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第26話:兄の叱咤と母校の悲願、揺らぐジャガースの命運

早瀬駆との大乱闘劇により下された1ヶ月間の出場停止処分。そして、心を通わせたい従妹・英恵からの痛烈な拒絶――。

行き場のない葛藤を抱えた銭形豹馬が足を向けたのは、東京の警察署で交通課の警察官として勤務する、冷静沈着な兄・龍馬の元だった。

署の受付で「俺の兄貴である銭形龍馬巡査はいますか?」と声をかけると、担当の警官が内線で龍馬を呼び出してくれた。やがて落ち着いた面持ちで現れた龍馬に導かれ、2人は静まり返った会議室へと入る。


「一体どうしたんだ、豹馬。そんな冴えない顔をして」

促されて席に座った豹馬は、絞り出すように胸の内を打ち明けた。

「兄貴も知っての通り、俺もあいつ(早瀬)との大喧嘩で謹慎を食らっちまった……。その後、おはなのところへ謝りに行ったけど、すっかり愛想を尽かされて許してもらえなかったんだ。なあ兄貴、もし兄貴だったら、こんな時どうする!?」

弟の焦燥しきった姿を静かに見つめていた龍馬は、ゆっくりと首を横に振り、厳しくも温かい、兄としての本音を告げた。

「豹馬、お前には言いたくはないが……あの乱闘騒ぎはな、いわば『一時停止を無視した車にぶつけられたことに対し、逆上してドライバーを殴り飛ばした』ようなものだ。ただぶつけられただけなら相手が一方的に悪くなる。だが、どんな理由があろうとも暴力を振るった方が今の世間では負けに繋がる――それはお前も分かっているはずだ!」

さらに、龍馬の言葉は核心を突く。

「それと、はなちゃんに怒られたぐらいで何だ! 粋がり屋の豹馬らしくないぞ。あの時、自分から西方監督に二軍落ちを志願した時のことを思い出せ! あの時のように、もう一度初心に戻ることだ。兄貴として言いたいことはそれだけだ。わかったな、豹馬!」

兄の厳しくも正論に満ちた言葉は、荒ぶっていた豹馬の心を深く打ち据えた。

ふっと息を吐き出した豹馬の表情に迷いは消え、いつもの野性味と力強い光が戻る。

「わかったよ、兄貴……! その言葉、しかと胸に刻んだぜ。謹慎のこの1ヶ月間、走り込みや素振りで、てめえの甘えた根性を徹底的に見つめ直してやるぜっ!」


己の甘さを断ち切り、再起を誓った豹馬に、もう一つの朗報が飛び込んできた。

ノーシードからスタートした母校・神田総合高校の野球部が、周囲の予想を完全に覆す驚異的な快進撃を続け、ついに夏の甲子園をかけた東東京大会の決勝戦へとコマを進めていたのだ。

その情報を聞きつけた豹馬は、早速、決戦の舞台である明治神宮球場へと足を運んでいた。

スタンドから固唾を呑んで見守った決勝戦の結果は――神田総合高校が並み居る強豪を撃破し、奇跡的な粘りの末に、春夏通じて初となる「甲子園切符」を掴み取ったのだった!

試合終了後、歓喜に沸く球場の通路から出てきた後輩たちの目に、観戦していた豹馬の姿が飛び込む。

「あっ、親分だ!」「豹馬親分だぁーっ!」

後輩たちが大歓声をあげて駆け寄る中、少し遅れて高校時代の恩師である土方雄三監督も穏やかな笑みを浮かべて歩み寄ってきた。

「先生、甲子園出場おめでとうございます! そしてみんな、本当によくやったな!」

豹馬は後輩たちを一人ひとり力強く抱き締めると、恩師に向かって真っ直ぐに頭を下げた。

「先生……自分も今、色々とあって……でも、今は後輩たちに負けないように初心に帰って自分を鍛え直しているところです!」

土方監督は教え子の肩を優しく叩き、目を細めた。

「銭形、確かに先日は世間を騒がせる事件があったが……こうして泥臭くも前を向き、お前の成長した姿を見られるだけで、先生は本当に嬉しく思うよ」

「先生、ありがとうございます……!」

感極まる豹馬に、後輩たちが一斉に意気込みを叫ぶ。

「豹馬親分! 俺たち、ただ甲子園に出るだけで満足したりしねぇっす! 日本一を取るつもりで、あそこで暴れてきます!」

「おう、その意気だ! がんばってこいっ!」


母校の熱い勝利に胸を熱くする一方、プロの世界では暗雲が立ち込めていた。

チームの勝利を支える投打のエース・銭形豹馬と、神速の守備を誇る遊撃手・猿飛英恵――チームの大きな柱である2人を同時に欠いた埼玉ジャガースは、その痛手を埋めることができずにいた。

豹馬と英恵が不在の間、チームは痛恨のカード負け越しや連敗の嵐に見舞われ、気づけば順位はみるみるうちに「5位」へと大きく陥落。

リーグ優勝の夢が遠ざかるだけでなく、クライマックスシリーズ(CS)進出の座すら危うくなる深刻な危機へと追い込まれていた。

窮地に立たされたチームを救うため、泥水をすすりながらリスタートを切った荒武者・豹馬は、再びグラウンドへ戻るその日に向けて、静かに牙を研ぎ澄ませていくのだった。

【特別ゲスト】

土方(ひじかた) 雄三(ゆうぞう)

神田総合高校野球部監督。普段は社会科担当教諭。55歳。

名前の由来は新撰組の土方歳三(としぞう)と歌手・俳優の加山雄三によるもの。

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