第5話:予言の小説と、小さなピンチ
「ごちそうさまでした! 本当にオカンのご飯は最高です」
大盛りのもやしハンバーグと山盛りサラダを平らげたレンくんは、心底満足そうにお腹をさすっていた。
「レンくん、ちゃんと野菜も全部食べたわね。えらいえらい」
「もう、子供扱いしないでくださいよ〜」
照れるレンくんを見て、真衣と結が楽しそうに笑う。
ふと、レンくんが私のPC画面に目を留めた。
「オカン、小説書いてるんですか?」
「ええ、まあね。一応、職業小説家ミステリー小説家だから」
「ママ、一応って…私はママの小説好きだよ」
「うん。結も好き」
「へえ……今度読んでみたいな。あ、そういえば僕、来週の生放送特番で新しい衣装を着るんですけど、演出でちょっとトラブルがあって……」
レンくんが何気なく漏らした言葉に、私はハッとした。
「トラブル? どんな?」
「衣装の装飾が急に変更になって、僕のだけサイズが合わないというか、怪しい破れ方をしてて……現場が少しギスギスしてるんですよね」
(……嘘でしょ?)
私は背中に冷や汗が流れるのを感じた。
さっきまで私がヨギボーの上でヘッドホンを聴きながら打ち込んでいた、あの原稿。
『――青年は暗い舞台裏で、自身の衣装に仕掛けられた不審な痕跡に気づく――』
完全に一致している。
「……レンくん、その衣装、絶対に自分で事前にチェックした方がいいかも。特に、舞台に出る直前に『裏地』と『留め具』」
私が真顔で言うと、レンくんは少し驚いたように目を見開いた。
「え? なんでそこまで……」
「なんとなく。直感よ。私のなんとなくは当たるの。怪しいと思ったら、すぐに信頼できるスタッフに見せること。遠慮しちゃだめだからね?いいわね?」
「ママの直感はマジで当たるから、絶対言うこと聞いた方がいいよ!」と小5の蓮も横から念を押す。
私の真剣な眼差しに押され、レンくんは力強く頷いた。
「……わかりました。オカンの言うことなら、信じます」
数日後。生放送の番組が終わった直後、私のスマホにレンくんからメッセージが届いた。
『オカン! 言われた通り衣装をチェックしたら、本番直前に留め具に意図的な切れ込みが入ってるのを見つけました! おかげで怪我も演出の失敗も防げて、別の衣装で無事に歌えました。おかんの直感!? マジで命の恩人です!』
画面を見ながら、私はヨギボーに深く沈み込み、大きく息を吐いた。
(やっぱり……また『予言』になっちゃった……)
でも、そのおかげで推しが無事にステージで輝けたのだから、結果オーライだ。
「ママー! レンお兄ちゃんからLINE? なんて?」
甘えん坊の蓮が私の右肩に顎を乗せながら覗き込む。
「ふふ、『オカンの言う通りにして良かった』って。今週末、またクッキー焼いて待ってようね」
「よっしゃー! クッキー!チョコ入れてー!」
「私はアーモンド入ったやつが食べたいな」
「じゃあ結はあのあれ!前に作ってたチーズっぽいやつ!」
観葉植物に囲まれた陽だまりの中で、我が家の少し不思議で温かい日常は、これからも続いていくのだった。




