第12話:『スタジオの風と、ふたりの誓い』
【語り:真衣】
陸上の関東大会という大きな舞台を走り抜き、見事に自己ベストを更新してひと段落ついた蓮。
そんな蓮への「お疲れ様祝い」として、レンくんから「俺らの事務所のスタジオ、遊びに来てみる?」と特別な招待が届いた。
「うわぁ……! 本物のダンススタジオだ……!」
大都会のビルのあるレンたちの所属する事務所オフィス。そこに併設されている専用スタジオ。防音の重い扉を開けると、一面の大きな鏡と重低音が響く最高の空間が広がっていた。目を輝かせる蓮を、汗だくのタンクトップ姿のレンくんが出迎えてくれた。
「おー、蓮! 関東大会、ほんとお疲れさん! すごい走りやったな!」
「レン兄! ありがとう!」
蓮は憧れの眼差しで周囲を見回している。そこへ、スタジオのスピーカーから外国人のスタッフの声が響いた。ロンドン公演に向けた現地スタッフとのオンライン打ち合わせの最中だったらしい。
『Hey Ren, about the bridge in track 3, do you think we should adjust the tempo for the UK crowd?』
すると、レンくんはヘッドセットのマイクを引き寄せ、迷いのない流暢な英語で返し始めた。
『 Yeah, totally. I think a slightly faster BPM will get them hyped up. Let's keep the energy high from the start. Leave it to me! 』
発音もナチュラルで、まるでネイティブのような堂々とした対応。
呆然と口を開けて見つめる蓮に、打ち合わせを終えたレンくんが少し照れくさそうに笑った。
「……あ、びっくりした? 実は俺、昔海外の音楽聴きまくって独学で勉強しててさ。今もオンラインでネイティブの講師から本格的に英語のレッスン受けてるんだよね。グループの中やと、一応俺が一番英語喋れる立ち位置だからなおさら頑張ってるとこ」
「すごすぎるよ、レン兄……! ダンスも歌もカッコいいのに、英語までペラペラなんて……!」
「へへ、格好ついたみたいで良かったわ。でもな、蓮」
レンくんは笑みを消し、真剣な目で蓮の肩をポンと叩いた。
「関東大会での蓮の走り、マジでシビれた。極限まで自分を追い込んで、タイム削って……あの真剣な目は、俺に『ロンドンから逃げるな』って教えてくれたから。蓮がバトン繋いでくれたから、次は俺の番やなって思えた」
「レン兄…」
立場は違えど、互いの限界に挑み続けるアスリートとアーティスト。二人の間には、言葉を超えた強いリスペクトと絆が流れていた。
◇
その頃、玉木家のリビングでは、相変わらず佐藤さんが「影のマネージャー」として異次元のサポートを発揮していた。
「先生、現地のホテルと専用車のチャーターは完了してます。それからB:DASHのライブ会場でのVIP優先パスは先生がご自分でって話でしたけど、大丈夫ですか?」
「 佐藤さん、本当に何から何まで……! 私、旅行会社に頼んだかしらって思っちゃうわ。ライブのチケットの方はもちろん完璧!そこだけは任せて!!」
「はは、僕の趣味みたいなものですから」
手際よくセキュリティポーチやコンセントの変換プラグまで用意してくれる佐藤さん。そこへ、スタジオ見学を終えたレンくんと蓮が帰ってきた。
「佐藤さん……薫さんたちのこと、ありがとうございます。俺、安心してロンドンのステージに集中できます」
レンくんが真面目な顔で頭を下げると、佐藤さんは少し驚いたように目を見開き、それから柔らかく頷いた。
「任せてください、レンくん。君は世界中のファンを魅了することだけに集中してください。客席から、みんなで君の背中を支えますから」
「……はい!」
大人の余裕で見守る佐藤さんと、英語もパフォーマンスも磨き上げて世界へ挑むレンくん。二人の間に、どこか通じ合うような男同士の頼もしい信頼が生まれていた。




