
男の方はわたしの事情も知っているし、円満に話を進め、すぐにでも開放したいと言う気配があったが、もう一人はと言えばここで情報を引っ張り出すと言うように男とは対立している様子がドア越しに漏れた声からうかがえた。
声から情報をある程度は読み取ったが、わたしは何にしても彼らが話した調節者と言う情報以外は情報を得ることはできなかった。
2人は話し合うが、もう一人の男が兄弟を意味する「ブロス」と呼ぶ以外お互いに名前を口にせず、男は相手の名前を呼ぶ気配を見せなかったが、わたしは彼らに対してあることに気が付いた。
彼らが軍事的な訓練を受けた人間であることで、彼らの言葉は英語だが普通とは異なる言い回しや、他国の言語もあるが、歩く時と言い身体の動きに独特の間合いと言うか訓練を受けた相応の癖が存在した。
部屋の向こうでは音越しによくそれが確認できたが、男の方はと言えば、心を入れ替えて接触したいのか、入る寸前に故意にあくびをすると言う動作が見られた。
何が起きるにしても結果としてわたしは何にしても最終的に5日間監禁されたが、一番と言うか監禁されたら毎日でもあるが、記憶に残っていたのは3日目の女だ。
1日目の夜明けは彼ら2人で、2日目はもう一人の男が話すまで絶対に帰さんぞと言うようにわたしの前に座っていた。
背丈が高いが男の影響を受けているのか話すと少しだけ日本語を理解し、わたしの前であぐらをかいて座っていた。
もう一人も口は悪く、機嫌も悪く、対立しているように見えたが、トイレの時などにも乱暴だが拘束を外し、人道的配慮が存在していたが、彼女は違っていた。
最初は紹介で、次はもう1人、次は再び彼の番かと思い、3日目の朝彼が姿を表し、軽くだが話した後部屋を出て行き、昼の時で彼女が姿を表した。
この時と言うか彼が実は部屋を出ていく時実は少しの間休むと言い、勝手な真似をするなと言われ、仲間に怒られたくないと言い、拘束してわたしはいすに座らされていた。
怒られたくないと言う時の彼の物言いは少し悪いことをして怒られないかと心配する子供の様で思わず笑い、彼は苦笑いだが合わせるように笑っていた。
彼も仲間と対立しているし大変だなと考えもしたし、必要最低限の食生活で尿と言い出るものも出ない雰囲気で緊急で呼び出す必要もないし、嫌味っぽいがもう一人もいるだろうしとわたしは非常事態の中で少々不謹慎だが安心していた。
「―――?」
安心していた中での不意な2人のどちらとも違い軽く、踊るような足取りで、何かと思う間もなくドアを開いた。
「はぁ~い?」
ほかに仲間がいてもおかしくはないが、彼女は彼らとは違う人間だった。
彼らと違い軍人と言う雰囲気は感じられず、男と同じ、言わばわたしと同じ日系人だが、どこか日本人らしくない、ハーフのような雰囲気を持っていた。
2、30代ほどでナチュラルなメイクを少しだけしている様子で、服装も少し華美な赤い色のドレスのような姿で、現在のパールと言う調節者とまったくは違っている雰囲気の女性だった。
「―――フフ? はじめまして?」
「―――――」
2人と違いサングラスもかけておらず素顔で警戒心のかけらもないが、わたしはこの女性に対して何か嫌な気配を感じたと言うよりもこの気配と言うべきか、嫌な予感は的中した。
「―――と言うよりもひさしぶりと言うべきですね?」
外見的には大人だが声色や話し方、動きは子供のように少し幼い印象で、軽い動きでわたしの後ろに回り、腕を前にまわし、後ろから抱きしめてきた。
抱きしめたとは言うが、腕を前に回してきただけで、身体を密着させることはなかった。
「―――」
彼女は顔も体型もいいし女性としては美女に相当している。
何の話かと言えば、普通はそんな女性に後ろに回り込まれ、後ろから抱きしめられたら、普通はだれであろうと男はうれしいしよろこぶものだが、わたしは非常に強い殺気を感じた。
行動や状況的に2人の仲間だと思われるが、何かがこの女は違い、わたしの身体からは寒いのにも関わらず少しだけ冷や汗のようなものが身体から流れ出していた。
「―――ひさしぶり………?」
「―――覚えてないんですね~?」
物言いは本当に子供のようで、わたしが何のことだと言う中で、女性は少し残念だと言うような反応を返した。
「―――まさか―――」
「―――正解です♪」
あの時襲おうとした女かと思い質問しかける中で彼女は解ってもらえてうれしいと言うように返した。
「それよりいつまで意地はっているんですか~?」
「―――意地?」
「悪くない取引だと思いますよ~?」
本格的な確認をしようとする間もなく女性はここに来たのは別の目的だと言うように口を開き、わたしは彼女の殺気を感じつつも、彼女を襲う直前のことを思い出した。
振り返った時彼女の口元が見え、彼女は不敵に笑っているように見えたことを、急に意識が途切れたことと言い、わたしの記憶は少し直前の記憶があいまいになっているようだった。
「―――普通殺すならわたしたちが皆殺しにすれば早い話なんですから。」
「―――」
「黙って言うとおりにしてくれません?」
わたしが記憶の整理をしていることも知らずに女性は言葉を続けるし、あの不敵な笑みを浮かべて話しているような物言いとも言え、わたしは何にしても冷や汗が流れていた。
あごやほほ、耳と顔をなで始めたが気分はよくもなく、文法的には矛盾するがこの女性には紛れもない隠し切れない殺気が身体の中に潜み、身体からあふれ出てわたしに恐怖感を与えていた。
話し方も子供が親や大人に頼みごとをするような物言いだが、物騒を通り越して狂気的だった。
彼らは当時の時代や情勢、状況的に判断して裏に円満な資金を持った組織が背景に存在し、わたしたちのことを探索しているようだった。
「あなたは………いったい………?」
状況的に考えられるのは女性は2人の仲間で、スポンサーかスポンサーの代理人だと思え、わたしは恐怖を何とか抑え、荒ぶる呼吸を出しながら女性に質問した。
「ん~? わたし~?」
「―――」
「わたしはね~? 彼の愛人、と言うか恋人~。」
人間ではない感覚の性か、彼女の子供のような物言いもあり、拘束されたことも影響しているのか、わたしは心臓の鼓動も高まり、確かにこの女性に対して何か底知れぬ恐怖感をわたしは感じていた。
彼女はと言えば後ろは見れないが、満面な笑みを浮かべてそうな物言いだった。
「保護者って言う方が正しいかな~?」
「恋、人? それに保護者?」
彼とは言うが背の低い方か高い方がわからないが、男は2人存在し、彼のと言い、彼女は彼らとは言わずどちらかのようで、言った後言葉を付け足すように言った。
「まぁ、そんなことどうでもいいじゃないですか?」
「―――」
「―――敵でも味方でも、正義でも悪でもない、それが彼ら調節者なんですから。」
保護者と言ったが、あの2人どちらも保護者の付き添いのような物が必要な人間にも見えず、言葉の意味も解らないままで女性は話を次へと進め始めた。
「わたしも彼の手伝いをしようと思っただけなんです♪」
「―――手伝い?」
「疲れてるし忙しいし、そうさせたのにはわたしにも責任ありますからね?」
2人自体が何者かわからないのに、彼女の言葉は余計に意味不明の存在に拍車をかけるだけだった。
「―――そう言えばあなたヴァンパイアなんですよね?」
「―――」
深く考える間もなく、単刀直入と言うように女性は聞いてきた。
返事も返せずと言う状況だが、彼らと言い、彼女は知っているのが当然の状況で、不意に彼女の両腕がわたしから離れた。
「―――――!?」
後ろから聞こえたのは静かにだが上品に笑う女性の声と、刃を抜き放ったような乾いた音だった。
人間ではない鋭敏な感覚が、的確な情報を理解させた。
刃の長さは間違いなく30Cm以上のナイフと言うよりも短剣で、女性が扱うには少々不向きな重さと、硬い物でも切れる鋭利さが感じられた。
「心臓に杭を刺したら死ぬって聞くけど、首をはねたらどうなるんですか?」
「―――――!」
言葉にもならない叫びをわたしはあげ、失禁するかと思ったほどで、女性は一瞬だが背中に向けたかと思うと迷うことなく刃をわたしのあごの下に向けた。
「ためしてみたいな~♪」
「―――」
女性はまるで子供が小さい冒険をするような物言いをする中で、抑えるためか刃の平たい部分をあごに押し当てられ、刃の冷たい感触が身体中に広がった感触を覚えた。
「動くと切れますよ~?」
まだ殺さないからここで死ぬと困ると言う物言いで、女性は軽くだが刃を一瞬上に動かした。
わたしの身体は完全に震えていたし、心臓も一生分動くかと思うほど激しく鼓動していたし、後少しで本気で漏らすかと思いもしたし、もうここで漏らしてもいいと思ったしだれも攻めないと思った。
「信用できないのは解りますが、言うこと聞いてくれませんか~?」
物言いは変わらないが、わたしは本当に命の危機を感じた。
この女性は間違いなく本気でわたしが死ぬかどうかを試したいと考えている。
「―――悪いようには―――――」
言いかける途中で不意に前のドアの方で大きい音が聞こえ、わたしは思わずと言うように顔を向けた。
「あら?」
「―――――」
どういうことだとだれかと言うか彼女に教えて欲しかったが、彼女はと言えば来たと言うかのような反応だった。
眼を向けるとドアのノブが回転したかと思うと、ノブから強引に壊したと思うような音が聞こえドアの部品全体が壁から離れ、ドアノブが床に落ちた。
壊れたドアの向こうと言うよりも、巨大な盾のようになったドアを押しのけ部屋に入って来たのは背の高い男の方だった。
ドアは床に倒れ、男の方はと言えばわたしを監視している時以上に機嫌が悪そうだった。
わたしと顔を合わせていた時以上に怒り狂ったような猛獣のうなり声をあげ、わたしと顔を合わせていた時よりも凶暴な猛獣のような顔をしていた。
「―――――」
彼女は普通のことと言うように何も言わなかったが、わたしから見てだけではなく、だれでもだと思うが、彼に不可思議な現象が起きていた。
一言で簡単に言うとサングラスの奥の眼が光っていた。
正確には瞳が光っていたと言うべきで、青白い光で暗闇でも照らせそうな光だった。
『―――何をしている?』
「―――――」
わたしは人間ではなくてわたしが言う資格があるかどうかわからないが、状況的に彼が人間でないのは確実で、この発した言葉が極め付けで、声が奇妙だった。
英語だったと言う部分もあるが、無線機のような機械を通したような声で声に反響のような物と言うか、口と動きが合っていないと言うか、普通の人間の声では出せない現象が起きていた。
声自体も奇妙だが、声を通り越して彼の機嫌の悪さが怖く、わたしはこの方が怖かった。
「―――お手伝いですけど?」
『―――ふざけるな。』
彼の言葉に反応して女性はわたしから刃を離し、わたしが一息を入れ直そうとする中で彼に向かって歩き始めながら刃を収め、質問に対して答える中で、男は余計に機嫌が悪そうな物言いで返した。
彼女も合わせて英語で話していた。
彼女と言い、2人と言い、よく聞くとだが、英語の話し方が奇妙と言うよりもアクセントやニュアンスの違いが多かった。
女性の英語には少し西洋圏、言わばヨーロッパ圏のアクセントが多く、背の高い男は白人に見えるが黒人アクセントが強くて多く、背の低い男には英国貴族のアクセントを強引にだが真似る話し方が見られた。
話す彼女の手に握られていたナイフの刃渡りは思った通りで30Cm以上の長さで、彼女の手の動きから見て少し重たく造られ女性用には到底見えない戦闘用だった。
状況的にあの男は貸しそうにないが、あの背の低い男が持って使うのかと少し疑った。
『―――それになぜここにいる?』
「許可なら取りましたよ?」
彼女が自分のことを彼の愛人だの、恋人だの、保護者だとも言ったが、この背の高い男は保護者的立場なのかと思うような会話で、お互い知っているが、仲のいい感じには決して見えなかった。
男も人間離れした行動や言動もあるが彼女にここにいるのが嫌な様子だったが、女性の方は背の低い男のか許可を取ったと言い、わたしはここにいてもいいと言うように平然と言葉を返した。
『出てけ。』
「―――相変わらずですね?」
男は後ろを指さし、首も動かし女性に対して言葉通りに部屋から出るように指示し、女性はと言えば男性を見下すような物言いで返した。
『出てけと言ったんだ。それとあいつはどうした?』
「休んでますよ?」
『―――――なるほどな?』
お前は大嫌いだと言うような言い方で、背の低い方はどうしたと言うように聞くと、女性の方は言葉通り向こうで休んでいると言うように言い、男は納得したと言うように言った。
『―――』
「―――?」
『―――ナイフをよこせ。』
何にしてもだと言うように男は女性の前に何かを出せと言うように手を前にだし、女性が何か渡すものがありましたかと言う反応の中で男はいい加減にしろと言うように言った。
『お前は信用ならん。』
背の低い男とどういう関係かわからないが、男と女性は仲が悪く良好な関係では無いようで、ナイフをよこせと言った通りに手を軽くだが出せと言うように動かした。
「―――――わたしの物でもあるんですよ?」
『出てけこの淫乱女神!』
確かに現状的に考えて彼女よりかは彼が持っている方が安全だと言う状況だが、女性が軽い気持ちでと言う状態で言い返した中で、男のどこか何かの感と言うか龍の逆鱗に触れたようで、男は大声で怒って返した。
怒り狂った猛獣のようなうなり声をあげ、部屋の外を指さし、一瞬即発と言ってもおかしくない状態だった。
「―――――わかりました。」
声におどろきもう何が起きるかわからないわたしは脅え目を反らすしかできない状況の中で、女性は言うとわたしが少しだけ眼を開いてみる中で男にナイフを渡して部屋を出て行った。
『―――――万年発情期のサディストが?』
男の機嫌の悪さは最高潮で、出て行った後吐き捨てるように言うと後ろの壁を勢いよく殴った。
「―――」
「―――おい? 大丈夫か?」
普通の人間が殴った程度では少し大きい音が出る程度だが、男が殴った場所はだれが見てもハンマーか何かで叩いたように壊れ変形していた。
男は何にしても言うような様子で、眼の光が消え、わたしに近づいてきた。
「―――あの女に何もされなかったな? 大丈夫か?」
「―――――はい。」
この時ばかりは彼は非常に優しく見えた。
わたしの前で膝をつくとサングラスを外し、わたしを気遣うように話しかけてきた。
サングラスの下は普通の眼で顔立ちや肌の色は白人だが瞳が少し大きいが色はわたしや背の低い男もだと思うが、同じ茶色だった。
「―――何にしてもだ。楽にしていい、待ってろ? 拘束を外す。」
「―――」
「トイレ行きたくないか? 大丈夫か?」
言いながら彼は拘束を外し、わたしは解放され床に勢いよく倒れ一息吐き出す中で、男は気遣うように聞いてきた。
わたしは思わず先ほどの女性のしたことを思い出し、恐怖感がこみ上げて勢いよくトイレへと駆け込んだ。
この日は1929年の10月26日で、悲劇まで4日、これはわたしの目線での意見だが、これは始まりにしか過ぎなかった。
何にしても背が高い男は女性が来た時は優しくはしてくれたが、結局はと言えば失礼だがその後の反応は一切変わらず、助けた後も2日め同様な反応だった。
4日めこと27日に彼こと背の低い男が再び姿を表した。
訓練を受けたと思われる独特の間合いの見られる動きにドアを上げる直前にするあくびと言い、紛れもなく彼で、ドアを開けてわたしに対して声は出さなかったが気軽に話しかけるようなそぶりを見せた。
「―――」
「―――あの?」
「―――何?」
言うことはもうないし俺はお前を解放したいが仲間が聞いてくれないしすまないなと言う顔は男はしているし、食事と言い酒と言い、彼は相変わらずわたしを大切な客だと言うように丁重に扱った。
これからどうするかと言う顔もしている状態で、時折室内を考えるような素振りで歩き回っている中でわたしは彼と話すことにしたと言うよりも、思わず気になることが、昨日の彼女のことが気になり話しかけてしまった。
怖いもの見たさと聞きたさと言うべきで、昨日突然現れた彼女が何者か少し気になり、時間つぶしにもなると思ったのも事実だ。
「―――昨日ここに来た女性のことなんですが………」
「―――――ぁ~~~」
聞かれると困ると言う反応で、顔に書いてあると言うか文字が浮き出そうな困った表情をしていた。
「―――あなたと、交際しているとか、聞きましたが………?」
「―――――――――」
「あ? いやなら答えなくていいです?」
だれが見てもお願いだからそれだけは聞かないでほしいと言う反応で、何も言わず頭を抱えだし、わたしはまずいなと言うことを察してすぐに話さなくていいと言うようにすぐに返した。
何にしても彼の触れてはならない部分に触れたようで、何も言わないが、頭を抱え、彼の顔は少しだけだが引きつっているのが見えた。
「―――まぁ、そう言えると言いますが?」
「―――?」
「―――オレが悪いと言うべきなのか………」
少しだけだが彼は彼女との関係を話した。
否定も肯定もしないと言うような物言いで、言葉的に彼は何か彼女に対して何か悪いことをしたようだった。
「―――責任と言いますか………」
「―――――」
「―――すみません。やっぱりだめです。」
わたしから眼を反らし、話すべきか迷っていると言うよりもどちらかと言えば自責の念と言う意志的なものが感じられた。
わたしが聞いている中で、彼は少しだけ話したがこれ以上は話せないと言うように言葉を返した。
「―――――」
「―――それよりも、何か変なことされませんでしたか?」
2人がどういう関係かわからないが、わかるのは女性は背の高い男とは仲が悪く、男性は目を反らす反応と言い、女性の言葉と言い、何らかの深い関係なのは確かなようだった。
2人の関係は言うまでもなくわかる状況だが、男が話題を変えようと言うように言葉を振って来た。
「―――すみません、彼女、ちょっと、凶暴と言いますか………」
「―――」
「いや、こうなったのはオレが悪いと言うべきなのか―――?」
男の物言いは途切れ途切れになっているし、眼が泳いでいるし、顔も少しだけだが引きつり、頭を抱え困ったなと言うような反応を見せ始めた。
「―――そ、それよりも、何とか例の件何とかならないか?」
「―――それは―――」
「―――そうだよな………?」
何にしてもわたしは彼らに拘束されわたしたちの情報提供を求められている状況で、人質のわたしは情報提供のために誘拐された人質だ。
誘拐された身だが、彼らは雇われたと言い困っていると言う様子で彼らが不憫にも思え、別に情報を与えてもいいのではないかとも考え始めていた。
強盗と言った犯罪の現場に遭遇した被害者が恐慌状態の中で共犯者へと変貌する状況、後の世にストックホルム症候群と言われる状態になっていたのかもしれないが、どちらかと言えば一種の同情だと思って現在は半場強引に正当化している。
彼らはだれかに雇われている上残り時間が少ないようで、わたしも噛まれて吸血鬼なった身として結構職場で差別を受けている身で上下関係や格差差別と言った事情も痛感し、逆にお金も出すと言っているし、協力してもいいのではないかと考えていた。
問題はわたし自身と言うか個人ではいいが本題は情報を管理する上層部の方で、正体不明の2人と言うか3人に情報を信頼もなしに渡すわけにもいかないだろうと言うことだ。
わたし自身を解放すれば約束を破られた上に報復される危険もあり、長く拘束していると発見され報復を受ける可能性も存在し、彼らもわたしも理解しているが、ふくろこうじだし、危険な橋を渡っている状態と言えた。
報復され運よく生き延びたとしても情報が手に入らなければ最悪給料をもらえないと言う、踏んだり蹴ったりした上殺されるかもしれないと言う状況で、わたしたちは状況的に中間的に時に立っていた。
返答に困ると言うような反応の中で男は気を落とした反応を見せた。
時の経過は速いもので、27日が終わった。
28日早朝になると背の高い男が新聞を読ませてくれた。
女性がおととい現れた後機嫌が余計に悪くなったように見えるが、待遇はなぜか改善し、タバコや酒、食事も持ってきた。
彼が全く持ってこなかったわけではないが、少しだけ量が増えていた。
物言いも背の低い方と比べると少し悪いが、何とかならないかと言うような柔らかい口調へと変化していた。
彼の反応が変化したこともある意味感謝すべきだが、肝心と言うか問題はわたしの方で、わたしは新聞にわたしを探していると言う小さい記事を発見していた。
『―――人を探しています。
名前 オオノ イリヤ 性別 男性 人種 黄色、アジア系 年齢35歳
23日の夜以後の消息が分かりません。』
よく考えると誘拐されて3日以上も経過しているし、表向きの仕事もあるし、ツバキもいるし届の類が出るのは当然だが、届は何を考えたのか上層部の人間たちが出したようだった。
事実記事にはわたしたちにしかわからない証明の印が押されていた。
『―――あきらめて開放するべきだ。』
『―――ほかに方法があるか? 人質を増やすか? 強襲して奪うか?』
『―――ここもすでに知られている可能性もある。』
夜になると男2人が言い争っているのが聞こえた。
29日の朝は2人合わせて外出すると言い、部屋の外から鍵をかけられ、窓もトイレの方も鉄格子まで設置され出ることはできなかったが、拘束を外されある程度の食事と水、新聞や雑誌と自由が与えられた。
本当に外出するようで部屋を出ていく音が聞こえた。
室内に対して感覚を研ぎ澄ましてみたが人の気配は全くと言っていいほどになく、あの女性もいないと断定できた。
思えばこの時助けを呼べばよかったと言うよりも、わたしは安心しきっていたし、この後と言うか31日に死んだ彼女に対して失礼だがツバキの性だ。
「―――?」
昼下がりと言える時間ごとのことで、床に座ってわたしは科学雑誌を読んでいた時だった。
科学雑誌と言えば新聞と言い大量に置かれ、食料も少し多めで、太らして食べるのではないかと後で考えたほどだった。
「―――?」
「イリヤおるかい?」
「―――ぅわっ?」
窓が叩かれる音が聞こえ、鳥か何かでも叩いていたり、だれかが小石でも投げたのかと思い窓に近づいた瞬間、上からツバキが笑顔で逆さ向きに現れたのだ。
よく考えると当然だが、わたしたちの身体の感覚は普通の人間よりも強靭であり鋭利であり、野性的で仲間を探すなど簡単で、見つけるのが逆に遅い方だ。
「おまんよぉおどろくなぁ?」
「―――ツバキ―――」
「―――こないなとこでなにしよん?」
おどろいて一気に後ろに下がる中であいも変わらずな変な方言交じりの日本語で話しかけてきた。
「―――誘拐されているんです。」
英語なりほかの言語で話せば外見相応の美女だが日本語で話すと本当に変で、わたしは笑顔のツバキに対し、英語で答えを返し、説明を始めることにした。
ツバキはと言えばこの現状にもかかわらず落ち着いた笑顔でわたしの話を聞き、わたしは一度本気で殴ってやろうかとも思ったが、見捨てられると困るで我慢して説明を詳細にすることにした。
本気で捨てられることはないとは思うが、機嫌を損ねると本気で何をするかわからないことは吸血鬼にされた時に実感済みであり、話しながら心の中で殴るのをこの時本気で我慢してよかったと思った。
説明を続け、ツバキとわたしとで内容を整理し、一応はお互いに納得と言うか、理解できる状況になった。
「―――と言う訳なんです。」
「―――奇妙な話ね~?」
説明をある程度受け、わかりましたかと言うようにわたしが言うと、ツバキも案の定と言うような言葉を返した。
「―――わたしも要求をのんだ方がいいと思うけど、上層部が納得せんのよね~?」
「あなたの言う言葉ですか?」
わたしとツバキは何にしても少しの間話した。
「―――何にしても、上に報告してくるね?」
少しの間話していたが、ツバキはそう言い不意に帰って行った。
わたしもわたしで、外見とは裏腹にこの程度の場所なら簡単に壊せるし怪物に変身できる力も持っているが、普段使用しないので忘れていたと言うか、この数日の暮らしが普通だったのでつい忘れていたと言う状態だった。
ツバキは何にしても状況を仲間に知らせるとわたしは考え少し安心していた。
帰る間際に放ったツバキの何気ない一言が、わたしの聞いた彼女の最後の言葉になった。
2人はと言えばこの日は帰らなかった。
帰ったと気付いたのは次の日、30日の朝で、調度5、6時ごろだった。
『―――』
『―――』
勢い良くドアを開けた音が聞こえ、異様に慌てた様子で部屋の中に入り、2人は本気で慌てているようだった。
『―――急げ(ハーリー)! 行け行け行け!(ゴーゴーゴー!)』
『―――手紙遅れ手紙!』
『証拠残すな!?』
室内が揺れるほどの勢いで、朝から近所迷惑と言う状況だがわたしは文句も言えず、言えないと言うか、この後すぐにわたしは実は解放された。
「―――あ、おはようございます。」
「ああ、おはような?」
「―――どうしました?」
2人の勢いで眼が覚めたわたしは動き始め、9時ごろ背が低い男がドアを開けた。
かなり慌てた様子が見て取れ、鍵をかけた扉の前で5、6分ほど開かないと悪態をついている状態で、吹き飛ばすような勢いで開けたが、わたしは何にしても平常にあいさつした。
「―――状況が変わった。お前を解放する。すぐに仲間にお前が無事だと通達してくれ!」
「―――――」
「―――オレたちはお前らにもう関わらないし、金もくれてやる。交戦だけは避けたいんだ。」
扉の向こうではもう1人だと思うが室内で暴れる音が聞こえ、わたしのどうしましたと言う言葉もあるが、男は勢いよく近づいてくるとわたしがおどろく暇もなく口を開いた。
「―――っと?」
手荒なことをされたかと言うと3つで、1つめは誘拐されたこと、2つめは拘束されたことで、3つめはこの時強引に二の腕をつかまれ引っ張られたことだ。
この後は何か言う暇もなく、背の高い男は何がしたいのか室内で書類か何かの処分をしているのか火を燃やしたり、室内を壊したりとしていた。
背の低い男はわたしの私物を返すと言うようにわたしだし、ほかにも土産だと言うように言われ異常に重たいケースを数個ほど渡され、意味も解らないまま部屋の外に出された。
「ここ出て左にまっすぐ行って30分ほどでよく知った道に出る。悪いと思うが送り迎えはできない、―――すまん、この5日間。」
部屋を出て思わずいいのかと思い振り返ると男はかなり慌てた様子だしいいから行けと言うように指で左を指示して言い、言い終えると少し一息吐き出した。
『―――まずい、まずい、まずいぞ?』
小声で息を切らしながらだが、確かに彼はそう言った。
「―――おい! 手伝え? この後ほかのやつらに伝えに行くんだぞ?」
「わかってる! 左はオレがやる! すぐに行く! そう言うことだ。すまん。」
「―――」
何かと思う暇もなく背の高い男が室内から呼びかけ、男は返事をして言い終えると扉は閉じられ、鍵のかかる音まで聞こえた。
「―――――」
室内では2人の動き回る音が聞こえた。
言った通りにしていいのかと言うようにわたしはドアに背を向け歩き出したが呼び止めるような声もなく、わたしは歩き出した。
建物を出てよく周りを見てみるとわたしが住んでいる場所から少し離れた場所で、すぐにでも戻れる場所で、わたしは何にしても戻ることにして、30分ほどして仲間に保護と言うか、話しかけられ連行された。
わたしは簡単に言うと吸血鬼たちと言う社会の雑用係で強い権限は持っていないし、彼らが何者かもわからず敵として認識されるのは当然だし、到着するとすぐに彼らを総攻撃する話が進んでいた。
これが悲劇の始まりと言うべきだ。
場所も解っていたし、話はすぐに彼らを殺すか生け捕りにして情報を聞き出すと言う方向になった。
否応なしにわたしは彼らがどこにいるのか聞き出され、わたしは話し合っている仲間たちからある言葉を聞いた。
『ほかにも仲間がいる。』
『話がうますぎる。』
『一部の協力者の過激派だ。』
わたしは見ていないがほかにも仲間がいるようだった。
話しも事実うますぎ疑われるのも事実だが、わたしが帰り際もらったものをこの時開いていなかったが、後に金塊が入っていたとわかり現在でも物議を呼んでいる。
協力者の中にも独立したり、一般人の中で吸血鬼を見つけ、根絶に動く組織が結成されることもないわけでもなく、戦闘は避けられない状態になっていた。
念入りに危険だと言っても聞かなかっただろうが、なぜ言えなかったと後悔することは多く、わたしは1929年の10月31日のことを思い出して深く後悔する。
あの3人は普通の人間ではなかったことは明確だったが、わたしたち事態が普通の人間ではないし、一種の優位性と言うべきか、優越感と言うべきか、偽装とも考えられ、その時返り討ちと言うか戦闘が始まった。
時間は午前1時ごろで同行も求められ、幸か不幸か、背の低い男がなぜかわたしが監禁されていた場所の少し遠くの外を出歩いていた。
『ほかにも仲間がいる。』
だれかが言ったが、これが事実なら遠くの仲間に会いに行っていたとも推測され、彼は歩きながら何度も後ろを見たり左右を見たり、急ぎ足で歩き、だれが見ても挙動不審にほかならなかったし、仲間もだれかと聞くまでもなく彼だと判断した。
わたしたちのことをどこまで知っているかわからないが、時折上の方にも眼を向け気を配っている状況だった。
「おいお前。」
「―――――」
「そこの黒いコートを着たお前だ! お前以外にだれがいる!?」
1人が勢いよく大きい道に出ると男を呼び止めようとしたが振り向かず、次はと言うように細かい特徴を言って呼び止めた。
「―――――」
「―――そうお前、逃げるなっ!?」
オレのことかと言うように振り返るが、言葉の途中で男は勢いよく逃げ出した。
この後数分後にあの悲劇が起きた。
男は走る速度自体は遅いが、ここら一帯の地理を覚えているようで、半場自然のけもの道と化した道を走り抜け、途中でコートの端が道の突起に引っかかり破れたが、わたしたちから見事に逃げのがれた。
後に調べたが彼の着ていたコートは英国の大手老舗ブランドメーカー製の物だった。
「―――――ック?」
普通の人間ではないのは知れたがわたしたちには敵わないようで、数分後には包囲されていて、確認するように立ち止まり振り返ったが、すぐに進行方向の狭い路地に向かって走り出した。
「馬鹿め!? ここから先は行き止まりだぞぅ?!」
先頭の男が男の姿が見えなくなる中で言い走り出し、全員が進みだした時だった。
この男の言う通りで後の調査で分かったがここから先は事実行き止まりで、逃げ場はなかったが、男は見事に逃げられたと言うよりも手助けられた。
「―――――!」
あの女性が姿を表した。
紛れもなくあの女性だった。
男が路地裏に消える中で、最初から立っていてあなたたちを待っていたと言うかのような姿で、不気味な笑みを浮かべていた。
「―――――っ?!」
生物的本能と言うものがわたしを救った。
女性に対する恐怖感と記憶、何にしてもわたしは瞬時の判断で地面に勢いよくふせ、近くの盾になりそうなゴミ捨て場の横側に隠れた。
1秒も経過しない時間のことで、何か先頭の方で、調度あの場所に立っているとするならば頭のあたりから何か変な音が聞こえた。
たとえると調度風が勢いよく吹くような音だと思ったが、音のすぐ後に何か湿った奇妙な音が聞こえ、音が入り混じり余計に変な音に感じた。
何かと思う間もなく、眼を向けようとする中で前を走っていた男の首が地面に落ちた。
落ちたと表現したが、顔を上に向けると男の首から上が存在せず、落ちた頭は間違いなく地面に落ち、身体も遅れて地面に倒れた。
「―――――っ」
悲鳴を上げることも、何も言うこともできなかった。
首から上が何かで切断されたのかと見ている中で、次は前の1人からあの変な音が聞こえ、身体が見事に左右2つに切り裂かれた。
切り裂かれたと表現したが、引きちぎれたような強引に引っ張るような音は一切聞こえず、一刀両断とはこういうことを言うのかと言うような音だった。
何が起きているかわからないが次はほかの人間が上下2つに切り裂かれた。
顔を上に向けたかと思うと2つの眼球が飛び出し、舌を口から不意に出したかと思うと何かわからないが見えない何かに引かれているようで引きちぎられ、何かわからないが頭を抱えて苦しみだすなどと、1人1人違う死に方をしていた。
悲鳴が聞こえ、周囲が血に染まり、わたしが見ている中で女性はと言えば何も言わず笑みを浮かべていた。
『心臓に杭を刺したら死ぬって聞くけど、首をはねたらどうなるんですか?』
『ためしてみたいな~♪』
『動くと切れますよ~?』
地面にふせた時もだが、彼女の発した言葉を思い出した。
「―――――?」
原理は不明だが、あの女性が本当に試しているかと思う暇もなく、悲鳴や身体が切り刻まれる音が聞こえなくなる中で、わたしは首に何か、人の手の振れるような違和感を持った。
「―――っ?! ぐぅ?!」
いったい何だと確認しようとした時、身体が何かものすごく強い力に強引に引っ張られる感覚を得たかと思うと、わたしは身体は宙に浮き首を絞められていた。
「――――――?!」
首を絞められていたと言うのも状況的には実際は違う表現だった。
正確には女性の前にわたしが浮いていて、首を絞められるような感覚が首に起きていたのだ。
苦しくて首を絞めている何かを引きはがそうとするが手に触れる感覚が一切なく、手は首を必死にかきむしっているような状態で、かきむしる勢いで首の皮膚に傷がつきそうなほどと言うか、終わった後赤く染まり、自分のつめの傷跡が残っていた。
「―――フフ?」
「―――」
「―――あと1つ、首の骨を折れば実験終了です。」
わたしが苦しんでいる中で何が起きているのか確かめようと何とか顔を下に向ける中で女性の笑う口が見え、女性は口を開いた。
この時女性は確かに首の骨を折れば実験終了だと言った。
あの時の言葉と言い、考えるまでもないことだが、女性はわたしたちが人間ではないことを知り、どの程度傷つければ死ぬか直に実験していたのだ。
「―――――」
「と、思ったけどや~めた。」
「―――――ぅわぁっ!?」
わたしが最後の1人になるのかと思う中で、女性が手を離したと言うか、首の絞める力がなくなり、わたしは地面に勢いよく落下した。
やめたと言う物言いはまるで別のことに興味を持ち眼の前のことを勢いよく放置する子供のような物言いだった。
「―――――予想通りでつまんないし、やりすぎたらあいつに怒られるし、少しやりすぎたし、彼が泣いちゃう。フフ?」
地面に落下した痛みもあるがわたしは地面に横向きに倒れ、せき込んでいる中で、女性は最初は嫌そうにいい、途中から少し反省するような物言いで言った。
「―――それに。」
「―――?!」
「―――教えておかないとね?」
せき込んでいたが何とか呼吸が落ち着き始めたわたしに対し、女性は手を伸ばし、あごに触れて顔を上に向けさせる中で口を開いた。
「わたしの最高傑作に触れようとした罰ですよ?」
「―――最高、傑作? 罰―――?」
意味の解らない言葉だった。
「脆弱な存在の癖に自らを生物の頂点と誤解する動物の分際でずいぶん勝手なことをしてくれますね?」
「―――」
「それに彼は強引だったけど丁重に持てなして交渉しましたよね? 彼の良心がわからないんですか?」
暴力的ではあるが、あの逃げた男に対しては非常に好意をよせていると言うかひいきしていると言うか、執着していると言う方が正しいようで、最初は笑うような物言いだったが、次第に機嫌が悪い表情を見せ始めた。
『―――いい加減にしろ?』
「―――?!」
背の高い男の声が不意に女性の後ろから聞こえ、女性が振り返ろうとする中で、男の手だと思われる部分が女性の首をとらえ、持ち上げたかと思うと近くの壁に叩き付けた。
『―――ずいぶんとやってくれたなこの淫乱女神?』
「―――正当防衛ですよ? それに、わたしの力ならば問題ないでしょう?」
『―――ふざけるな。』
いつ来てどこから姿を表したかわからないし、近くの壁も勢いで壊れどうなっているんだと思う間もなく、男は女性に対して機嫌が悪そうなと言うよりも怒り狂った獣のような反応で、眼もサングラス越しにだが青白く発光している状況で話していた。
2人そろった時に話した時もだが、男は女性に対し『淫乱女神』と批難し確かに彼女は女性として魅力的には見えるが、彼女が淫乱と言う様子は見られなかった。
女神と言えば一見すると女性をほめるようで清楚な印象だが、淫乱と言う言葉を男は付け加え、少しわたしは疑問に感じた。
神の登場する神話の中には女性の性的遍歴が描かれた話もまったくないわけではないと聞くが、彼女がなぜ彼からそう呼ばれるかは理由は解らなかった。
『―――あいつは、そうか?』
「―――言うまでもないことですよね?」
『―――これ以上オレを怒らせたいか?』
もう一人のことを話しているのか男がため息を吐き出す中で、女性はと言えばわかったことを忘れているならあなたはダメだと言う物言いで、男は女性に対しいい加減にしろと言う言葉を返した。
『―――何にしても、引き上げだ。』
「―――」
『―――任務は失敗だ。』
女性を本気で殺しかねない雰囲気だったが、男は不意に勢いよく手を離し、機嫌が悪そうな物言いで女性に対して文句を言うように言った。
『―――お前のせいだからな?』
「―――――責任転嫁」
『―――やかましい! このサディストが! 後の片づけはお前がしろ! それとこれ以上殺すな!? いいな!?』
女性に背を向ける中で男は一度立ち止まり注意するように言う中で、女性は平然とわたしは悪くないと言うように言い返し、これが本気で男の怒りを買ったようで男が勢いよく言葉を返した。
『―――――Scrap―――』
言うと男は歩き出し、最後に一言悪態をつかせろと言うように言うと、わたしが見ている中で数秒ほどで最初からここにいなかったかのように姿を消した。
「―――大馬鹿デカトカゲ。」
男の姿が消えた後女性はまだ懲りないと言う状態のようで、男が消えると同時に口を開き、物言いに抑揚はないし意味は不明だが何にしても彼を馬鹿にした言葉であることは確かだった。
「―――わたしがこの世に存在すること自体気に入らない癖に。」
「―――――」
状況的に言うまでもないが犬猿の仲と言う領域を超えた関係のようで、何か事情と言うか、あの背の低い男が関わっていると思うがいなければ本気で殺し合いをしかねない関係のようだった。
「―――さ~てか~えろ。」
「―――」
一応は言われたとおりにすると言うように言うとわたしに背を向け女性は歩き出した。
足取りは普通に人間が歩く様子と変わらず、先ほどことなど意にも介さないと言う様子だった。
「―――ま、待て―――」
「―――?」
「―――お前は? いや、あなたは何者だ?」
わたしは彼女を呼び止め、彼女が首だけを振り返らせた中で慎重に、言葉を選んで質問した。
「―――わたし?」
「―――」
わたしの言葉を聞いた女性はわたしのことを言っているのかと言う表情で、少し間を置いたがわたしに対してあの微笑みを浮かべた。
「―――――わたしは神。」
「―――神? どういう意味だ?」
あの男が淫乱女神と言い、意味が解らなかったがここである意味が解ると言うか、女性は自らを神と言うこの場では冗談が過ぎると言うか、意味不明の答えを返した。
「―――ただの神じゃない、わたしは邪神。好きなように嫌いなものを壊して、好きなように嫌いなものを殺して、好きなように嫌いなものを滅ぼす。」
「―――邪、神―――?」
「―――悪魔では軽すぎるし、そして好きなように愛したものに与え、好きなように愛したものを操り、好きなように愛したものを守る。」
わたしが質問する中で女性は答えたがこれは意味不明な回答の続きにもなるが、何か深い意味があるような答えだった。
邪神と言えば唯一神道ではない多神道的宗教に見られる数多く存在する神の中で暴力的であったりするなど、悪い私利私欲と言った傾向の強い神だ。
仏教の神の1人で赤い皮膚に手をたくさん持つ男と言うか少年こと阿修羅も本来その一人だとされている。
邪神とは言うが日本の神道に見られるように悪いものに対して敬服に値する存在として認識し怒りを鎮めるなどと言った理由で信仰することも見られる。
他国でも多くの神話の中で改心し上位の神などの従者や、罪人の処刑人と言った特定の立ち位置では重要な地位の神も存在して、一重に悪い存在とは言えないのだ。
「だからわたしは彼を守ったし、あなたたちを殺したし、彼に持つべき力を与えた。」
「―――――」
「―――だけど彼は、―――止めた、話してもむだ。」
話している途中で少し遠い眼と言うような表情を見せ始めたが話すのを止め再び歩き出した。
無駄と言ったが、彼女の物言いは本当にそうだと言う物言いだった。
「―――答えは出てる。だけど止まらない。」
振り返ることはなかったが、女性は独り言か、わたしに対してか言葉を続け、わたしは意味は解らないが、見る限りと言うか聞く限りでは自己解決できている内容のようだった。
「―――さようなら、運が悪ければ、また会うでしょうね?」
言い終えると女性は歩きながら何か曲名と言うものは不明だが、日本語で歌い始めるような声を出し始めたかと思うとその姿が消えた。
男と同様で、歩いていたかと思うと姿が一瞬で消えて見えなくなったと言う方が正しかった。
「―――――ぁ、ああ? あ―――?」
彼女の姿が消える中でわたしは身体の力が抜けたと言う状態で、身体の力が抜け顔を下に向けるとわたしは現実の事態に返ると言うか、女性のことに集中し過ぎて忘れていることに気が付いた。
地面は大量の死体と血で濡れていた。
「―――――ぅ、ぅぅ、グ―――」
酷いありさまと言う状況を通り越している状況で、思わずと言うように上げた顔の眼が眼を見開いたまま死んでいる1人と眼が合いわたしは吐き気を感じた。
眼とは言うが片目だけで、顔の片方は中心からきれいに真っ二つになくなり地面から顔を出しているように見え、流れ出している血が中心から切られたことを物語っていた。
眼と言うか酷いのが口で、筋肉の収縮や反射の関係か、わたしの気のせいかもしれないが、眼を思い切り見開き、引きつっているが満面の笑みを浮かべているようにも見え、これがわたしの吐き気を余計に増幅させた。
「―――イリ、ヤ、イリ、ヤ―――」
「―――ツバキ!?」
吐き気を我慢する必要などないと言う状況だがなぜかわたしは口元を強引に押させ、胃の中から食道へと逆流し、口の外へと吐き出そうとするものを押させようとする中でツバキの声が聞こえた。
「―――――ぁ―――」
「―――大丈夫?」
彼女の声の聞こえるほうへと勢いよく顔を向けるとツバキはわたしに向かってほほ笑んだが、口からは血を吐き出したのか口の周りに血が見え、彼女の上半身と下半身はきれいに真っ二つに裂かれていた。
「―――ツバキ、ツバキ―――」
わたしは身体に力が入らずうまく歩けていたかも解らない状況だったが彼女へと歩みより、ツバキは表情を崩さず、笑顔のままで片手を伸ばし、彼女の前に来たわたしは彼女の手に手を伸ばし、手を絡ませ、彼女を抱きしめた。
「―――ごめんね? こんなことになって?」
「―――――」
「―――日本から、連れ出さない方がよかったかな?」
彼女の身を案じたと言う部分もあるが、ヴァンパイア化させた吸血鬼と、ヴァンパイア化した相手には、家族とも親友とも、恋人とも言い難い独自の精神的親密な感覚が存在し、わたしは失う恐怖感も同時に感じていた。
この時わたしは彼女の言っている言葉の意味が正確に解らなかった。
フランス語やドイツ語、イタリア語と言った言葉が入り混じっているように聞こえ、似ていてなんとなく理解できたと言う状況だった。
彼女が話していたのは当時と言うか現在は使われなくなった古いヨーロッパ圏の言語の1つで、ツバキは生まれ育ち最初に見つけた母国語が思わずと言うように出たと言う状態だと思われた。
「―――ごめんなさい? だけど、生きて? 人間にしても吸血鬼にしても、何にしても人生は、すばらしいから―――」
「―――」
「―――復讐なんて考えないで? それよりも、仲間を守るために働いて? そう言えば、最近姪が生まれたの? と言っても何年も経ってるし顔も見てないけど?」
言葉の意味は解らず、後で勉強し正確に意味を理解したが、この時わたしは話し方から判断しツバキが重傷を負っているにしてもわたしの身を案じてくれていると思い抱きしめながら次は泣きかけていた。
「セレナーデ、セリーって言うの、入谷? 時折会って―――、お願い、ね―――?」
「―――ツバキ? ツバキ? ツバキ?!」
ツバキが話し方に苦しんでいるような様子はあまり見られず、少し疲れたと言うような話し方で言う中で、少しずつ声が小さくなり、呼吸音が小さくなり、血の流れが止まる中でツバキはわたしの腕の中で死んだ。
顔を見ると眼を閉じ眠っているように見える顔だが、血まみれだし顔色が悪いと言うか死んでいるし血が流れだし周囲の温度も手伝い体温と言うものが低下しているのか顔の色も悪くなっていた。
現在の常識的に言うと想像上の物語のようだが、わたしはツバキが息を引き取る中で、勢いよく空に向かって叫び、思い切り泣き始め、この後気絶したのか、よほど疲労していたのかわからないが、気が付くとベッドの上で眠っていた。
ハロウィンの悲劇はこうして幕を閉じた。
幕を閉じたとは言うが、この事件は吸血鬼や協力者の間で非情なほどに衝撃を与え、千年に一度の大参事へと発展し、調節者と名乗る2人の調査専門部署も立ち上げられ、わたしは代表の1人となった。
わたしにはある意味変に思われるかもしれないが、あの女性のことを思い出す恐怖感からだとも思うが復讐と言う動機が働かず、ツバキの最後に言い残した通り、仲間を守るために働くことにした。
調節者の目的や女性の力や言葉の意味は解らないが、再び原因不明の惨劇をわたしは再び起こしたくないし、仲間に体験させたくないと言うのが心情だった。
事故後にわたしは幼いと言うかまだ赤ん坊と言う状態のセリーの姿と会い、わたしはツバキが彼女を危険な眼に会ってほしくないし、知らないでほしいと言う意志を持っていたと思い、気が付く以前の問題で大粒の涙を大量に流していた。
何にしてもこの後はどうかと言うと、調査は続いていると言うか情報もまったくない状態の進展なしで、あの時から換算して90年以上と言う月日が経過し、セレナーデと再会した次の日に、調節者は間接的にだが、わたしの前に姿を表した。
『敵でも味方でもない、正義でも悪でもない、たとえて言うと、調節者だ。』
時と場所と人物、話す言語や行動、服装は違っていたが、彼らは本名ではないと思われるが確かに自らの身分を間違いなく調節者と名乗った。
名乗ったことに加え、彼らの眼の前には幼いが人とは言えない力を不意に身に着けたと思われる少年少女たちの姿が見え、彼らと言うかわたしも信じられないことにわたしの知り合いが混じっていた。
だれかと聞かれるとこれは現在のわたしの表向きの、言わば人間としての仕事に関係し、わたしは現在表向きには中学校の教師として生活し、彼らはわたしの通勤する学校の生徒でもあり、わたしが担任と務めるクラスの生徒だった。
わたしは考えていた。
ハロウィンの悲劇を2度と引き起こす気はないし、彼らの正体も突き止め、事情はわからないがセリーたち仲間をふくめ、あの子たちも守らなければならないと思った。




