第13話:『羽田発、未来行きのフライト』
【語り:真衣】
ついにやってきた、ロンドン出発の日。
早朝の羽田空港国際線ターミナルは、これから始まる大冒険への高揚感と、独特の熱気に包まれていた。
「うわぁ〜! 飛行機いっぱい! 大きいねぇ!」
新品のパスポートを手にしたママが、大きな窓から滑走路を見上げて子供のように目を輝かせている。無事に家族全員のパスポートが手に入り、スーツケースを並べた玉木家。そして、そこには当然のように佐藤さんの姿もあった。
「先生、パスポートとチケットは手元にありますか? 落とさないでくださいね」
「はーい、佐藤さん! ちゃんと持ってるわよ〜」
相変わらず完璧な「影のマネージャー」ぶりを発揮する佐藤さんだが、今スーツケースを持っていない。
「佐藤さん、本当に見送りだけですか? 一緒に乗っていけばよかったのに……」
結が少し寂しそうに尋ねると、佐藤さんは優しく目元を緩めた。
「ふふ、結ちゃん。B:DASHのロンドン公演は、レンくんたちが全身全霊で挑む特別なステージです。まずはご家族みんなで、純粋に彼の晴れ舞台を全力で応援してきてください。……それに、僕には日本で片付けるべき仕事もありますからね」
「仕事……?」と私が首をかしげると、佐藤さんは少しお茶目に微笑んだ。
「ええ。先生の留守中のデスクワークと、新作の出版に向けた打ち合わせの仕込みです。そして……レンくんのライブが無事に終わった翌日、僕も後追いでロンドンに飛んで合流します」
「「「えぇぇぇっ!?」」」
私と結、そして蓮の声がハモった。
「合流って……佐藤さん、ロンドンまで追っかけてくるの!?」
「当たり前でしょう。ライブの後は、先生の大切な『ロンドン取材旅行』の本番です。現地の案内も、美味しいレストランの予約も、僕が責任を持ってお供しますからね。……それに、先生を海外で一人にしておけません」
「! 佐藤さん、後から来てくれるの!? めっちゃ安心した!」と大喜びの結。
それを見て「まぁ。佐藤さんモテモテ〜」とどこまでもマイペースなママ
さすが佐藤さん、どこまでも隙がないというか、頼もしすぎる……!
◇
(※なお、主役のレンくんたちB:DASHメンバーは、機材調整や現地リハーサルのため数日前の便でひと足先に現地入りしている)
搭乗案内が始まり、私たちは保安検査場へと向かった。
「それじゃあ佐藤さん、行ってきます! ロンドンで待ってるからね!」
「ええ、気をつけて。真衣ちゃん、結ちゃん、蓮くん、お母さんを頼みますね。レンくんのライブ、しっかり目に焼き付けてきてください」
佐藤さんは温かい目で見送ってくれた。
タラップを渡り、機内のシートに腰掛けたママは、膝の上に置いた新しいノートをそっと撫でた。
「ママ、いよいよだね」
「うん! レンくんの最高のステージを見て……そして佐藤さんが合流したら、ロンドンの街をいっぱい歩くの。なんとなく、すごい物語が書けそうな予感がするの」
ママはそう言って、少年のように澄んだ瞳で窓の外を見つめた。
飛行機が滑走路を走り出し、フワリと体が浮き上がる。
窓の外には、雲ひとつない青空が広がっていた。
ママの『なんとなく』の予言から始まった物語は、羽田の空を越えて、ついに熱狂のロンドンへ——!




