29話 ラウファ
5分というのも戦いの中では致命的だ。もっと言えば、高度な戦いでは1分、1秒でも隙を見せてはいけない。それをマリスカは理解していた。故に自分が彼らを5分も足止めできるとアビゴルから言われた時は、かなり責任を感じていたのだ。しかし、アビスから30分も自分には時間が稼げると言われた時、自分の可能性に気がついてしまったのだ。マリスカは、自身の結界で慌てふためく者たちの様子を想像する。それは、自分がされて来た仕打ちと同じようで、実に気分が良かった。「ああ、コイツらも私と同じ目に」と。しかし、彼らの様子はマリスカの予想していたものとはかけ離れていたのだ。あの勇者族の魔王が笑っていたのだ。
「ハァーハッハッハ!!」
「何がおかしい?」
「実に滑稽だな。やはり自意識過剰なやつは相手の力量も見破れないのだな。実に面白い」
「ふん!結界の中で何もできないくせによく言うよ!いつまでもアタシの結界の中でほざいてなよ!」
「結界だと?この程度のものがか?」
(何だ?何かがおかしい。私の実力だったら30分は持つはず。なのに何だ?この胸騒ぎは......)
「いいか?結界というのはな、こういうものだ!」
「穣穢結界」
美しい結界がアルヴァを周りにして同心円上に広がる。そして、その聖なる結界はマリスカのものを一瞬にして破壊した。
(内部から結界で上書きして破壊した?!一体どんな術式だ?!)
アルヴァはある異名を持つ。その異名とは「結界の勇者」。結界魔法を主に得意とし、防御に特化した勇者なのである。
<70年前>
勇者族一家の家に生まれた少年は、戦いが苦手であった。
「こんな天使族の天下で競争が激しいって時代なのに、戦いが苦手だなんて。信じられないわ」
「きっとうちの子じゃないんだろう」
それは親が息子にかけた言葉である。その日、息子は家出した。その家は天界の田舎町で、少年は家を出て都会の方へ出て行った。その少年を追いかける人はいない。少年は1人だったのだ。その後、少年は仕事を探した。勇者族の息子だということを売りにして、護衛の仕事をしたのだ。だが、
「何だよ!戦えないんじゃ何の意味もないんじゃないか!金は返してもらうぞ!」
「勇者族だなんて嘘ね。さっぱり戦えないんじゃない。あなたの生きる意味なんてないんじゃない?」
当時、覇人王が天使族のラファリオであり、天界の者たちは奢っていた。故に心も廃れ、他者を見下す競争社会になっていたのである。そんな社会にその少年は、不適合だった。ただ、その少年は、結界魔法だけは得意であった。生きたいという意志から鍛えられた魔法である。そして、そんな彼の才能は本当の実力者からは正当に認められるのである。
「あなたの結界魔法、素晴らしいものですね。是非、私の傘下に入りませんか?」
それが少年の覇王との初めての出会い。
そう、この結界魔法はアルヴァにとっての生きる希望で人生なのである。それが、「結界の勇者」と呼ばれた所以でもある。
「クソ!ならもう、始末しなきゃね!『蛇鞭』!」
マリスカの腕が触手に変わり、アルヴァたちを襲う。しかし、
「聖結界」
触手がアルヴァたちに四方八方にうねるが、結界によって全て防がれてしまう。
「チッ!」
(厄介だ。このままじゃ他の奴らに攻撃に入られちまう。この防御をどうにか)
「なあ、アルヴァ、俺たちが攻撃を......」
ガルディアが口を開くが、
「いや、お前たちは私が連れて来たのだ。私が責任を持ってお前たちを守る。それが、『結界の勇者』の責務だからな。それにもう終わる」
すると、マリスカは激怒する。
「ふざけるんじゃないよ!防戦一方のくせに!」
「牢獄結界」
マリスカの周りに結界が発生する。
「は?何だいこの結界は?」
そして、マリスカはその結界に蛇鞭や闇玉を放つ。しかし、その結界はびくともしない。
(ちょっと待ってよ。私はコイツらを凌駕するんだろ?何でアタシがこんなに追い詰められてるんだ?アビスの話と違う......まさか......)
マリスカが気づいた時にはもう遅かった。ようやく自分が死ぬということを自覚したようである。
「ま、待ってくれ!死にたくない!これじゃあ、何も成し遂げられてないじゃないか!これじゃあ、これじゃあ......あの時と一緒だよ」
そしてその結界は、光り輝き始める。
(ああ、皆んなごめんよ。ここまでみたいだ)
「ドゴォォォォォン!!!」
結界が内部諸共破裂する。そこには何も残っていなかった。
(こんなの聞いてないのネ!)
それはイグゾルの心からの叫びである。魔法が当たらない上にそのまま突っ込んでくるフェンリスには恐怖しかなかった。
「グワァァァァァ!!」
今の一撃で、イグゾルは頬をかすった。
「星火励!」
「黒薔薇乃園!」
「グワァウ!!」
隕石と黒い薔薇の棘と触手による毒攻撃、狼の攻撃が交錯する。
「オマエラしつこい!すぐ仕留める!」
「イグゾル!焦らないでね、動きが単調になって来てるわ!このまま行くわよ!」
「わかってるネ!」
ロザルクは、このままいけば勝てると見込んでいた。ただ、その確率も確かなものでない。決定的なものが必要だった。ロザルクも奥の手は取っておきたい。それはイグゾルも同じであった。そして、唐突にその機会はやってくる。
「カツッ、コツッ」
何者かが廊下を歩いてくる音が聞こえる。そしてやって来たのは、美しくウェーブがかかった桃色の髪に純白の服、瞳は金色に輝いている美女であった。そして彼女の背には大きな4対の翼が生えている。
「あなた様がなぜここに?」
フェンリスが驚いていた。それを見ていたロザルクとイグゾルは名案が思いついた。「この女を人質にして、この魔王に必殺を叩きのめしてやろう!」と。そして、イグゾルが真っ先にその女に近づいた。
「ま、待て!」
フェンリスが慌てて止める。それがイグゾルの聞いた最後の言葉であった。
「ドゴォォォォン!!!」
その速さは亜光速に達していただろうか。一瞬にしてイグゾルは真っ二つになっていた。その断面は光り輝き、塵となって消え始めている。
一同は何が起こったのかわかっていない。
「フェンリス、この者は殺して良かったのですね?」
その女がイグゾルを瞬殺したのである。
「あ、あ......」
イグゾルは虫の息であった。
「貴様!よくもイグゾルを!『薔薇乃花束』!!」
それは巨大な黒い花束を出現させ、魔力砲を撃つ魔法である。強力な中級魔法の一つで、使えるものなど少ないのだが、
「愛情ノ罪斧」
そして、ロザルクは胴を一刀両断され、魔法ごと切られてしまった。
(ああ、アビゴル、ごめんなさい。私たちじゃ、楽園には......行け......なかった)
そして、彼らは塵となって消えて行った。実にあっけない最期である。そんな彼女たちを殺ったこの女は、
「まさか、あなた様がお越しになってくださるとは」
獣王化を解いてフェンリスが畏まる。
「ええ、皆、忙しいので。ただ、今回は世界の根幹に関わるかもしれないと『ラファリオ』が」
「そうでしたか、五大天使のお一人『愛天使ガブリオ』様」
お読みいただき、ありがとうございます。どんどん規模が高くなっていきますね。亜光速ですよ。目には見えないですよね。ちなみにオルネイアたちは音速に届くかどうかの世界でやっています。だとしても現実的ではないですけどね。ここで断っておきますが、亜光速とか光速で戦うという描写は今後出てきます。それで、光速よりもっと速い速度が出てきてしまうんですね。その速度は自分で勝手に呼び名を決めています。その時説明しますので、現実のなさぶりを実感していただければと。ではまた。




