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好きになった年上の人は、もういない  作者: 三ノ宮 みさき


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訪ねてきた女、驚きの光景

 その日、珍しく家を尋ねてきたのは以前、持ち込んだ芋を買い取った中年女性だ。

 あれから一度だけ、カイゼルは女に芋を売った。


「カイゼル、あんた、あの芋をどうやって育てたんだい」

 女は困惑の表情だ。

「育たなかったのか」

 女は首を振った。

「埋めたまでは良かったんだ」

 女は呟いた。

「ブラックボアだよ」

 意味がわからずカイゼルは聞き返した。

「何を言ってる?」

 それも今まで見たことのないくらい、大きい猪がきたんだよと女は、ぼつりと漏らした。

 意味がわからない、女の家は街の中程の場所だ、畑も広く、大きいわけではない。

 ブラックボアが、わざわざ、街中の小さな畑まで来た、冗談だろうと思った

「大丈夫だったのか」

 女は芋だけと呟いた。

「他の野菜には食われてなかった、イモをだけだよ」

 女の言葉にカイゼルの表情が変わった。

 わざわざ森からやってきて、街の小さな畑の芋だけを掘り起こして食べたのか。

 森の獣が街中までやってきたというのが驚きだ。

「あの芋、子どもたちが凄く美味しいって、生で食べたんだよ」

「おい、腹は大丈夫だったのか?」

 イモを生で、獣じゃない腹でも壊したら、あきれるというよりきだ。

「芋って言うより果物みたいだって、それに赤い芋だって」

 女はカイゼルをじっと見た、何か言いたげだ。

「赤色、そんな芋、入ってたか?」

 頼みがあるんだよと女はカイゼルを見た。

「畑を見せてくれないかい」

 すぐには返事ができない。

 正直、断りたいとカイゼルは思ったが、言葉には出さなかった。

 広くはない畑だが、芋だけでない、赤茄子といった野菜が育っている。

「駄目なのかい」

 女が、まずい理由でもあるのかいと尋ねてくる。

 理由なんてと言い淀むと畑は裏手だったのよねと歩き出した。

「おい、待て」

 引きとめようとしたが、女が立ち止まった。

「誰か、いるのかい」

 振り返り、尋ねる。

「子供?」

 何を言っているのか、不思議そうな表情でカイゼルは慌てて裏手の畑に向かった。


 あの夜に見た光景を思い出した。

 真夜中、畑の周りに浮かぶ白い影のようなもの、昼を過ぎたばかりだが、はっきりと見える。

 それだけではない。

「ふふっっ」

「大きくなってーっっ」

「美味しくなーれ」

「甘くなれっっ」

 声が聞こえる。

 カイゼルは無言だ、その後から顔をのぞかせた女だが、驚いた声をあげた。

「なんだい、これは」

 次の瞬間。


「きゃっっ」

「人間よ」

「かくれろー」

「見つかっちゃったー」


 女はカイゼルを見るが、彼にも説明なんてできない。

 初めて見る光景だからだ。

「まさか、森の妖精じゃないだろうね」

「おい、何を言い出すんだ」

 そんなものいるわけがないとカイゼルは言おうとして無言になった。


 畑には街の市場で見る野菜が植えられていたが、どれも色が濃くて大きく育っている。

 女は驚いた、自分の畑にもトマトは育てている。

 大きくて赤い、だが、このトマトは小さい。

 自分の畑のものと比べて、それなのに味濃くて水気もある。

 同じトマトでも別物だと思った。

 「持っていくか、子供に食べさせてやれ」

 女は頷いた。

 「これ、うちの畑で育てたら」

 カイゼルは答えなかった、想像したのかもしれない。

 やめておけと言いかけた言葉を飲み込んだ。

 「欲しかったら、来い、だが」

 女は頷いた。

 「誰にも言わない。これは言っていいことじゃない」


 赤いベリーのジャムを売っている店がある。

 ジャムを買ってきて欲しいと頼まれたときサイラスは驚いた。。

「王妃がどうしても欲しいと言ってな」

 王は政務、政は妻で王妃に任せている、愚王というわけではない。

 何故とサイラスと思った、自分は城を守る騎士だ。

 だが、王の命令なら仕方ない、渋々と街へ出掛けた。

 ところが、ジャム売りはいなかった。

「赤いベリーを売っている人間がいると聞いたんだが」

「ああ、たまにしか来ないんだよ。月に片手の数も来ないよ」

 何だ、それははサイラスは驚いた。

「運が良ければ会えるけど、入れ物を持ってないね。だったら売ってもらえないよ」

 男はサイラスを気の毒そうに見た。

「入れものだと」

「鍋も持ってないのかい、あんた」

 男は呆れた顔でサイラスを見た。

 ジャム売りは毎日、店を出しているわけでもない。

 しかも、運よく会えたとしても、鍋がなければ買うことすらできない。

(……これは思った以上に厄介な任務だ)

 サイラスは心の底からそう思った。


「いつ来るか分からないのか」

「あんた人の話を聞いてなかったのか、運が良ければって言っただろ」

 男は呆れた顔でサイラスを見た。

「ジャムも、お玉に一杯しか売ってもらえない」

 サイラスは無言になった、今のは聞き違いか。

 お玉に一杯って、ほんのちょっぴりじゃないか。

「赤いベリーは森にしか自生していないんだ。畑の作物みたいにたくさん生えてるわけじゃない。もう終わるころだよ」

 男の言葉にサイラスは驚いた。

「それは、どういうことだ」

「あれは実がなる期間も短いんだよ。この間も売りに来てたが、並んだ人間、皆、買えなかったからな。買ったやつが他のやつに分けていたくらいだ」

 その言葉を聞いてサイラスは顔を曇らせた。

 相手が商人なら金を詰めば買えるかもしれないと思った。

 ところが。

「あんた、金を払って買おうとしてないか。強引に」

 男がサイラスをジロリと睨んだ。

 表情から察したのかもしれない。

 男の鋭い視線は見透かしているようで、サイラスは返す言葉が出てこない。

 自分は王命を果たそうとしているだけだ。

 そのはずなのに、胸の奥に棘が刺さったような違和感だけが残っていた。


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