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第25話:すれ違う想い、涙に濡れる神田の夏

北海道アジアハムファイターズの早瀬駆との大乱闘劇により、1ヶ月間の出場停止処分を科された銭形豹馬。

ペナントレースの喧騒から離れたその日、豹馬は同じ試合の中で右手首を負傷した猿飛英恵の元へと向かっていた。


幸いにも、英恵の右手首は骨に異常はなく、診断結果は単なる打撲。入院には至らず、神田の実家に戻って自宅療養を続けながら、回復の目処が立ち次第リハビリを開始するという段階だった。


神田の隣り合わせる猿飛家の玄関。緊張の面持ちで豹馬がベルを鳴らすと、扉が開いたその場所には、叔母の恭子と、痛むはずの右手首をかばいながらも険しい表情を浮かべる英恵の姿が揃って立っていた。


「おはなっ……本当に、済まなかったっ……!」

豹馬が深く頭を下げて謝罪する。しかし、胸の内にくすぶる悔しさと悲しみを押さえきれない英恵は、冷たい視線を向けたまま声を荒げた。

「『おはなっ、済まなかった』じゃないわよっ!…ったく、 あんな余計な大喧嘩して! あたし、あんたに怒ってるんだからねっ! 早瀬も早瀬だけど、豹馬も豹馬だよっ! ハッキリ言って、あんたなんか従兄でも何でもないっ! もうあんたと一緒にプレーもしたくないわっ! 帰って! 帰ってよっ!」

そう言い放つと、英恵はそのまま自分の部屋へと走り去ってしまった。


残された恭子は、戸惑う豹馬に申し訳なさそうに声をかける。

「英恵、待ちなさい……。ごめんなさい、豹馬君。英恵があんなふうにわがままを……」

「いいんだよ叔母ちゃん。おはなは何も責められねぇ。俺があの時、無理にコースぎりぎりにストレートなんか投げなければ、ああならずに済んだんだ! 早瀬もだか、俺も悪いんだよっ!」

「でも豹馬君、それはあくまでも結果論だから仕方がないと思うわ。あなたは何も悪くない。早瀬君……いや、早瀬が悪いのよ……。それよりも豹馬君、しばらくの間はどうするの?」

「もちろん、走り込みとか素振りは怠らないさ! まっ、それとこれからは甲子園に向けて夏の東東京大会もはじまることだし、合間を見て俺の母校の神田総合高校の試合にでも観戦に行くよっ! とにかくおはなには改めて本当に済まなかったと伝えてくれ! あばよっ!」

そう言い残し、豹馬は猿飛家を後にした。


その後、恭子は双子の姉である恵子(豹馬の母)とスマートフォンで会話を交わしていた。

「おけいちゃん、豹馬君がうちに来たけどいつもの元気がなかったわっ……」

スマホの画面越し、あるいは通話口の向こうで、自宅に戻ったばかりの恵子もまた心配そうに頷く。

「おきょうちゃん、ちょうど豹馬が今帰ってきたところだけど全くその通りねっ……。はなちゃんのケガと試合中に早瀬選手と大喧嘩したことで責任を感じているんでしょうねっ……」

愛息の背負った十字架の重さを思い、母たちは離れた場所から胸を痛めるばかりだった。


その頃――。

自室に閉じこもった英恵は、1人で声を殺して激しく泣き濡れていた……。

[神田総合高校]

豹馬の母校。場所は神田明神(神田神社)近辺。学科は商業科、デジタル情報科、科学技術科、スポーツ科学科の私立高校。その中でも豹馬の出身学科はスポーツ科学科。野球部は春夏通じて甲子園出場はなし。

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