第16話:道場の原点、そして新たなる魔球の誕生
自ら一軍登録の抹消を志願し、暗雲立ち込める中で神田へと戻ってきた銭形豹馬。彼が向かったのは、実家の隣に構える「猿飛忍者道場」だった。
道場の板張りに足を踏み入れた豹馬の前に、忍術師範であり義理の叔父でもある猿飛佐吉郎が厳しい表情で立ちはだかる。
「豹馬よっ、お前は伊達君に打たれたぐらいで尻尾を巻いて逃げてきたのか!? そんなヤワな気持ちでいるのなら、修行など受け付けんぞっ!」
佐吉郎の鋭い一喝に、豹馬はひるむどころか、まっすぐな瞳で師匠を見据えて言い返す。
「そうじゃねぇよ、おいちゃん……いや、師範。俺はただ、ピッチングどころかバッティングまで狂っちまっただけだっ……! もちろん、厳しい覚悟はできてるぜっ!」
そして豹馬は頭を下げ、全身全霊で懇願した。
「だから、俺をもっと厳しく鍛え直してくれっ!! お願いします!」
数秒の沈黙の後、佐吉郎はふっと息をつき、かすかに口元を緩めた。
「よし、お前のその心意気を信じよう!! その代わり、途中で投げ出すことだけは絶対に許さん! わかったな!」
「おうっ! 実は俺、新しい魔球の開発を考えているところだ! 手裏剣を投げさせてくれ!」
「ふむ、面白い。それでは一緒に来い!」
道場の奥へと移り、豹馬は手裏剣の的めがけて何度も何度も鋭く投げつける。しかし、焦りからか、思うように的を外すばかりだった。
そんな様子を見かねて、佐吉郎が静かに声をかける。
「豹馬よっ、目だけで的を狙っても意味はないぞ! 手裏剣投げと言うのは、心で目掛ける事だ!」
師範の教えを胸に刻み、豹馬は無心で手裏剣を握りしめた。
そこから地道な修行を重ねて5日が過ぎた頃――豹馬の投げる手裏剣は、まるで吸い寄せられるように次々と的のど真ん中をとらえるようになっていた。
「これだっ……!」
豹馬の脳裏に、かつて培った投球フォームの感覚が鮮やかに蘇る。
「銭形ツーシームをさらに応用化して、右打者の内角に落差が大きく沈む球……! 名付けて、『コブラシンカー』! ありがとう、おいちゃん……いや、師範!」
さらに、豹馬の探求心は止まらない。もう一つの変化球の感触を掴むため、今度は手裏剣を人差し指と中指で挟み、あえて緩く、しかし回転を意識しながら的に向かって放ってみた。
手裏剣は奇妙な軌道を描きながら、鋭く変化して的に突き刺さる。
「これも行けそうだ……! スピードを殺しながら手元でバットを避けるように鋭く落ちる球。これは名付けて『ジャイロフォーク』だ!」
見事に新たな魔球の原型を掴み取った豹馬の姿に、佐吉郎は大きくうなずいた。
「よくやったぞ、豹馬! さすがは自慢の甥だ! その心意気を忘れずに、一日も早く一軍のマウンドに立つのだ!」
その時、道場の玄関から明るい声が響いた。
「あなた、豹馬君、ご飯ですよっ!」
顔を出したのは、叔母の猿飛恭子だった。
「ありがとう、恭子叔母ちゃん! ちょうど腹減ってたところなんだ!」
食卓を囲みながら、恭子は優しい目を向ける。
「ねぇ豹馬君、あなたのニュースを見たときは本当に心配していたわ。でもこうして元気に叔父さんの修行に励んでくれて、本当に良かった」
「俺、飯食ったら家に帰って、じっちゃんやばっちゃん、そして母ちゃんにも挨拶に行くよっ!」
食事後、豹馬は隣の実家へと顔を見せに戻った。
「豹馬、無事だったのねっ!? 良かった……」
母・恵子は我が子の姿を見るやいなや駆け寄り、しっかりと抱擁した。
「母ちゃん、心配かけて済まなかったなぁ……。隣のおいちゃんのところでみっちり鍛えてきたよっ! 新しい魔球ができたんだよっ!」
息子の力強い言葉に恵子が安堵の笑みを浮かべる中、豹馬はさらに次なる決意を告げる。
「今度は、バッティングの方を徹底的に磨き直すために……山形のじっちゃんのところへ行ってくるよ!」
投手の勘を取り戻し、新たな魔球を手に入れた豹馬は、打撃の極意を求めるべく、雪国の道場――山形の祖父・林崎甚内の元へと旅立つのであった。




