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好きになった年上の人は、もういない  作者: 三ノ宮 みさき


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8/23

突然の落下、広間のシャンデリア

自分にしかブラックベア姿は見えていないのか、そんな馬鹿な?

 女は子どもたちに小さなパンケーキを渡し、鍋にこびりついたジャムをすくい取ってのせてやる。

「最後のジャム、味わって食べよう」

「美味しい、この間、食べたのより甘いね」

 女の子たちの会話に女は笑った。

「完熟したベリーの実だから甘いのよ」

 女の子たちは驚いた。

「あたし達、お姫様みたいね。こんな美味しいジャムが食べられて」


 サイラスは城に戻り王に伝えるしかないと思った。

 正直に言うとかないと思った、買えなかったと。

「終わりだそうです。実がなるまで待ってくれと言われました」

「なんだと、まだ森には赤いベリーはあるのだろう」

 王の言葉にサイラスは返事に困った。

「平民にしては生意気というか」

「そうですわ」

 そばにいた側近の騎士と貴族が不満を漏らす。

 お前たちは知らないからだとサイラスは言いそうになった。

 女の背後にいたブラックベア、あれは本当に幻影だったのか。

「私が参りましょうか」

 そういったのは宰相のアイザックだ。

「やめろ」

 サイラスは思わず叫んだ。

 そのとき、奇妙な音が広間に響いた。


「どうした」

 王が声をあげた、そのとき、貴族だけではない、騎士たちも気づいた。

 天井を見上げる、シャンデリアが揺れているのだ。

 広間には風が吹いているわけではない。

 貴族たちの顔から、一斉に血の気が引いた。

 次の瞬間。

 巨大なガラスのシャンデリアが落下した。

 凄まじい音、床一面に無数の砕けた破片、騎士たちは反射的に王の前へ立つ。

 誰一人、口を開かない。

 サイラスは砕け散ったシャンデリアを見つめながら、無意識に拳を握り締めていた。

 ガラスの破片、その光があのブラックベアの目に似ていると思ったのだ。



「アイザック、実は」

 その日、王が声をかけてきた時、宰相のアイザックは正直、嫌な予感がした。

 サイラスが城に戻ってきてから翌日のことだ。

「街に行こうと思う」

「ジャムは買えませんよ」

 分かっていると王は答えながら気になるのだと言葉を続けた。

「知りたいのだ、売っている人間のことを、銀貨三枚は決して安くはない、売っている量も決して多くはない」

「平民にしてみれば生活助けにはなります」

「それは、確かに、そうかもしれない。だが」

「ただの好奇心なら、おやめください」

 アイザックは顔をしかめた。

「サイラスの様子が気になる」

 アイザックは無言になった。

「シャンデリアが落ちただろう」

「あれは古くなっておりました」

 アイザックは答えた。

「調べさせました。吊り下げていた鎖は錆びが進み、内部まで傷んでいました。いつ落ちても不思議ではありません。」

 王は頷いた、自分も報告を聞いて事故だと思っていると頷いた。

「では、何が気になるのですか。」

「周りの者は皆、落ちてきたシャンデリアに驚いていた。」

「当然です」

「だが、サイラスは、様子がおかしかいと思っ」

 考えすぎですとアイザックの言葉に王は、それならいいと呟いた。

「気のせいで済ませるには、何かあったのではないかと思っている」

 アイザックは悩んだ。

 下手をすればこっそりと城を抜け出して一人で出掛けるかもしれない。

 そんな事はさせられないと思った。


 

「ジャムを売っていた人間?」

 街の市場へ出掛けた王とアイザックは変装していた、完璧だと思っていたが。

 声をかけられた男は胡散臭そうな人間を見る視線だ。

「カイゼルに会う?あいつは街にだって滅多に来ない。余程の事がない限りはな」

 王が訝しげな顔になった、アイザックがどういうことだと尋ねる。

 男は自分の顔を指さし、見られたくないんだよと呟いた。

「顔の傷だ、気にしない人間もいるが、全員がそうじゃない。かなりひどいからな」

 男は女房も、それで逃げたと呟いた。

「まあ、あの女は貧乏な生活に耐えられなかったのか。男ができたのか」

 男は笑ったが、次の瞬間、表情が変わった。

「ジャムを売っている人間を知りたいって、それだけか」

 まるで胡散臭い人間を見るような視線だ。

「街の人間だって滅多にあいつの家には行かねえ」

 その言葉に王の顔色が変わった。

「どういうことだ」

 男は森の近くに住んでいるんだよと言った。

「獣にやられたんだろう、運が良かったんだ」


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