第一話:クールな長女と、突然のモテ期
春だ。
4月を迎えて我が家の3人の子供たちもそれぞれ無事に進級をした。
高二になった長女・真衣は、一言で言えば「超・ドライ」だ。
年の離れた弟の蓮の面倒もよく見るし、家事も手伝ってくれるしっかり者だが、同年代の流行りや恋愛事には驚くほど興味がない。休日も部屋で小説や漫画を読んでいるか、イヤホンで音楽を聴いているのが彼女の至福の時間だ。
そんな真衣に、ある日突然、天変地異レベルの事態が巻き起こった。
「ママ、ちょっといい?」
平日の夕方。学校から帰ってきた真衣が、眉間に深々とシワを寄せながらリビングに入ってきた。
「どうしたの真衣? なんか難しい顔して」
「これ。下駄箱に入ってた」
真衣がカバンから取り出してローテーブルにパサッと置いたのは、ピンク色の可愛らしいシールで封がされた手紙――そう、『ラブレター』だった。
「ええぇぇぇっ!? ラ、ラブレター!?」
「声が大きい」
私が驚いて叫ぶ横で、真衣は冷めた水筒の水を一口飲み、心底めんどくさそうなため息をついた。
「今週に入ってこれで3件目。体育科のサッカー部の人と、クラスの男子と、あと図書委員の先輩」
「さ、3件!? 凄まじいモテ期じゃない!!」
「意味わかんない。私、誰とも大して喋ってないんだけど。サッカー部の人なんて『いつも凛としててカッコいいと思ってました』とか書いてあって意味不明。私、ただ日差しが眩しくて目つき悪くなってただけなのに」
呆れ果てる真衣。どうやら本人は、自分が思っている以上に無自覚に「クールで凛とした美少女」として周囲の男子を密かにキュンとさせていたらしい。
その時だった。
「ただいまー! オカン、今日のご飯なにー?」
変装用の眼鏡をかけた我が家の座敷わらし的立ち位置になりつつある最推し・レンくんが、いつものように自然にリビングに滑り込んできた。
「あ、レンくんお疲れ様。今日はカレーがあるよ?」
「って、オカン!ちょっと待って!」
ローテーブルの上のピンクの手紙を目ざとく見つけたレンくんが、ピクッと動きを止めた。
「……オカン。これ、何?」
「え、あ、いや……真衣への手紙というか……」
「真衣ちゃんに?男!?!?!?」
レンくんの声がリビングに響き渡った。
「ちょっとレンくん、静かにして! 結も蓮も2階にいるんだから!」と真衣に注意されるレンくん
だが、そんなことはお構いなく、「静かにできるか!! 誰だその男は!? サッカー部!? チャラい! 絶対チャラい!! 真衣ちゃん、騙されたらアカンぞ!!」
自分の胸ポケットからスマホをバッと取り出し、なぜか真衣の手紙を検分しようとするレンくん。
実の兄どころか、過保護すぎる父親のような慌てぶりだ。
「うるさいなー、レンくん。私、誰とも付き合う気ないからほっといて」
真衣は眉一つ動かさず、手紙を鞄に仕舞い込んだ。
「男子と付き合うくらいなら、家で小説読んでる方が100倍有意義。告白も全部断るし」
「えっ……ま、真衣ちゃん……! えらい! さすが俺の妹(仮)!!」
感涙にむせぶレンくん。
(えーーーー…ママは真衣のリア充ラブラブカップル見たいのに…)
なんて思って真衣を見れば、そんな視線や思いはすぐにバレ、軽く目で制される。
だが、私はハッとして背中に嫌な汗をかいた。
(待って……私、昨日送信した『玉木薫』の連載プロット……なんて書いたっけ……?)
慌ててノートパソコンを開き、送信済みのテキストファイルを確認する。
『クールな女子高生の主人公。彼女は恋愛に全く興味がないにもかかわらず、なぜか周囲の男子から次々と告白されてしまう「無自覚モテ期」に突入する。しかし、その陰には彼女を陰ながら見守る「過保護な保護者(お兄ちゃん的存在)」の影があり――』
(完全に真衣とレンくんのこと書いてるーーーーーーーッ!!)
頭を抱える私に、真衣が冷ややかな視線を送ってきた。
「……ねえママ。まさかとは思うけど、また余計なこと書いた?」
「ご、ごめんなさい!! 今回も無意識に…でも悪気は無い!あくまで予言的な…もともと起こることを書いちゃってるだけで、別にママのせいじゃない!ただ情報の先取り?!的な!」
「オカン! その小説、真衣ちゃんに寄ってくる悪い虫(男子)を追い払う展開にしてくれ!!」と叫ぶレンくん。
「ママ、マジで変な胸キュン展開とか書かないでよ。全部バッサリ断る予定だから」と釘を刺す真衣。
「だから…ママの小説にそんな力はないって…どうなるか決めるのは本人だからーーーー」
こうして、恋愛気質ゼロな長女の「無自覚モテ期」と、過保護すぎる最推しレンくん、そして予言作家・玉木薫の新たなドタバタ劇が幕を開けたのだった――!




