第二話:公園のイケメンと、母特製のクッキー
翌日の日曜日、絶好の秋晴れ。
小5の蓮は「公園で遊んでくる!」と元気に飛び出していった。お気に入りのレッサーパンダが描かれバッグには、私が焼いたチョコチップクッキーを忍ばせて。
「ママ、Yシャツのアイロンやっていい?真衣のもついでにやる?そのかわり、後でピアノ弾いてほしいんだけど」
「結、ありがとうー。助かる!」
「ありがとう結。ピアノもいいよ。練習しとくね。」
家の中では、長女の奏でる優しいピアノの音が響き、次女がそれに合わせて心地よい歌声を口ずさんでいる。なんとも平和な日曜日の午後――のはずだった。
「ママーー!! たすけてー!」
バタバタバタ!と玄関のドアが勢いよく開き、蓮が大声で叫びながら飛び込んできた。
「ちょっと蓮!? どうしたの、怪我でもしたの!?」
慌てて玄関に向かうと、息を切らした蓮の後ろに、ひょろりと背の高い青年が立っていた。
黒いバケットハットを深めにかぶり、黒マスクに大きなダテ眼鏡。
あからさまに怪しい変装だが、隙間から見えるスタイルと顔立ちの良さは隠しきれていない。そして何より――青年はお腹をギュッと押さえ、今にも倒れそうなほどフラフラだった。
「蓮、このお兄さんは……?」
「あのね! 公園のベンチでうずくまってて『お腹すいた……』って言ってたから、ママのクッキーあげたの!」
蓮が差し出した袋の中身は、すでにほとんど空っぽになっていた。
「そしたら『うまい……泣きそうなくらい美味い……』って感動してたから、もっとご飯食べにうちに来る?って連れてきた!」
「えぇっ!?」
青年は申し訳なさそうに帽子を少し上げ、頭を下げた。
「あの……すみません、怪しい者じゃないんです。マネージャーとはぐれて、スマホも落としちゃって……朝から何も食べてなくて。僕、あのクッキーで命を救われました……」
帽子とマスクがズレた瞬間、私は息をのんだ。
(え………………B:DASHのレンくん……!?)
そこにいたのは、間違いなく昨夜テレビ画面の向こうで輝いていた、私の最推し・レンくんだった。
「……とにかく! 外に立ってないで上がりなさい! 倒れちゃうでしょ!蓮も手洗ってね!」
推しを前にして動転するかと思いきや、私の口から出たのは完全に近所のオカンの説教だった。
「真衣! 結! 手伝える?お湯沸かして! 豚汁温め直して! ご飯炊飯器にどのくらい残ってたっけ?」
「「え、誰……って、えぇーーーっ!?」」
リビングから出てきた真衣と結が悲鳴を上げる中、レンくんは我が家のダイニングチェアにポツンと座らされたのだった。




