第六話:食卓のヒミツと、とんこつの風
夕食の準備が整い、みんなでテーブルを囲んだ。
今日のメニューは、子供たちも大好きな麻婆豆腐に、ミニトマトとツナのサッパリ和え、そして食後のお楽しみのケーキ。
「わあ、美味しそう!」と声を弾ませる子供たちの隣で、レンくんがふと箸を止め、少しだけ困ったような顔で料理を見つめていることに気づいた。
「レンくん、どうしたの? 口に合わない……?」
私が尋ねると、レンくんはハッと息をのみ、慌てて手を振った。
「あ、いや! 全然そんなことないと! ごめん、すごく美味しそうっちゃけど……実は俺、トマトちょっと苦手で……」
語尾に混ざった見慣れないニュアンスに、真衣と結が顔を見合わせる。
「レンくん、今『〜と』って言った? もしかして九州の人?」
「うわ、バレたかぁ……」
レンくんは照れくさそうに頭をかいた。
「そう。実は俺、福岡出身で。普段は意識して標準語で喋ってるけど、油断するとすぐ出ちゃうんだよね。あ、あと本当言うと……食後のケーキの生クリームも、ちょっとだけ苦手で……わがまま言って本当すみません」
『あーーーーファンとして何たる不覚!!!!レンくんのトマトと生クリーム嫌いなんて、ファンの中では常識じゃないか!!!!もーーーーファン失格!!!でもレンくんの博多弁は本当に貴重!マジで生博多弁!神!!』
アイドルとして完璧なパフォーマンスを見せる彼からは想像もつかない、素朴な偏食と、ふいに出たマイルドな博多弁。そのギャップに悶える母を横目に、食卓の空気が一気に和らいだ。
あ、いかんいかん。と正気に戻り
「 全然気にしなくていいのに。言ってくれてありがとうね」
私は微笑みながら、レンくんの分のお皿をさっと引き寄せた。
「じゃあ、サラダのかわりにきんぴらさんでも出そうかな。トマト、うちの真衣も食べれないんだよ。一緒だね。 だから、ほら真衣もきんぴらなの。 ケーキも生クリームじゃなく、ほかの生クリームない種類も買ってあるから大丈夫!安心して」
「そうそう。結も生クリーム苦手だから一緒だね、レンくん」
手早くキッチンへ戻り、冷蔵庫から常備菜のきんぴらを出してお皿によそう私の姿を、レンくんは目を丸くして見つめていた。
「え、……わざわざ準備し直してくれなくても…」
「我が家ではこれが普通! みんなで楽しく食べるのが一番美味しいんだから」
数分後、温め直したきんぴらの小皿をレンくんの前に出すと嬉しそうに目を輝かせた。
「うわぁ、美味そう……! ありがとう、いただきます!」
レンくんはハフハフと息を吹きかけながら、一口頬張った。その瞬間、ぱあっと顔が華やぐ。
「……うまっ!! めっちゃうまいです、これ! 久々にきんぴらなんか食べたな。れんこん入りのきんぴら……なんか、福岡の実家思い出すな。温かいなぁ」
「ふふ。私も今はこんなだけど、小さい頃は本当に好き嫌いが多くてね。無理に嫌いなものを食べなきゃいけないと食事が辛くなっちゃうじゃない?年取れば自然に食べれるものもきっと増えるし。だから、今は食べれるもの、たくさん食べてね」
「はい! こんなに美味しいご飯食べられたら、明日からのレッスンもめちゃくちゃ頑張れます!」
普段のクールな「B:DASHのレン」とは違う、一人の男の子としての素直な笑顔。ちょっとだけ顔を出しはじめた博多弁が、レンくんと私たちの距離を、ぐっと縮めてくれたような気がした。




