第四話:陽だまりのヨギボーと二人の「れん」
週末の午後。我が家のリビングの角にある「私の城」は、今日もぽかぽかの日差しに包まれていた。
大きな観葉植物の鉢植えに囲まれたこの場所が、私の執筆スペースだ。大きなヨギボーに深く体を沈め、ノイズキャンセリングヘッドホンを装着する。流すのはもちろん、B:DASHの最新アルバム。
(よし、集中……)
キーボードを叩き始めると、周りの音が一切耳に入らなくなるのが私の癖だ。長女の真衣がピアノを弾こうが、次女の結が自称鼻歌という歌を歌い始めようと、私の世界は画面の中だけになる。
うちの次女、昔からよく歌を歌うけど、本人大体無自覚。鼻歌を歌ってるくらいのつもりで、しっかり歌ってるんだからびっくりしちゃう。
『――青年は暗い舞台裏で、自身の衣装に仕掛けられた不審な痕跡に気づく。しかし、彼はそれを誰にも言えず、一人で抱え込んでいた――』
画面に向かってゾーンに入っていた私は、ふと肩をトントンと叩かれてヘッドホンを外した。
「ママ、お茶のむ?……あと、お客様」
超ロングヘアをなびかせた真衣が、クスクス笑いながら隣を指さす。
視線を移すと、観葉植物の陰から、黒いキャップをかぶった背の高い青年がひょっこり顔を出した。
「……オカン、お邪魔してます」
「レンくん!?」
なんと、変装したB:DASHのレンくんが、我が家のリビングのソファーに当たり前のように座っていた。その隣には、小5の息子・蓮がぴったりくっついて、ゲームの画面を見せている。
「大きい方のレンお兄ちゃん、このステージ超難しいんだよ!」
「どれどれ? あ、ここは右にジャンプすればいけるよ、小さい方の蓮」
うん。馴染んでる…
「ちょっと、いつからいたの!?」と驚く私に、結がキッチンから顔を出して言った。
「もう一時間前からいるよ! ママ、ヘッドホンしてヨギボーに埋もれてたから全然気づかなかったでしょ」
「マネージャーさんに『少しだけ休憩させてほしい』って頼んで、車で送ってもらったんです。ここに来ると、なんだかすごく息ができて……」
レンくんは少し照れくさそうに笑った。華やかな芸能界の重圧から逃れられる、我が家は彼にとって「秘密の避難所」になりつつあるようだった。
「はいはい、理由はどうあれ、来たからにはご飯食べていくよね? 今日はもやしハンバーグだよ!」
「やったー! オカン(ママ)のハンバーグ!」
Wレンが声を揃えて喜ぶ姿に、私は思わず吹き出してしまった。




