第17話:居合の極意と蘇る荒武者の魂
山形県内――緑豊かな山々に囲まれた「林崎居合道場」。
打撃の不振を脱し、己の原点を見つめ直すべくこの地を踏んだ銭形豹馬だったが、道場の玄関で予想だにしない人物と鉢合わせることとなった。
チャコールブラウンの皮膚にショートアフロヘア、身長2メートルの巨漢――そこに立っていたのは、従兄のロイだった。
「ろ、ロイ兄……! ま、まさかあんたも……!?」
目を丸くする豹馬に対し、ロイはどっしりとした佇まいのまま、静かに低く太い声を響かせる。
「豹馬、そのまさかだ。俺もあの後のディスクバンク戦からバットが振るわなくなった。だから監督に二軍落ちをお願いしたんだ。……もちろん、お前を追って来たわけじゃないと言ったら嘘になるが、あくまでもチームの勝利のためを思ったことだ!」
「そうだったのか……。ロイ兄まで……。ますますチームはヤバくなるなぁ……」
2人の若武者が顔を揃えたところへ、道場の奥から威厳に満ちた声が響いた。
2人にとっての母方祖父であり、道場主の林崎甚内である。
「ロイ、豹馬よっ! 2人してよくぞ来てくれた! 自分自身を見つめ直すためにここへ来たこと、ワシは信じておるぞ! さぁ、早速修行だ! 早く稽古着に着替えてこい!」
着替えを済ませた2人は、道場の中央に置かれたまっすぐに立つ巻藁の前にそれぞれ向かい合い、真剣(日本刀)を構えた。
「――はじめっ!」
甚内の掛け声が一閃する。
次の瞬間、ロイは圧巻の腕力と鋭い踏み込みで、目の前の巻藁を一刀のもとに叩き斬ってみせた。しかし、豹馬の刀は巻藁の途中で止まってしまい、うまく切り落とすことができない。
「豹馬よっ! 気持ちが焦っておらんか!?」
甚内が鋭い眼光で豹馬を諫める。
「ただ腕力だけで斬ろうとしては、刃は通らん! 心の中で無になり、一点に集中して刃筋を落とすのだ!」
祖父の言葉を胸に刻み、豹馬は来る日も来る日も刀を振り続けた。
山形に来てから5日が過ぎた頃――豹馬の放った一太刀が、風を切り裂く綺麗な軌道を描き、ついに巻藁を鮮やかに切り落とした!
「これだ……! これでどんな球でも捉えられるようになれる! ここ(山形)に来て無駄じゃなかった! ありがとう、じっちゃん……いや、師範!」
開眼した豹馬の表情に、かつての野性と自信が蘇る。
厳しくも実りある稽古が終わり、母屋から温かい声が2人を呼んだ。
「お父様、朗威、豹馬、ご飯ですよっ!」
声をかけたのは、朗威 (ロイ)の母であり、豹馬の伯母にあたる林崎愛子だ。
「ちょうど腹が減ってたところだ! なっ、ロイ兄!」
「ああ、腹が減ったな」
愛子もまた、2人の突然の二軍落ちをニュースで知り、深く心配していた一人だった。食卓に並ぶ山形の味覚を前に、温かい眼差しを2人に向ける。
「2人とも元気な姿を見せてくれて良かったわ! 特に豹馬は投手との二刀流なだけに、本当に毎日よくがんばっていますねっ!?」
「愛子伯母ちゃん、ロイ兄は体がこれだけデカいからパワーでは叶わねぇよ! でもやっぱり、ここに来て本当に良かった! これでますます元気が出たし、一軍に戻る目途が立ったよっ!」
身も心も一から鍛え直し、新たな変化球と居合の極意を体得した銭形豹馬とロイ。
2人は清々しい表情で山形の地を後にし、所沢の本拠地へと戻っていった。
再び一軍の舞台で暴れ回るその日を目指し、2人はまず、ファームリーグの打席とマウンドへと歩みを進めるのだった。




