第14話:『パスと矜持と、楽屋のWレン』
【語り:真衣】
約14時間のフライトを経て、私たちの足はついにロンドン・ヒースロー空港に降り立った。
「うわぁ……! 本当に海外に来ちゃった……!」
ひんやりとした空気と、重厚な石造りの街並み。道路を滑るように走る真っ赤な2階建てバス(ダブルデッカー)に、私と結と蓮は大興奮!
……と、次の瞬間。
「あっちの可愛いカフェ、ちょっと見てくるわね〜」とフラッと歩き出したママが、一瞬で人ごみの彼方へ消えた。
「ちょっとママ!! どこ行くの!?」
慌てて追いかける私。しかし、ここからが玉木家チームワークの真骨頂だった。
ママは筋金入りの方向音痴だが、実は昔から英語が得意でそこそこ話せる。「Excuse me, counter...」と流暢な英語で現地の人に聞き込みをし、私がスマホのMAPアプリと標識を照らし合わせてルートを特定。結と蓮は「サンキュー! ベリーマッチ!」と大げさな身振り手振りと弾ける笑顔で現地の人とすっかり打ち解けている。
「英語が喋れる方向音痴のママ」×「地図が読める私」×「ボディランゲージ最強の結&蓮」。
全員の個性が噛み合い、なんとか無事にホテルへ到着した。
◇
夕方。会場となる伝統ある劇場『シェパーズ・ブッシュ・エンパイア』の下見へ向かった。
ホテルに着いた直後、レンくんから連絡が入っていた。
『薫さん、みんな! 楽屋口から入れる特別パス関係者受付に預けてあるから、前日リハーサルの後に楽屋おいでよ!』
「レン兄、パス用意してくれてたんだ! すげえ!」とテンションが上がる蓮。
だが、ホテルのロビーでママは優しく首を振った。
「私は楽屋には行かないからみんなで行っておいで?」
「えっ? なんで? レンくんがせっかく用意してくれたのに!」と驚く結に、ママは劇場のポスターを見上げながら、キリッとした笑顔を見せた。
「レンくんはいま、アーティストとして世界と戦うために全神経を研ぎ澄ませている最中。そんな大切な時間に、B:DASHのファンとして踏み込むなんて……恐ファンとしての吟治が許しません!!!私は一人のファンとして、明日客席から全力で応援します!」
クリエイターとして、そして一人のファンとしての矜持。
絶対に一線を踏み越えないママのスタンスに感銘を受けつつも、「でも、レンくんガッカリしないかな……」と心配する私たち。
「だからね、結と蓮。ふたりでママの代わりに『明日楽しみにしてるよ!』って楽屋に伝えてきてくれないかな?真衣興味があるなら3人で。 子供たちの笑顔なら、きっとレンくんの緊張もほぐれると思うの」
「うん! 任せて!」
◇
私とママは劇場の近くのカフェで待機し、結と蓮のふたりで楽屋口へ。
パスを見せて重厚な扉をくぐり、楽屋へ向かうと、そこには衣装を着て集中を高めているレンくんがいた。
「結! 蓮! おー、来てくれたんか!」
「レン兄! 関東大会のお返しに応援しに来たよ!」
「レンくん、ママは『本番までファンとして客席で待ってるね』って! これ、ママからの差し入れとメモ!」
渡されたメモには、ママの手書きで『最高の風を吹かせてね!』とだけ書かれていた。
「……くぅ〜、薫さんらしいなぁ! ほんとカッコよすぎるんだわ」
レンくんは嬉しそうに目元を緩めると、蓮の肩を強く抱き寄せた。
「蓮、結、ありがとうね。薫さんにも伝えておいて。『明日、客席の一番後ろまで届くパフォーマンス見せるから覚悟しといて』って!」
「うん!!」
Wレンの熱いハイタッチが楽屋に響く。
楽屋には行かなかったママの思いと、直接熱いエールを届けた結と蓮。
明日はB:DASHのロンドン公演本番。
そして明後日には、頼れる「影のマネージャー」佐藤さんもロンドンに追っかけてやってくる。
玉木家の熱いロンドンの夜が、いよいよ幕を開ける——!




