第十話:深夜の作戦会議
「連載化決定、おめでとうございます玉木先生ーッ!」
週明けの午後。いつものようにヨギボーでくつろいでいた私は、担当編集・佐藤さんからの電話のテンションに押され、思わずスマホを耳から離した。
「あ、ありがとうございます……でも佐藤さん、本当にこのプロットで進めるんですか……? ちょっとリアリティがありすぎるというか、その……」
「何をおっしゃってるんですか! そのリアリティこそが玉木先生の強みです! 読者からも『現場の熱量がすごい』『アイドル業界の裏側をリアルに描いている』と大絶賛間違いなしですよ! さっそく来月の1週間目から第一回の原稿をお願いしますね!締め切りとか詳細は後ほどまとめてメッセージ送りますから。」
嵐のような電話が切れると、私はその場にバタリと倒れ込んだ。
(どうしよう……! 気まぐれで書いていた小説が連載になっちゃった……!)
連載になるということは、毎週締切に追われながら新しいストーリーを生み出し続けなければならないということだ。
そして何より恐ろしいのは――私の書いた文章が、リアルタイムでB:DASHのメンバー(主に目の前で豚汁を飲んでいるレンくん)に影響を与えてしまうかもしれないということ。
◇
「ただいまー! ママ、お腹すいたー!」
「ママ、今日の夕飯なに?」
夕方、学校から真衣、結、蓮の三人が帰ってきた。さらに、その15分後。
「オカンちーす。なんか今日仕事早く終わったから寄ったー」
まるで当たり前のように、我が家のリビングに最推し(本物)が滑り込んでくる。
「レンくん……あなた最近、ウチを実家か何かだと思ってない……?」
「だってオカンの作るご飯、一番落ち着くんだもん。あ、今日はお肉が良いな」
図々しくもヨギボーに吸い込まれていくレンくんを見ながら、私はため息をついた。
でも、背に腹は代えられない。私は子どもたちとレンくんを集め、リビングのローテーブルを囲んで緊急家族会議(+最推し)を開くことにした。
「みんな、落ち着いて聞いてね……。実は、ママの小説の連載が決まりました」
「えっ! ママすごい! おめでとう!」(結)
「すごーい! 作家先生じゃん!」(蓮)
子どもたちが歓声をあげる中、事情をすべて知っている長女の真衣だけが、引きつった笑みを浮かべた。
「……ねえママ。それってつまり、『ママが書いたプロットがまた現実になっちゃうかもしれない危険な連載』ってこと……?」
「そうなの……!」
私は机に突っ伏した。
「私が不用意なピンチやシリアスな展開を書いたら、それが巡り巡ってB:DASHのみんなに降りかかるかもしれないの……! でも、平和すぎる日常ものだと編集部にボツにされちゃうし……どうすればいいの〜!?」
頭を抱える私を見て、レンくんがポカンとした顔で首をかしげた。
「……え、なに? オカンの小説って、俺らのこと予言してんの?」
「あっ!!」
しまった、と口を押さえたが時すでに遅し。
私と子どもたちの視線が一斉にレンくに集まる。
真衣が「ママ、言っちゃった……」という顔をし、蓮が「あーあ」と肩をすくめた。
レンくんはしばらく眉間にシワを寄せて考えていたが、やがてハッと目を見開いた。
「……あ! だからあの時、ホクトの無理を見抜けたり、俺の偏食のこと知っとったん!? え、オカンってマジで予言者なん!?」
「ち、違うの! 予言しようとして書いてるわけじゃなくて、なんか偶然リンクしちゃうというか……!
いや、偏食の件はレンくん推しの中では常識だし?」
慌てて弁明する私に、レンくんはガタッと立ち上がり、私の両手をがっしりと握りしめた。
「オカン……頼む!! 今度の連載で『レン、懸賞で超高級肉が当たる』って書いてくれ!!」
「そこかよ!!」
思わず芸人ばりの速さでツッコミを入れてしまった。
緊張感が一瞬で吹き飛び、リビングに子どもたちの爆笑が響き渡る。
「駄目だよレンくん、そんな個人的な欲に使っちゃ!(笑)」
「ちぇー、肉食べたかったのに……。でもさ、オカン」
レンくんは手を離すと、真顔になって私を見つめた。
「俺らがステージで最高に輝けるようなカッコいいストーリー書いてよ。もしピンチが来てもさ、俺たちB:DASHなら絶対乗り越えてみせるから。だからさ、遠慮しないで面白いの書いてよ!」
屈託のない、太陽のような笑顔。
最推しからのまっすぐな言葉に、胸の奥がキュッと熱くなった。
(……そうだよね。私が怖がってちゃ駄目だ。ファンとしても、作家としても、最高のストーリーを書かなきゃ!)
「……うん! わかった、任せて!」
こうして、玉木薫の「B:DASH予言(?)連載」が幕を開けた。
……しかし、この時の私はまだ知らなかったのだ。
第一話の原稿でうっかり書いた『謎のライバルグループの出現』という展開が、数日後、本当にB:DASHを揺るがす大事件に発展することを――。




