第二話:密着!真衣の告白現場(と、過保護な二人の迷走)
「……ねえレンくん、本当にこれでバレないと思ってる?」
放課後の校門近く、植え込みの陰から身を乗り出しそうになるレンくんを、薫が慌てて引っ張り戻す。二人は今、怪しさ満点のサングラス(レン持参)を装着し、校門の向こうをじっと見つめていた。
視線の先にいるのは、凛とした佇まいで弓道の道着を身につけた長女の真衣。そして、その隣で少し緊張気味に歩く同級生の男子生徒だ。
「オカンこそ、落ち着いてくださいよ!怪しまれますって!」
「落ち着いていられるわけないでしょ!真衣が昨日『明日の放課後、弓道場の裏で大事な話があるの』って部屋で電話してるの聞こえちゃったんだから!あんな顔して話してる真衣、初めて見たんだから……!」
「まあ、娘の初恋(?)が気になる気持ちは分かりますけど……」
「気になるどころじゃないわよ!ママとして、あの子がどんな相手に告白されるのか(あるいはするのか)見届ける義務があるわ!」
「義務なのか、それは……」
レンは呆れつつも、真衣と一緒に歩く男子生徒を鋭い目つきで睨みつけた。
(あいつ、どこの馬の骨だ……真衣ちゃんに何かしたらタダじゃおかないぞ……)
二人がコソコソと距離を保ちながら尾行を続けていると、真衣と男子生徒は静かな弓道場の裏手、大きなクスノキの木の下へと向かった。
「しっ!静かに!あそこよ!」
薫とレンは近くの物置小屋の陰に滑り込む。
遠目に見える真衣は、普段のしっかり者な雰囲気とは少し違い、どこか緊張した面持ちで佇んでいる。夕日が射し込み、弓道の道を志す彼女の佇まいが一層凛として見えた。
男子生徒が深呼吸をし、意を決したように口を開く。
「真衣さん!俺、ずっと前から――」
「待ったーーーっ!!!」
「ちょっとレンくん!?!?」
耐えきれなくなったレンが物置の影から飛び出しそうになり、薫が「うちの娘になにするの!」と全力でレンを止めようと引き止める。二人はそのままもつれ合い、ドッカ〜ン!と大きな音を立てて物置の前に転がり出た。
「……え?」
「うわっ!? 誰ですか!?」
固まる真衣と男子生徒。地べたに倒れ込み、サングラスがズレた無様な格好のママ・薫と自称兄・レン。
静寂が場を包み込む。
真衣は深くため息をつくと、地面に転がる二人を見下ろして冷ややかに言った。
「……ママ、レン兄。何やってるの?」
「あ、いや!これはだな!散歩をしていてだな……!」
「そうそう!真衣、弓道場の近くって空気が綺麗だから、ママちょっと深呼吸を……!」
苦しい言い訳を並べる二人に、真衣は呆れたように頭を抱え、隣の男子生徒に向き直った。
「ごめんね、堀田くん。うちのママと兄?みたいな人が変な動きして邪魔しちゃって。……で、さっきの続きだけど」
「は、はい!真衣さん、弓道部の次の部長、引き受けてくれますか!俺、副部長として全力で真衣さんを支えますから!」
「……え?」
固まる薫とレン。
「うん、迷ったけど、私で務まるなら頑張ろうかな。一緒に良い部にしていこうね」
真衣は爽やかに答えると、堀田くんに「また明日ね」と手を振り、そのまま仁王立ちで薫とレンに向き直った。
「……二人とも。告白の現場とでも思って尾行してきたでしょ?」
「「……滅相もございません」」
「はぁ……。弓道部の部長引き継ぎの話だよ。ママもレン兄も、過保護すぎるし、二人でバタバタ騒いですぐ目立つんだから!」
夕暮れの校庭に、しっかり者の長女からの容赦ないお説教と、薫&レンの「ごめんなさい」が虚しく響き渡るのでした。




