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推し活オカンの執筆ノートは予言書らしい 〜推しが我が家でみかんを食べている件について  作者: 花庫
第一章 始まりの予言

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第九話:予言の答えと、神の涙


「……オカン、マジで……神(かみ)がかっとるよ」


数日後の夜。我が家のリビングにやってきたレンくんは、開口一番、呆れたような感嘆の声を漏らした。


ソファーに座り込んで温かい麦茶を飲むレンくんの横顔は、数日前よりも少しすっきりしている。


「ホクトくん、どうだった……?」

私が夕飯の洗い物を止め、タオルで手を拭きながら尋ねると、レンくんは天井を仰いだ。


「突撃して大正解だった。あいつ、マジで足の靱帯痛めかけててさ。なのに『ツアー前だから』って痛み止め飲んで練習しとったんよ。俺が『オカン……の知り合いの小説家が言ってたぞ。完璧主義者ほど折れやすいって!』って半ば強引にマネージャーと整形外科連れてったら、先生に『あと二日遅かったら長期離脱でした』って怒られた」


「……!!」


冷や汗が背中を伝う。ギリギリセーフだったのだ。


「でさ、ホクトの代わりに俺と他のメンバーでダンスブロックの構成を少し見直して、負担減らしたんよ。あいつ最初は悔しがっとったけど、最後は『ありがとう』って……。なんか、ちゃんとチームになれた気がする」



柔らかく笑うレンくんを見て、胸のつかえがスッと下りていくのを感じた。

ホクトくんが倒れずに済んだ。あーちゃんの「最推し」の笑顔が守られたのだ。


(良かった……本当に良かった……!)


……しかし、私の胸の奥にはまだ、あのプロットに書かれていた『予期せぬトラブル』という言葉が引っかかっていた。


◇


週末。私は再びあーちゃんとカフェにいた。


「たまちゃん……! 本当に、本当にありがとう……!!」


向かいの席で、あーちゃんがハンカチで目元を拭いながら、声を詰まらせていた。


「えっ、あーちゃん!? どうしたの!?私なんかしたっけ?」

突然の涙に驚く私に、あーちゃんはスマホの画面を見せてきた。そこにはB:DASHの公式ファンクラブの最新会員限定動画が映し出されている。


『演出一部変更のお知らせ』


動画の中では、少しすっきりした表情のホクトくんと、その隣で不敵に笑うレンくんが並んでいた。


『ファンの皆! ソロブロックの演出、ちょっとだけ変えることにした! 俺がもっとカッコよく魅せるために、レンたちにも入ってもらう! 期待してて!』


あーちゃんは鼻をすする。


「ホクトくんね、最近すごく顔色悪くて、ファン messengers の間でも『無理してないかな』ってずっと

心配されてたの。でも今日の動画、すっごく晴れやかな顔してて……! メンバーを頼ることにしたんだなって分かって……私、泣いちゃって……!たまちゃんのレンくんのお陰だよーー!」


「そう……だったんだ。本当に良かったね、あーちゃん。レンくんは私のじゃなく、私の推しだけどw」


「うん! でね、たまちゃん!」

あーちゃんはバッと顔を上げた。その目はいつもの「神」らしい輝きを取り戻している。


「私、悟ったの。実はね、今回の演出変更に合わせて、衣装の仕様も一部変わるらしくて。前の仕様だと、ホクトくんの激しいステップで靴のソールが剥がれる危険があったんだって! ギリギリでスタッフさんが気づいて修正できたらしいの!」


「え……? 靴のトラブル……?」

ハッとした。

私の未公開プロットに書かれていた『真の問題は彼らのパフォーマンスではなく、陰で動く予期せぬトラブル』――。

それは怪我だけでなく、本番で大事故に繋がりかねなかった「衣装の不備」のことだったのだ。


ホクトくんが無理をやめ、メンバーと話し合い、演出を見直したことで、関わるスタッフ全員がもう一度安全面をチェックする余裕が生まれた。

巡り巡って、未来のトラブルまで未然に防がれていたのだ。


「たまちゃんがこの前会った時『ホクトくんもきっと仲間を頼れるよ』って言ってくれたでしょ? あの言葉で私、信じて待とうって思えたんだよ。たまちゃんは私の女神だよ〜!」


あーちゃんが私の手を握りしめてぶんぶんと振る。


「そんなこと言ったかな?なんとなく、言った気もするけど…でも私は何もしてないよ!(笑) B:DASHのメンバー同士の絆だよ!」


私は苦笑いしながら、心の中で深く息を吐き出した。


(玉木薫の予言プロット……今回も、誰かを傷つけることなく良い方に変わってくれた……)


「あーあ、それにしてもレンくんも一肌脱いでくれて感謝だな〜! ちょっと見直したわ! まあ、私の最推しは一生ホクトくんだけどね!」


ケラケラと笑うあーちゃんの笑顔を見ながら、私はカフェラテを一口飲んだ。


我が家のリビングで「オカン、今日のご飯何〜?」とお腹を空かせているであろう最推しと、目の前で推しへの愛を爆発させている大好きな親友。


二人の笑顔を守れたのなら、この不思議な「予言の力」も、悪くないのかもしれない。


……そう思っていた時のことだった。


私のバッグの中で、スマホが短いブザー音を鳴らした。

画面を開くと、担当編集者からのLINEが入っている。


『玉木先生! 先日いただいた新作プロットの件ですが、編集長から「この展開、いま話題のB:DASHのリアルな状況とリンクしすぎていてバズる可能性大です! ぜひこの方向で連載化しましょう!」とGOサインが出ました!』


「……え?」


画面を見つめたまま、私の思考がフリーズする。



(連載化……? ということは……これから毎週Webで、私が書いたストーリーが世に出て、それが全部B:DASHの身に起こるってこと……!?んなわけないかw気にしすぎだな私…)


「たまちゃん? どうしたの、固まって?」

あーちゃんが不思議そうに覗き込んでくる。


「あ……ううん! 何でもない! ちょっと仕事の連絡で……!」


冷や汗をダラダラと流しながら、私はスマホを握りしめた。

「オカン」であり「ファン」であり「どこにでもいる小説家」である私の毎日は、どうやらこれからさらに大変なことになりそうだ――。


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