34話 裏で
精神世界は本来、神が作ることができるものである。その目的はさまざまで、種族の領土の問題であったり、相性や天敵などの生命に関わる問題であったりする。例えば、魔界や天界であれば天使族や悪魔族の住むための場所である。しかし、そんな目的とは相反してこの世界の安寧を保つために作られた精神世界がある。その名を「聖樹」。この世界の目的は、「世界議会」が話し合いを行うため。そんな聖樹で此度も話し合いが行われた。
「それではこれより議論に移ります。今回の議題は、闇光戦争と現覇人王の扱いについてです」
長くウェーブがかった美しい金髪に、黒と所々の白い線で統一された服を着た紳士そうな男が言った。彼の名は「クロフェル」。最弱の種族、人魔族でありながら、全世界の頂点に君臨する者であり、世界議会の議長である。
「闇光戦争はこの世界の安寧を脅かすもので危険です。早急に止めては?」
広い円卓に座っていた一人の人物から発せられた言葉である。世界議会は、基本的に話し合いで物事を解決する。そしてそれらの議員は主に各種族の王である。勿論、人魔族の王である覇人王の席も設けてあるが、今代の覇人王が即位してから、その席が埋まることはなかった。天使族や妖魔族の王たちの席も同様である。これらの三大種族と呼ばれる種族の席が埋まることは、世界議会が発足してから一度もないのである。また、この世界の頂点に君臨する「六幻」の席も用意はされているが同様の結果だ。故に世界議会は、三大種族を除いた、ごく一部の種族によって成立している。
「確かに、闇光戦争は未だ魔界と天界で止まっているが、いつ我々の世界に及ぶか分かりませんぞ」
「その通りだ!」
「全くもって」
各々言いたい放題、言葉が発せられる。
(分かっていないな、こいつらは)
「皆様、お静かに。総意としては闇光戦争に介入すべきだということでよろしいですね?」
クロフェルが続ける。
「ですが、どなたが赴くのです?その後始末は?戦力は?相手は覇王なのです。慎重に進めなければなりませんよ?」
そのクロフェルの冷静な指摘で一同が思いとどまった。ただでさえ、三大種族間の睨み合いがあって逼迫した状況であるのに、光と闇の戦争まで加わるとなると自分たちの保身のために必死になるのである。それ故に現実的でない発言も飛んでくるわけで、
「覇人王に任せればよかろう。あやつが彼らを総括しておるのだ。覇人王に任せれば全てのことが上手く運ぶに違いない」
その発言に一同が納得して、安心しきった雰囲気を漂わせる。
「それはあり得ないでしょうね」
その発言をしたのはここにはいるはずのない人物である。青白い肌に漆黒に青が混ざったような髪。その姿はまるで幽霊のような男であった。この場には相当な実力者が集結している。驚くべきなのは、そんな彼らがこの男が話すまでその存在を認識できなかったことである。この男を除いて、
「お久しぶりです。『レイス』様」
一同が微塵も動けない。緊張と圧によるものである。誰もがこの男は只者ではないと認識していた。その認識はクロフェルの言葉によって確固たるものになった。
(レイス?レイスだと?あの伝説とされていた六幻の一人ではないか!?)
そうこの男こそが六幻の一人であり、霊魂族の王、レイス。その異名は「魂の操者」。
「ところでレイス様、先程の発言について、皆様にご説明願いますか?」
「そうですね。クロフェル殿ならば勿論知っているでしょうが、この闇光戦争の原因はその覇人王なんですよ。皆さんも知っているでしょう?」
一同は何も答えない。いや、答えられない。
「おや?知らなかったのですか?情報収集は基本ですよ?」
レイスは一同に詰めた。そして、その矛先はクロフェルに向かう。
「初めて出席してみましたが、世界議会はこの程度ですか。少し失望しました」
そう淡々と述べた。しかし、このような場でも空気の読めない輩はいるものである。
「先ほどから聞いていれば、偉そうに!誰だか知らないが、高貴な我々の組織を愚弄するでないわ!」
その場の者たちの血の気が引く。
「おい!このお方はあのレイス様だぞ?お前正気か?」
その愚か者に近くの者が小声で語りかけた。だが、もう手遅れなのである。
「レイスだと?知らんな!いいか?私は堕虫族の王であるのだ。お前のようなみたことのない顔の者は知らないだろうが、ここは神聖な場所で......」
「.......」
その瞬間、その場の半数程が椅子から崩れ落ちた。勿論その愚か者もである。
「クロフェル殿、覇人王の件は介入しなくても心配ありません。恐らく、『彼ら』が解決します」
「『彼ら』とは?」
「それはこれからのお楽しみですよ」
そしてレイスは辺りを一瞥する。状況がわかっておらず困惑する者、恐怖で怯える者、倒れたまま動かなくなる者。そして、あの愚か者は跡形もなく消えていた。その状況を見てから、
「それと、世界議会に必要のない者たちが居たようなので、間引きしておきました。今後はこの世界の秩序を守れるような者たちで構成するように」
「申し訳ありませんでした。レイス様」
そうして、レイスは消えた。
「さて、今回の会議は以上です。解散となります。皆様、お疲れ様でした」
この後、クロフェルの配下がクロフェルから聞いた話だが、あの時レイスは何もしていなかったとのこと。ただ、「神闘気」という覇気を出しただけ。つまり、覇気だけであの場の半数近くが死亡したとのことである。この後、世界議会の議員がかなりの数減ったことは不慮の事故として片付けられた。
<魔界 中層部>
薄暗く、広い廊下には西洋風の絵画や鎧が並べらている。その廊下を闊歩しているのは両目が布のようなもので隠されており、長くストレートな紫の髪を持つ男である。彼の名はヴォイド、ゼルアークの僕にして、闇の魔王団の筆頭である。そんな普段はクールな男が少しばかり焦りを見せていた。
(想定よりもあの魔王たちが役立たずでしたね。一匹も殺せないとは。まあ、いいでしょう。ゼルアーク様には正直にご報告を)
「ヴォイド、なんだか冷や汗が垂れてますわよ」
「黙れ、『カーミル』。殺すぞ?」
「あらあら、私を殺すのはいいけど、今戦力を減らすのは問題なのではなくて?」
突然現れた美しい女性がそう煽ると、ヴォイドは舌打ちをしてからその場を去ろうとした。
「そうそう、ヴォイド。『グランザ』が何か企てようとしているようだけど、知ってるかしら?」
「知らんな。グランザが裏切ろうとも、アイツは洗脳してでも戦場に連れていくさ」
「まあ、怖い。私も気をつけましょう」
(さて、邪魔もいなくなったことだ。報告が終わった後は計画の見直しをしなければな。大体、今回の想定外はあの女だ。あの体育座りの女は何者だ?妙な妖気を纏いやがって)
「あのクソ女、今度会ったらタダじゃ済まさないぞ」
「こんにちは」
「!?」
「クソ女こと、ガブリオです」
(全く気づかなかった。どうする?今反撃したら返り討ちにされるだけだ。時間を止めて少しでも.......いや、無理だな。コイツなら簡単に抜けられる)
「何の用だ?」
「面白みがないですね。もう少しお話がしたかったんですが......まあ、いいでしょう。あなたが光の魔王を洗脳し、天界にけしかけた。そうですね?」
「......」
「黙秘は肯定と捉えていいですよね?ということで、あなたに警告に来ました。闇の魔王だかなんだか知りませんが、魔王同士の争いはやめることです。私の妹のようなルシエルを危険な目に合わせたくはないのでね」
「断ると言ったら?」
そうするとガブリオは瞬時に大きな斧を出現させ、
「力づくです」
ヴォイドは自身の鼓動が早まっているのを感じた。その緊張感はガブリオの優しい口調と相まってより高まる。
「どちらにせよ、俺に決定権はない。全ては覇王様の命に従う。それだけだ」
「そうですか。ですが、そちらはラファリオが向かっているので大丈夫ですよ」
<闇の覇王の城 謁見の間>
「どなたですか?」
闇に包まれた彼が虚空に問いかける。そこに現れたのは一人の男であった。
お読みいただき、ありがとうございます。第四章始まりです。これから闇光戦争が本格的に始まります。この章の後半はほとんど戦闘の予定です。オルネイアたちがどう活躍していくのか楽しみにしていてください。さて、この作品で私が最も好きなうちの勢力が二つも出てきました。世界議会と六幻です。どちらも今後重要になってきますので、お楽しみに。




