第5話:大学裏の変装男子と、推し活探偵の急襲
水曜日の放課後。
私は大学の講義を終えると、周囲を警戒しながらキャンパス裏の路地へと向かっていた。
バケットハットを目深にかぶり、マスクと伊達メガネで厳重に変装した人影が、電柱の陰からひょっこり顔を出す。
「お、真衣ちゃん! こっちこっち!」
声をひそめて手招きするのは、ママの推しB:DASHのレンくんだった。
いくら変装していても、そのスタイルと滲み出るオーラでファンが見たら一発でバレそうな危うさがある。
「レンくん……! なんでこんなところで待ち合わせなの? 誰かに見られたら大騒ぎになっちゃうよ」
「へーきへーき、ちゃんとスタッフの車を裏に回してあるから! 実はね、今度B:DASHで出す新曲のMVロケ地のロケハンで近くまで来ててさ。真衣ちゃんに『ある場所』を見てほしかったんだよね」
「私に……?」
「うん。結ちゃんから聞いたよ。昨日できたやつ!めっちゃ切なくていい歌詞書いてくれたんやって? 実はさ、その映画のロケ地にもなってる『夕暮れのレトロな喫茶店』がこの近くにあるらしくてな。プロデューサーと『ミモザが作る歌詞のイメージの参考にもなるんじゃないかって。』って話になったんよ。」
レンくんは悪戯っぽくニカッと笑った。
なんだ……恋の予感とかじゃなくて、純粋に仕事の相談だったんだ……! よかった……!)
「YUIのためにプロデューサーさんにもレンくん相談してくれてるの?本当に結がお世話になってます。」
胸を撫で下ろす私。
しかし、その安堵も束の間――
「――あそこにいる怪しい二人組……物凄く見覚えのあるオーラを感じる……!!」
聞き覚えのあるはんなりとした京都弁が、路地の入口から響き渡った。
「っ……!?」
振り返ると、そこには大量のYUIグッズをカバンに付けた親友・吉野 琴音が、双眼鏡を構えて仁王立ちしていた。
「な、なんで琴音がここに……!?」
「真衣ちゃん!!!? その隣の怪しい帽子男は誰なん!? もしかして……ミモザ捜索隊の私の目を盗んで、大学裏で極秘取材を受けている『ミモザ様』本人……!?」
琴音の「推し活探偵」としての勘が、恐ろしいほどの勘違いと鋭さで大爆破している!
「ち、違うの琴音! この人は私の知人で——」
「甘いわ真衣ちゃん! そのバケットハットの被り方、独特の関西弁のニュアンス、そして何より……あれ?なんや、B:DASHのレンくんにシルエットが激似やないかっ?!!」
「ば、バレてるーーーっ!?」
レンくんが思わずマスクの上から目を丸くする。
「だめだ!真衣ちゃん、逃げるよ!!」
「えっ、ちょっとレンくん!?」
レンくんは私の手首を掴むと、脱兎のごとく路地を走り出した!
『夕暮れの改札口 人波に消える影 伸ばしかけた手と、零れ落ちた言葉』
『すれ違う足音のなかで 君が振り返る理由を 私はまだ知らない——』
昨日、私がヨギボーの上でミルクティーを飲みながら書いた歌詞が脳裏を駆け抜ける。
(えーーーーーー!まさかのコレ??……切ない恋のすれ違いの歌詞を書いたはずなのに! ?なんで『レンくんと手を引っ張られながら親友から逃亡する』ギャグ展開のことだったの!?全然、恋の欠片とないじゃないーーーー!)
夕暮れの街を、人気アイドルのレンくんと、クールビューティー(仮)の私、そして「待ちなさーーーい!」と叫びながら追いかけてくる推し活探偵の琴音。
母譲りの「予言」の旋風に巻き込まれながら、私の平穏な大学生活はどこまでも遠ざかっていくのだった——!
私の初恋はまだまだ遠そうです。




