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ミネルヴァの憂鬱  作者: 杉紙
11/18

11話

まだ詰めが甘い気がしつつも長い事塩漬けにし過ぎたので、いい加減出さねばと微調整(塩抜き)して投稿。何か見つかれば適宜修正します。


「それじゃあ、きよかちゃん連絡先交換しとこうよ」

「あ~、連絡先か……」


 その言葉に、傍らの従者について秘匿すべきだったことを思い出して口ごもる。


「……もしかして端末持ってない? べつに後で兄さまから伝えてもらえれば間に合うけど……」

「いや、忙しい人なんだろ?そんな使い走りみたいな真似は」


『きよか』

「!?」


 不意に割り込んできたイケメンボイスに思わず肩が揺れた。心臓に悪いタイミングだ。

 博士から借り受けたこの浮遊機動識は、ステルスモードで待機させていたにも関わらず独自判断で会話に参加してきたのだ。


「この声は……」

「あっ、いやその、さくらさん、これは」

『望月博士の妹君ですね。お初にお目にかかります。私はきよか付の浮遊機動識。

 形状は初期設定(デフォルト)。名前はまだありません』


 なんか勝手にステルスも解いて名乗り始めている。その言い方、どこの猫だ。


「おおっ、君が噂の浮遊機動識くん!兄さまからちょっと聞いた事があるけど、見るのは初めてだよ」

『後日、然るべき時に望月博士からお話があることでしょう』


 機密に近いって聞いた気がするんだが、簡単にバラしちゃって良いのか?身内だから??


『望月博士から許可はいただきましたので、手短にお話いたします。きよかは私を使い始めて日が浅く、まだ機能の大半を把握しておりません。宜しければさくら様からもきよかへアドバイスをいただければ幸いです』


「兄さまから……きよかちゃんて、一体」

「いやその、なんというか成り行きでテスターを依頼されたというか」

「まぁいいや、浮遊機動識があるなら話は早いよ」

「へっ?」


 さくらさんは特に気にした風も無く何か納得したような顔をしている。

 いつどこから来たかもわからない人間に最新鋭の機器を使わせている兄に対して、何か思う所は無いのだろうか?


「兄さまから聞いた範囲だけど、新型の識……識っていうのは私たちが使っている携帯端末の事なんだけど」

 そう言いながら小さなカードのようなものを取り出すさくらさん。

 そういえば。食堂で何かの機械に、それをかざしていたのを思い出した。

「この(しき)って言われてる端末はね、従来の携帯電話みたいな音声・文書通信に買い物での支払いとか、施設毎にあるようなターミナルに繋げばあらゆる接続環境に対応して、それこそ全てのアドレスへアクセス出来る。それに加えてとても高度なセキュリティーに守られた個人情報が入ってて、契約に必要な身分証明なんかもこれ一つで出来るんだよ。失くしても本人以外には絶対に使えないから、本社の認証データと照合すれば作り直す事も割と簡単だし。

 きよかちゃんの持ってる識は、総称して浮遊機動識って呼ばれてる最新の識なんだけど」


「……はい」

 さくらさんの解説に圧倒されて思わず敬語が出てしまった。


「そういう基本的な機能に加えて、自律機構……高度なAIを積んだ、より強力に所有者をサポート出来る識を開発したんだっていうのが兄さまの話でね。簡単に言えば、ものすごく高性能なパソコンと屈強なSPを足して携帯出来るサイズに整えてみましたって感じ。

 きよかちゃんは、あまりこの都市のこと知らないみたいだし、兄さまも心配して持たせてくれたんじゃないかな」


『仰る通りです。私はきよかの生活全般をサポートする為に存在しています。

 では、連絡先の交換をお願いいたします、さくら様』


「マスターを置き去りで話を進めるとか、自律の度合が半端ないなお前……」


 さくさくとアドレスを交換し、どこか満足げに浮遊機動識は再度ステルスモードでの待機状態になった。

 勝手にやって貰えるのなら確かに便利なのだろうが……やはり俺も色々覚えなくては。


「そういえば、時間は大丈夫?」


 さくらさんに言われて思い出す、次の職場候補の面接予定時間。

「あ、ああ。聞いた時間だとそろそろだったかな。……けどこの騒ぎじゃどうなるやら」

 光は収まりつつあったが、依然として周囲の空気もまだ緊張を漂わせている。

「そうだね、確認の連絡はした方が良いんじゃないかな」

「そうか。俺も抜けてるな……ありがとうさくらさん」

「いえいえどういたしまして―――……ん?」


 今しがたの騒動の余韻と次の予定に気を取られていた俺は、さくらさんが首を傾げた事にも、自分の言動にも注意を払えていなかった。


「おれ?」

「ん?………―――あっ」


 まずい、一人称直すの忘れてた……!


「はぁ~、なんとなく話し方がぎこちないな~って思ったら。

 きよかちゃんは(おれ)()だったんだね」


「あ―――………」

 そういう解釈で来たか。

 ともあれ、あまり突っ込まれるのもよろしくない。


「昔からの……癖なんだ。直そうと思ってるんだけど」

「そうなの?でも似合ってるよ、きよかちゃん凛々しくてカッコイイから」

 苦し紛れの釈明であったが、さくらさんは特に怪しむ様子も無いようだ。

 というか逆に妙な方向で褒められて痛い。心が痛い。


「と、とりあえず今日はこれで!また明日……で、良いの、か?」

「ふふ、わかった。また明日ね」


 少し悪戯っ子のような笑みを浮かべるさくらさんを置いて、俺は足早にテラスを後にした。

 背後の方から「か~わいい~」などという声が聞こえた気がしないでもないが、無視した。




「それで、次の予定なんだが」

『はい、きよか。次の面接予定地は株式会社ソフェルの営業部門の一つ、システム開発部門内にあるエリアです』


 恥ずかしさも手伝って勢いのまま適当に歩き出してから目的地の方角も分からない事に気付いた俺は、歩く速度を緩めて傍らに居るであろう従者に話し掛けた。

 俺の曖昧な問いにも高性能AIである彼は的確に答えてくれる。


「システム開発部門?」


『ソフェル内には様々な部門が設けられており、そこから更に役割を分担し連携する部署に分かれます。

 望月博士らが所属する、ソフェルという企業を象徴する総合研究開発部門。第一から第七までの技術開発課から成り立っており、ソフェルが担っているプロジェクトを円滑且つ強力に進めるため、その権限は最高位とされています。

 そして先ほど研修を終えたレストランなどを総括する飲食事業部門。その中でもいくつかの店舗と商品開発・人事・総務などで分かれています。姜小鈴(キョウシャオリン)氏が責任者を務める社内食堂も管轄下です。

 これからきよかが向かうのは数ある部門内でも特殊な部門ですが、その成果はソフェルのプロジェクトに欠かせないものです』


「たしか……フルダイブ式のVRMMORPG……要は多人数参加型のオンラインゲームを開発してるんだよな、そこは」

『その通りです』

「俺はコンピューターとかの専門的な事は殆ど習ってない普通科の高校生なんだけど……仕事があるのか?」

『あると言えます。詳細は面接時に情報を得られるでしょう』

 俺の疑問に、頼れる従者は淡々と返事をした。

「そうか……まぁ、それなら良いんだ」


 歩みを止める。

 いつの間にか商業区を出ていたらしい。

 おのぼりさんよろしく、辺りをキョロキョロと見回してみる。

 気付けば少し灯りの乏しい、もう少し行けば外縁部に出そうな雰囲気のエリアに入っていた。


「面接場所はどこなんだ?ここから近いのか?」

『徒歩で向かいますと、目的地まで時間が掛かります。

 隣接するユニットですが距離があるので、予定の時間をオーバーしてしまう可能性があります』

「えっ……それはちょっとマズい」

『はい。マズいです』

 いや、こんな所でそんな返事をされても困るんだが……おい高性能AI。


『マズいので、先方へは連絡を済ませておきました』


 ―――はい?


 不意に、音。

 商業区を離れた事で雑踏から遠ざかっていた耳に、新たに届いた音。

 エンジンのような低い唸りが、急速に近づいて来る音を聞いた。

 気付いて音の来る方向を見やれば、真っ白なスポーツカーがこちらに向かって突っ走ってくる。

 夕暮れ時になり次々と点灯する街路灯に照らされ、鋭角的でありながらも優美なフォルムを持つその車は、目の前まで来ると爆音且つ高速で走っていた事が嘘のように、羽毛が着地するかの如く停車した。


 ―――何だこれ?


 運転席は見た所、左にある。

 その窓が下りて顔を出したのは、見知らぬ妙齢の女性。目が覚めるような美貌の持ち主だった。


「貴方が『神谷きよか』さんで合ってるかしら?初めまして。

 私はエレノア。 エレノア・ホワイトです」


 金色の髪をかきあげて、人好きする笑みを浮かべた女性に俺は圧倒されていた。

 とても流暢な日本語だが、どう見ても外国人な見た目と名前である。

 バイリンガルやらマルチリンガルなどというものが普通に存在するのは知識として知ってはいたが、こちとら外部と殆ど関わらないような山奥のド田舎出身者である。未知なものは怖いものである。


「あ、はい……お、私は確かに神谷きよか、ですけど……一体何の」

「貴方の端末からの連絡で迎えに来たのよ。海上都市(ここ)にまだ慣れてないって話だったから迷子になってるんじゃないかと思ってGPS情報を貰っちゃったけど」

「ああ……それは、その。ありがとうございます………連絡?迎え?もしかして……」

 ようやく再起動を始めた思考で、面接先の関係者かと思い当たる。

 そしてどうやらその推測は当たってくれていたようで。


「そう。システム開発部門の者です。

 業務の都合で面接が遅い時間になっちゃってごめんなさいね。

 これから面接場所まで送るから。さぁ乗って」


 機転の利く高性能AIの従者に感謝し、俺は恐々としつつも車に乗り込んだ。





 海上都市で初めての車移動は、とてもミッドナイトブルーだったとだけ記しておく。










◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「やぁやぁ!よく来たね神谷キヨカさん」


 隣のユニットまでホワイトさんのスポーツカーで光のごとくハイウェイを駆け抜け、辿り着いた場所は都市部から離れた閑静な一角に建つ、一見すると民家にも見えるがそれなりに大きな施設だった。

 出迎えたのはスポーツマンのようにガッシリした体型の男。


「アンドレー、ちょっと暑苦しいわ」

「良いじゃないか!歓迎してるんだよ」


 何だか急にグローバルである。喋ってるのは流暢な日本語なんだけど。


 ホワイトさんにアンドレ―と呼ばれた男から名刺を渡され、目を落とす。


「アンドレアス、さん?」

 書かれているローマ字を読み上げると、アンドレアスさんは満面の笑みを浮かべた。

「かしこまらず、アンドレ―でいいよ!俺はここの臨床試験班で主任を任されてるアンドレアス・ラトクリフ。君のことはキヨカ、で良いかい?」


 結構ガッツリ距離詰めてくる人だな!


「かまいませんが…」

「オゥ、これがヤマトナデシコのオクユカシサってやつかい?もっとリラックスし――アウチッ!」


 無意識に後退ると、アンドレ―さんの後頭部に綺麗に手刀が入った。

 ホワイトさんが手をさすりながら軽く溜息をつく。


「もう。学生さんには遅い時間なんだから、早く済ませましょう主任」

「ハァ……わかったよエリー」

「次そう呼んだら毟ります」

「何を!!?」


 …………なんとも、賑やかな職場だなぁ。

 でもこのアンドレ―さんが俺を気遣って、わざと砕けた振る舞いをしてくれているのはわかる。

 ホワイトさんが冷たくあしらっているように見えるけど、それもお互いの信頼あってのものだろうし。


「それじゃあ早速だけど、仕事部屋に案内するよキヨカ」

 アンドレ―さんの言葉に思わず疑問符が出る。

「え?面接をするのでは?」

 会議室的な所で三者面談めいたお話をするものだとばかり思っていたら、初っ端から仕事部屋?


「いやぁ、仕事内容が割と人を選ぶというか、適正を見たいんだ。悪いけどその適正の結果によっては、お断りすることになってしまうかもしれない」


 なるほど、そういう事か。


「わかりました。大丈夫です」

「ごめんよ。それで、君はゲームとかはする方?」


 仕事部屋であろう方角へ歩き出しながら、質問してくるアンドレ―さん。

 俺も倣って歩き出し、その後ろにホワイトさんが付き添ってくれる。


「普段はあまり……友人の家で少しだけ経験があります」

「携帯ゲームとかもかい?」

「はぁ……小さい頃に買ってもらいましたけど、ソフトも少なくて」


 俺の言葉にアンドレ―さんは少し考え込む動作をしたが、すぐに柔和な表情で笑いかけてきた。

「ふむ。まぁ多少触れたなら充分だろう。RPGロールプレイングゲームの基本的な動作やセオリーなんかが分かれば」

「専門的な知識や経験が必要というわけではないんですか」

「うん、やって貰いたいのはね、早い話がテスターなんだ」


 テスター。

 つまりゲームを実際にプレイして、システムの穴やバグなどを見つけて報告する担当、だろうか。


「それは、私のような素人にも出来る仕事なのでしょうか?」

 バグをバグと理解出来なければ報告も出来ないのでは?

 そのように感じた事を言えば、苦笑いが返ってきた。


「ああ、その点は問題無いよ。普通にプレイしてくれれば、君を観測している此方側で細かい部分は判断するから」


 つまり、通常のプレイヤーと違う点は、この開発チームの皆様が後ろに控えていることか。


「それでどうして適正なんて言葉が出てくるかと言うと、フルダイブの環境に適応出来るかという最初の関門があるからなんだ。どんなにこのゲームをやりたくても、適性が無ければシステムに弾かれるし、身体に何らかの異常や障害を来す恐れもあるからね」


 なかなか怖い話になってきた。

 やがてアンドレ―さんは大きな扉の前で立ち止まる。ここが仕事部屋だろうか。


「適性を見る事は、テスターをするにあたって絶対に必要な事、というわけですね」

「話が早くて助かるよ」


 キィ、という軽やかな音を立てて扉が開かれる。

 中には―――




「お、例のテスター候補生が来たのかな~……ようこそ、日が沈みっぱなしの楽園へ……」


「しゅにん~、指示のあった生体データ組み込んだプロトコル作成しましたけど、認証下さい~」


「こら~ちゃんと動作確認してからだろ?候補さん来たから早速テスト機に送って~」


 


 想像していたよりはこざっぱりとした室内ながら、飛び交う声には張りも無く、机に向かう職員たちは生気の乏しい顔をしていた。どちらかと言えば快適そうな室内と土気色の表情とのギャップが半端ない。


 ――屍だ。屍がゴロゴロしている……!


「うん、言いたい事は何となくわかるよキヨカ」


 肩を竦めて大げさに手を振るアンドレ―さんは、認証を求めていた人の方へ歩み寄ると軽快に背を叩いた。


「お疲れトーマ!このテストが終われば今日は終わりだよ。あと少しよろしく頼む」

「ゲホッ、了解です~。あと主任の筋力で背中叩かれると痛いです~」

「君も筋トレすれば良いのさ!筋肉は偉大だぞッ!」


 なるほど……とても―――賑やかで楽しげな職場だなぁ。



適性検査はどうなりますかね……続きます。

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