第15話:『ロンドンの熱狂と、待ち合わせのカフェ』
【語り:真衣】
ついに迎えた、B:DASHロンドン公演の当日。
会場である『シェパーズ・ブッシュ・エンパイア』の周りには、現地イギリスの音楽ファンやヨーロッパ各国から駆けつけたファンで長蛇の列ができていた。異国の地でこれほど愛されているレンくんたちの凄さに、入場前から鳥肌が立つ。
開演を告げるベルが鳴り、場内が暗転すると、地鳴りのような歓声が上がった。
『Shepherds Bush! Are you ready!?』
ステージ中央の暗闇から聞こえたのは、あの力強く流暢な英語。
スポットライトが照射された瞬間、そこには世界を相手に堂々と立つレンくんの姿があった。
重低音がお腹に響く圧倒的なダンスパフォーマンスと、会場全体を飲み込むようなボーカル。激しいダンスの合間にも、レンくんはネイティブ顔負けのMCで現地の観客を煽り、一瞬でフロアの心を掴んでいく。
「英語ペラペラで……ダンスも歌もキレキレで……レン兄、マジで神だ……!」
蓮は口を半開きのままステージに釘付けになり、目を輝かせている。結も手を振りながら「レンくん凄すぎるよー!」と大叫びだ。
そして何より、隣に立つママの姿が印象的だった。
手を胸の前でぎゅっと握りしめ、溢れ出る涙を拭うことも忘れてステージを見つめている。ファンとしての矜持を守り、客席から届ける真剣な眼差し。その瞳には、すでに新しい物語のインスピレーションがキラキラと弾けているようだった。
ラストの曲が終わった瞬間、歓声と拍手の嵐。
国境も言語も超えて一つになった会場で、私たちは声を限界まで張り上げて拍手を送り続けた。
◇
熱狂のライブから一夜明けた、ロンドンの爽やかな朝。
私たちはハイドパーク近くの屋外カフェで、焼き立てのスコーンと紅茶を前に寛いでいた。
ママはどこかまだ昨日の興奮から抜けきらず、いつも以上にぼーーっとしている。
そこへ、ビシッと仕立ての良いスーツに身を包み、革のキャリーケースを引いた男性が歩いてくる。
「皆様、おはようございます。ロンドンの旅はいかがですか?」
「「「佐藤さん!!!」」」
約束通り、ライブ翌日に後追いでロンドンへ合流した佐藤さん!
長いフライト直後とは思えないほど爽やかな笑顔で、ごく自然に私たちのテーブルの隣の椅子を引き座った。
その瞬間だった。
「……ふぅーーーー……っ」
ママが、今まで聞いたこともないような深い深呼吸とともに、椅子の背もたれに体を預けたのだ。全身の力が一気に抜け、いつものほんわかとした柔らかい空気がママを包み込む。
「……よかったぁ。佐藤さんが来てくれて、本当に安心したわ……」
いつも温かくマイペースなママ。だけど、言葉も文化も違う異国の地で子供たち3人を連れているのだ。「私がしっかりしなくっちゃ」と、日本を出てからずっと、心のどこかで緊張の糸をピンと張り詰めていたのだと思う。
「えっ……ママ、緊張してたの!? 全然気づかなかった!」
「ほんとだよ! いつも通りマイペースで楽しんでると思ってた!」
結と蓮が目を丸くして驚くと、ママは照れくさそうに「えへへ」と笑った。
「そりゃあ緊張するわよ〜。みんなのお母さんなんだから。でもね、佐藤さんがいてくれたらもう百人力だわ」
そんなママの様子を優しく見守っていた佐藤さんは、少し目元を緩めたあと、内ポケットから完璧にリサーチされた特製の『ロンドン取材&観光マップ』を取り出した。
「先生、本当によくお一人で皆さまをここまでエスコートされましたね。素晴らしいです。……ですが、ここからは私の仕事です。どうぞ肩の力を抜いて、ロンドンを楽しんでください」
「はい! よろしくお願いします、佐藤さん!」
すっかり肩の力が抜けて、いつものほんわか笑顔を取り戻したママ。
方向音痴のママ、地図が読める私、ボディランゲージの結と蓮、そして最強の「影のマネージャー」佐藤さん。
頼もしすぎる最高の布陣で、玉木家のロンドン取材旅行が本格的にスタートした——!




