第三話:W「れん」と、胃袋を掴まれた最推し
「はい、熱いから気をつけて食べなさい!」
ドスン、とレンくんの前に置かれたのは、どんぶりいっぱいの炊き立てご飯と、野菜がゴロゴロ入った豚汁。そして、大皿に山盛りにされた唐揚げと卵焼き。
「あの、本当にすみません……見ず知らずの者にこんな……」
恐縮しきりのレンくんに、私は腕組みをして言った。
「いいから! 若い男の子が朝から何も食べてないなんて身体に毒よ! ほら、レンくん……じゃなくて、お兄さん! 遠慮しないで食べなさい!」
「……いただきます!」
レンくんはお箸を手に取ると、まず豚汁を一口すすり、目を見開いた。
続いて唐揚げを口に放り込み、ご飯を勢いよくかき込む。
「……っ! うまい……なにこれ、めちゃくちゃ美味しいです……! さっきのクッキーもすごく美味しくて、サクサクで感動したのに……!」
モグモグと頬を膨らませて食べる姿は、ライブで見せる完璧な王子の顔ではなく、完全に「お腹を空かせた近所の男の子」だった。
「蓮、野菜も食べなさい。はい、キャベツの千切り」
「あ、はい! いただきます!」
「あ、ごめんなさい、今の『レン』はうちの小5の蓮のこと! ややこしくてごめんね!」
「あはは! 僕も『レン』なんで、なんか実家にいるみたいで落ち着きます!」
レンくんがくしゃっと笑う。その隣で、小5の蓮が誇らしげに胸を張った。
「ママの唐揚げすごいでしょー! 僕も大好きなんだ!」
「うん、本当に美味しい。こんな温かいお料理、いつ以来だろう……」
「レンくん、噛まずに飲まない! 胃に悪いから!」
「はいっ、オカン……あ、すみません!」
思わず「オカン」と呼びかけて焦るレンくに、子供たちがぷっと吹き出した。
「ふふ、ママってば、推しを前にしても完全にいつものママだね」
超ロングヘアを背中に流した真衣が、クスリと笑いながら冷たいお茶を注いで渡す。
「でも本当にB:DASHのレンくんなんだ……! Wレンになっちゃったね」
黒髪ロングを一つ結びにした結が、柔道部らしくキリッとしつつも楽しそうに笑う。
内心、私だってびっくりだ。絶対、推しをリアルに目の前にしたらぶっ倒れる!と思ってきたのに、いざ腹ペコ倒れる寸前の推しを目の前にしたらオカンモード全開になっちゃって…
あーーー…私、お化粧もしてないよ。眉毛あります?
マネージャーさんへの連絡も無事に済み、車を待つ間、レンくんはお腹いっぱいで心底ホッとした表情を浮かべていた。
「またいつでも食べにおいで。クッキーもまた焼いておくし。どうせうちは子どもが三人いて、毎日大盛りで作ってるんだから、一人増えたって変わらないわよ」
「……それ、本気にしてまた来ちゃってもいいですか? 僕、大きい方のレンとして!」
「もちろんよ! Wレンで仲良くご飯食べなさい!」
こうして、天下のトップアイドルと我が家の「オカンと子どもたち」の、不思議で温かい交流が始まったのだった。
などに進んでいくと面白そうです!
また思いついたアイデアや「ここをもっとこうしたい!」があれば教えてくださいね。




