第4話:雷鳴の場外弾と大根切りの一撃
無死二塁のチャンスで打席に立ったのは、背番号24の二刀流・銭形豹馬の初回ツーベースから、試合はいきなり熱を帯びて動いた。
続く2番・遊撃手の猿飛英恵が打席に入る。英恵は初球から絶妙なセーフティ気味の送りバントを三塁側へ転がした。相手バッテリーの意表を突く巧みなバントにより、英恵はアウトになったものの、走者の豹馬は悠々と三塁へ進み、1アウトランナー3塁のチャンスを演出する。
ここで迎える3番・長谷山信也は、相手左腕・須谷の鋭い変化球に手が出ず、惜しくも三振に倒れて2アウト。一気に先制の好機が潰えかける。
しかし、続く4番のテーラー・ナビンが執念のフォアボールを選び取り、2アウト1、3塁とチャンスを再び拡大した。
そして、打席には背番号061、この年から一軍に上がった新戦力・ロイが歩を進める。
左投両打であるロイだが、この場面では右打席を選択し、巨体から放たれるオーラでベルーナドームの空気を一変させた。
「ふん……ここで回ってきたか」
ケニア人の父親を持つチャコールブラウンの肌、身長2メートル、体重110キロの大柄な体がワインドアップの構えから放たれた甘い球を捉える。変化球にやや課題を持つロイだったが、この球種を完璧に読み切り、肉眼では見えないほどのフルスイングを炸裂させた。
快音がドーム全体を揺らし、打球は高々と舞い上がりながらレフトスタンドのはるか上空を越え、なんと場外の闇夜へと消えていった。
「打ったぁぁーーっ! レフト場外へ消えた! 新戦力・ロイ、衝撃の来日・一軍デビューとなる先制の特大3ランホームラン!!」
実況席の松江と松永が絶叫する中、打たれた須谷はぼうぜんと打球の行方を見送り、ベンチの豹馬や英恵は満面の笑みで本塁へ還ってくるロイを盛大に出迎えた。ジャガースが初回から「3-0」と大きくリードを奪う。
だが、猛追を狙うパ・リーグの猛者たちも、ただでは起き上がらない。
迎えた2回表、バファローズの攻撃。先頭打者として迎えたのは、4番・三塁手の達摩豪だった。
「ちっ、さっきは兄貴が抑えられたが……ここからは俺の番や!」
猪突猛進型の豪は、前作までの課題であった変化球への対応力を、このペナントに向けて着実に磨き上げてきていた。豹馬が投じたアウトコースへの鋭い変化球を、豪はその大きな目をさらに見開いて見事に呼び込む。
「おりゃああっ!」
豪快なフルスイングから放たれた打球は、レフトスタンドの上段へと突き刺さる完璧なソロホームラン!
「入ったぁ! 4番・達摩豪、課題だった変化球を完璧に捉えた一発! バファローズがすぐさま『3-1』と1点を返し、点差を詰めてみせた!」
一矢報いた豪が悠々とベースを回りながら咆哮を上げる。しかし、豹馬はマウンド上でふっと不敵に笑うと、続く5番以降の3人を持ち前のジャガーボールとツーシームで完璧に打ち取り、これ以上の反撃を許さなかった。
試合はすぐに2回裏、ジャガースの攻撃へ。
バファローズの投手陣も立て直しを図り、7番の渡鍋聖弥、8番の滝川夏央が果敢に食らいつくも、連続して三振に倒れて2アウトとなる。
だが、ここで終わらないのが今季のジャガース打線だ。9番・中堅手の西河愛弥が、須谷の内角攻めにひるまずデッドボールをもぎ取り、執念で2アウトランナー1塁の形を作る。
打席には、初回先頭打者としてツーベースを放ち、先制のホームを踏んだ1番・銭形豹馬が再び返り咲いた。
「さてと……さっきのお返しといくかね!」
カウントは3ボール2ストライクと、追い込まれる。バッテリーの厳しい配球に対し、豹馬は驚異的な執念でファールを重ねて粘りを見せる。そして迎えた緊迫の10球目。
須谷が投じたのは、真ん中高めの、一歩間違えば見逃せばボール球となるストレートだった。
「そこだぁっ!」
豹馬の代名詞ともいえる、体を思い切り捻るような「大根切り」の豪快なスイングが一閃する。
白球はバットの芯で鋭く捕らえられ、弾丸ライナーとなって今度はレフトスタンドの深いところへ飛び込んだ。
「またも打ったぁ! 銭形豹馬、カウント3-2から10球目を捉えた! 真ん中高めを叩き込む、完璧な文句なしの2ランホームラン!! スコアは『5-1』、ジャガースがリードを4点に広げました!」
本塁を踏んだ豹馬がチームメイトとハイタッチを交わし、ドームの熱気は最高潮へと達する。
一歩も引かない猛者たちの激突によって、ペナントレースの幕開けはさらなる予測不能な激闘へと突入していくのだった。




