第6話:荒武者の狂宴、そして伝説の開幕戦
4回表の満塁ピンチを奇跡の「1-2-3」のホームゲッツーで切り抜けた銭形豹馬は、完全に息を吹き返していた。
荒ぶる感情を「大人のピッチング」へと昇華させた背番号24は、続く4回、5回とバファローズ打線を完璧に封じ込め、危なげなく3人ずつで片付けてみせる。スコア「5-3」のまま、試合は中盤の攻防戦へと突入した。
そして迎えた5回裏、ジャガースの攻撃。
先頭打者としてネクストバッターズ・サークルズから歩み出たのは、ほかならぬ投手・銭形豹馬その人だった。
「さあ、ここからまた追加点を奪ってやるぜ!」
バファローズの先発左腕・須谷龍平が投じた真ん中高めのスライダーを、豹馬は鋭い眼光で見据えてフルスイングした。
バットの芯で捉えた打球は、センターの頭上をはるかに越え、ベルーナドームの中堅フェンス直撃の大きな当たりとなる。豹馬は持ち前の快足を飛ばして1塁、2塁を蹴り、迷いなく3塁へと滑り込んだ。
「ヘッドスライディング、セーフ!! スリーベースヒットだ!」
自らの足でチャンスメイクした豹馬が、土埃を浴びたユニフォームを叩いて闘志を剥き出しにする。
続く2番・遊撃手の猿飛英恵が打席に入ると、球場の空気が一瞬で張り詰めた。
英恵は初球、須谷が投じたボールに対し、投手前へ絶妙なセーフティースクイズを転がした! 意表を突かれたバッテリーは慌てて処理するが、俊足を誇る英恵はもちろん、3塁走者の豹馬のホームインを阻むことはできない。
「生還!猿飛英恵の完璧なセーフティースクイズでジャガースが1点を追加、スコアは『6-3』の3点差です!」
この一打に崩れ落ちたかのように、バファローズベンチはたまらず先発・須谷の降板を告げた。
試合の主導権を完全につかんだジャガースは、7回裏の攻撃でも手を緩めない。
1アウトランナー2塁の場面で、再び打席には絶好調の豹馬が巡ってきた。
「狙い撃ちといこうかね!」
代わった救援投手から放たれた甘い球を、豹馬は鮮やかに二遊間へと弾き返す。打球はセンター前へとクリーンヒットし、二塁走者だった滝川夏央が俊足を飛ばして一気にホームへ駆け抜けた!
「タイムリーヒット! スコアは『7-3』! そして、このヒットで銭形豹馬、1回にツーベース、2回にツーランホームラン、5回にスリーベース、そして今のシングルヒット……なんと、プロ野球記録となる偉大なる『サイクルヒット』を早くも開幕戦で達成しましたぁーーっ!!」
どよめきと割れんばかりの大歓声がベルーナドームを揺らし、ベンチから飛び出したチームメイトたちが豹馬を歓喜の輪で包み込んだ。
だが、ジャガースの勢いはこれだけでは終わらない。
続く8回裏、先頭打者として回ってきたのは、初回に衝撃の先制3ランを放っている巨漢スラッガー・ロイだった。
この場面、バファローズは右腕の山咲颯一郎をマウンドへ送り出す。それを見たロイは、不敵な笑みを浮かべながら左打席へと入った。
「右だろうが左だろうが、俺のフルスイングに変わりはない!」
カウント0-2と追い込まれながらも、ロイは山咲が投じた真ん中低めのストレートを完璧に呼び込んだ。
肉眼で捉えきれないほどの豪快なスイングから放たれた白球は、今度はライトスタンドの上段へと突き刺さる特大のソロホームラン!
「打ったぁぁーーっ! ライトスタンド上段へ消える特大アーチ! ロイ、この日2本目のホームランです!スコアは『8-3』。何と、1試合左右両打席本塁打という前代未聞の歴史的記録を、新戦力のロイが成し遂げました!」
投打が完全に噛み合ったジャガースは、圧巻の状態で最終回を迎える。
ここまで見事なピッチングでバファローズ打線を抑え込んできた豹馬は、なんと9回表のマウンドにも1人で上がっていた。
西方監督はここで大幅な守備の入れ替えを敢行する。
キャッチャーには久賀悠斗、ファーストにはライトから回った長谷山信也、セカンドにはショートから移った猿飛英恵、サードにはセカンドから回った滝川夏央、ショートにはベテランの権田壮介が陣取る。さらに外野は、レフトに桑山将志、センターに西河愛弥、ライトに喜志潤一郎が入り、ナビン、渡鍋、ロイ、香島の主力野手陣はベンチへと下がってチームの勝利を見守る布陣となった。
マウンド上の豹馬の球威は、最終回になっても衰えを知らない。
バファローズの攻撃、3番・達摩厳、4番・達摩豪の恐るべき「達摩兄弟」が相次いで打席に立つも、豹馬の気迫に押されて立て続けに凡打に打ち取られる。
そして最後は、5番・盛友哉を外角低めへの完璧なで見逃し三振に斬って取った!
「ゲームセット!!」
スコアは「8-3」。あのドリームチャンピオンシリーズで初戦を飾った時と奇しくも同じスコアだった。
球審のプレイボールコールから始まった激闘の幕が、ついに下ろされた。
投げては、銭形豹馬が9回を投げ抜き、120球・被安打3・奪三振9・四死球2の圧巻の完投勝利! 打っても4打数4安打3打点、さらにサイクルヒット達成という、まさにプロ野球史に名を残す歴史的・大車輪の大活躍。
そして新戦力のロイも1試合2ホーマーの固め打ちで、新生・埼玉ジャガースは開幕戦から凄まじい爆発力を見せつけたのだった。
歴史的な熱狂に包まれたベルーナドームの余韻を残しつつ、ペナントレースの長い旅路は、さらなる波乱の待つ次なる舞台へと動き出していく――。




