33話 楽園 (2)
覇人王の座を争う戦いが佳境に入った。そのことで、私たちを探す目が鋭くなった。兵力不足で私たちのような子どもだとしても、何としても兵にしたいとのことだった。私たちは今までよりも慎ましやかに暮らした。
そんなある日、仲間の一人が殺された。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「嫌だ!!何で、何で!!!!」
皆んながその光景に絶叫する。その子も研究施設から抜け出した子だった。その追手から見つかり、連れ去られようとしたところを抵抗したらこの有様だ。
「何で、何でいつもこんな目に......」
誰かが発した言葉であった。それは皆が思っている言葉だった。その瞬間、私たちは追われている身だってことを思い出させられた。幸せな日々に埋もれた絶望。それは埋もれていただけで、また、掘り返された時はその幸せに反してより一層強くなる。そして、その子が死んでから空気が重くなった私たちにお兄ちゃんはこう告げた。
「皆んな、辛いのはわかるけど、これからを考えよう。あの子の死は無駄にしてはいけない。僕たちだって、ああなる可能性はあるんだ」
次の一言は皆んなに現実を突きつけるものだった。
「集団で行動するのは危険だ。だから、その......」
「これからはバラバラでやり過ごそう。そういうことなのさ」
ノクサリアが発した言葉にお兄ちゃんは何も言わなかった。何も言わなくてもその本心は分かった。
「お兄ちゃん......」
「アビス、仕方のないことなんだ」
その提案に反対意見を述べるものは勿論いた。だけど、お兄ちゃんの言葉が正しいのはみんなも理解できた。そんな状況でお兄ちゃんは言った。
「大丈夫だ。もう会えなくなるわけじゃない。この戦争が終わったら、またここに戻ってこよう。その時は皆んなで楽園を目指すんだ」
その言葉に安心したわ。お兄ちゃんはこんな時でも私たちを引っ張ってくれる。
「じゃあ、じゃあね、皆んな。また、ここに集まったときに分かるようにさ、私たちの家族の名前、決めとこうよ。私たちは一人じゃないっことを忘れないようにもね」
私はそう提案した。
「名前、そういえば無かったね。アタシは賛成だよ」
「サラーレ、マリスカ」
そして私は考えた。大切な名前。皆んなの名前。
「そうだな、私の地方の言葉で『家族』を意味する『ラウファ』なんてどうかな」
「ラウファ、いい名前だね」
そして、私たちは泣きじゃくった。皆んなで肩を並べながら。また会う日まで。
「僕たちラウファ、1人もかけることなく」
そうして、私たちは別れていった。
戦争が終わった。悪魔族の勝利で魔界は安定し、今までよりも貧困等が無くなった。私は一人である港町で働いていた。その素性を全部隠して。あの別れから1年は経っていた。実際に新たな覇人王は既に即位していたけど、まだ追っ手が怖かったから戻れないでいた。だけど、一年経って、ようやく戻れるような状況になった。その路地裏に戻ると、まだ誰もいなかった。
「お兄ちゃん、いる?」
「マリスカ!ロザルク!それにソムクロスとイグゾル、ノクサリアも!皆んな!」
そう呼びかけたけど返事は返ってこなかった。数日経った。誰かの気配がした。私は歓喜のあまり嬉しくなっちゃったの。それはお兄ちゃんの姿だった。
「お兄ちゃん!久しぶり!元気だっ......」
そう声をかけたお兄ちゃんは今までのお兄ちゃんじゃなかった。虹色の瞳は前よりも神々しさを失っていた。
「アビス、無事だったか......」
「お兄ちゃん?どうしてそんなに元気がないの?何かあった?あ、そうだ少しお金あるからさ、美味しいものでも......」
「皆んな、死んだ」
「え?」
お兄ちゃんの言葉に理解が追いつかない。
「どういうこと?」
「言ったとおりだ。皆んな死んだ。皆んなこの一年で捕まって、戦争に行かされた。皆んなほとんど特攻兵として徴兵されて全滅だそうだ」
「ま、待ってよ。まだ、分からないじゃん。、だって20人もいるんだか......」
「残っているのは、僕とロザルク、マリスカ、ノクサリア、ソムクロスにイグゾルだけだ。他は皆んな死んだ」
お兄ちゃんに覇気がない。その態度が真相を告げた。
「そんな、皆んな......一緒に楽園に行こうって約束したのに」
その言葉が駄目だった。お兄ちゃんはそこから狂い出したんだと思う。
「そうか、楽園!楽園だよ!そんなものがあったな!皆んなそこにいるんだ!皆んなそこに向かったに違いない!そうだ、そうだ!きっとそうだ!皆んなにも伝えてこなきゃ!」
私はこのとき大いなる間違いを犯した。
その後、皆んなはお兄ちゃんの言葉を信じて楽園を目指し始めた。皆んなもどこか、皆んなじゃなくなっていた。ただ楽園というものを目指す。それだけを生き甲斐としていた。ある日、
「皆んな!闇の魔王とコンタクトが取れたよ!」
お兄ちゃんがそう言った。楽園を目指す。ただ、誰もがその楽園をおとぎ話と思って詳細を知ってはいなかった。故にどうすれば良いのか分からないでいたのだ。なので取り敢えず、魔界の偉い人たちに聞いてみることにしたの。そして、お兄ちゃんは成し遂げた。闇の魔王と接触するまでに上り詰めたの。
それから、お兄ちゃんは魔王と取引を始めた。魔王の要求を呑む代わりに、闇の供給を要求した。
「魔王に聞いたよ。楽園について。楽園はこの世界の限られた強者にしか、受け入れられないらしい。だから、強くなろう。闇の供給を受けて、力を蓄えて最後には魔界を統べよう!」
「いいわね。私はあなたについていくわ」
「私も異論はありません」
「ようやく目的が見えて来たのネ」
もうずっとこの調子である。お兄ちゃんが全て正しいのだと信者のようだった。私もそれに賛同する他なかった。
「ところでさ、僕たち7人の名前を決めようよ!僕たちだけの名前だ!世界の頂点に君臨して、有名になる、そんな組織がいいな!」
「そうだね、『闇の支配者』なんてどうだい?」
「いいね、それ!じゃあ、僕たちは『闇の支配者ラウファ』だね」
皆で盛り上がっているのに私だけがついていけてない。こんなに嬉しそうなお兄ちゃんは久しぶりに見た。
「お兄ちゃん、ラウファは20人皆んなの家族の名前だよ?だからここで使うのは......」
「?いいじゃないか。だってもう皆んなは楽園に行っちゃったんだから。これからは僕たちが世界を支配する者たちとして、そして、楽園を目指すものとしてこの名前が必要なんだよ」
私は悲しかったわ。20人揃っての家族。その特別感。それが一瞬で踏み躙られた。もうお兄ちゃんはいない。お兄ちゃんはとっくの昔に死んだんだわ。私は絶望した。そしてその後、私たちは魔界の一部で恐れられるギャング組織へとなった。その目的は楽園を目指すこと。ただ、私は知っていた。魔王がお兄ちゃんに言った言葉は嘘であったと。でも、
「もうやめよう!お兄ちゃん!楽園はないんだよ?魔王の言っていたことは嘘だったんだよ!」
「何を言っているんだ、アビス。皆んなの意志を削ぐつもりか?だったら迷惑だからやめたほうがいい」
「で、でも......」
「やめろと言っているだろう!!!」
「...........」
「......出かけてくる......」
ああ、私のせいだ。私がお兄ちゃんを壊した。私はそのとき、お兄ちゃんを救うと決意したの。
「お兄ちゃんを止めなきゃ、そう思って私はここまでの計画を練ったわ」
アビスの話が終わった。もうアビスは「ある人」ではなく、「お兄ちゃん」と自然に変わっている。本人もそれに気づく余地すらない。アビゴルはその話を黙って聞いていた。
「アビス......」
「オルネイア、ごめんなさい。あなたたちを巻き込んでしまって。私ね、一つだけ計算外だったことがあったの」
「......」
オルネイアは答えない。
「私、お兄ちゃんのことよっぽど好きだったみたい。ここまで、ショックを受けるつもりはなかったんだけどな......」
その言葉はかすかに震えていた。そして消えゆく体で、アビスの目には涙が浮かんだ。
「お兄ちゃん、バカな妹でごめんね。お兄ちゃんのこと大好きだよ......」
そして、消えていった。その言葉を聞いて無表情のアビゴルの目に一滴の涙がこぼれ落ちる。
「アビス......僕こそ......ごめん......」
そうしてアビゴルも塵となって消えていった。ラウファが壊滅した。しかし、それは終わりではない。彼らにとっての始まりである。オルネイアは一筋の涙を浮かべて、その場を後にした。
どこまでも花畑が広がるそんな空間に私はいた。全ての業から解放されたような気がして体が軽い。後ろから私を呼ぶ声が聞こえる。
「「「アビス!」」」
「ッ!?皆んな!どうしてここに?」
「何言ってるのネ、皆んな一緒なのネ」
「そうよ!すぐ一人で行っちゃうんだから」
「私たちを置いていかないでほしいですね」
「さあ、楽園に行こうか!」
その虹色の光り輝く瞳を私は見て笑った。
「何を笑っているんだい?」
「ううん、何でもない!」
そして、7人は皆で手を繋ぎ合い、家族が待つ楽園へと歩みを進めた。
うんうん
感動ストーリーっぽくなったね
ちょっと情景描写が少ない気もするけどね
申し訳ありません
ですがこれ以上文量を
多くすると
大変で
何言ってるの
それが仕事でしょ 失礼いたしました
失言でした
うん
よろしくね
お読みいただき、ありがとうございます。これにて第三章は終了です。ラウファの話はこれで終わりになりますが、まだまだオルネイアたちの敵は残っています。闇の魔王に覇王、覇人王まで。世界はまだまだ広いです。オルネイアたちはそんな世界でどう戦っていくのか。これからも見守っていただけると幸いです。第四章に入りますが、これからさらに物語は広く、深くなっていきます。回収されていない伏線も多数あって意味わからんところがあるかと思いますが、どうかお付き合いください。ではまた。




