女の子たちとジャム
あっ、いた、あの人だ。
女の子は、そわそわとしながら、屋台の端の一角を見つめた。
鍋を持って売りに来るジャム売りの女のことを知ったのは一ヶ月も前のことだ。
「凄くおいしかったの、でも、お玉に一杯しか売ってくれないの」
友人から話を聞いた時、美味しいジャムと聞いて驚いた。
「お玉に一杯で銀貨三枚なの」
「買うときは家から入れ物を持っていくの」
高すぎない、すると、とんでもないと友だちは首を振った。
「お母さん、安いって、だって赤いベリーだよ」
女の子は驚いた。
一度、皆でお金を出し合ってジャムを買おうという意見が出た、
だが、銀貨三枚なんて、子供には簡単には出せない。
それなのに、気になってしまう。
ジャムを売りに来る日は決まっているわけではない。
運が良ければ会える、いつ来るか分からないという。
だから暇なときには、つい屋台の出る場所を探してしまうのだ。
ああっ、ジャムは売り切れたんだ。
数人の村の女性たちがジャムを売っている女性の周りに集まっているがしばらくすると家に帰っていく。
帰り支度を始めた女性の姿を女の子は目が話せない。
視線に気づいたのだろうか、女性が顔を上げて、こちらを見た。
手招きをしている、女の子は驚いた、思わず、ゆっくりと近づいていくと。
「もしかしてジャムを買いに来たの」
「う、うん、でも」
高くて買えない、そんなこと恥ずかしくて言えなかった。
「入れ物を、持って来てないし」
「一人で来たの?」
不意に女は鍋のそばにある入れ物から、何かを取り出した。
それは小さなパンケーキだ、鍋についているジャムをつけると、どうぞと差し出した。
「良いの?お金ないけど」
女は笑った。
鍋にこびりついた少しの量で代金はもらえないと。
ドキドキしながら女の子はパンケーキをに齧りつく。
酸っぱい、でも甘い、女の子は驚いた。
「美味しいっっ」
思わず声をもらす。
すると、その様子を見ていた近くの二人の女の子が慌てて駆け寄ってきた。
「あ、あのっっ」
「あたしたちもっっ」
女はパンケーキを取り出すと二人に、どうぞと手渡した。
「お、おいしっっ」
「こんなの貴族や王様だって食べられないよ」
(……王様だって、食べられない)
子供たちが無邪気に発したその一言をカイゼルは黙って聞いていた。
「ジャム、もっとたくさん、作らないのか」
街からの帰り、カイゼルは尋ねた。
美夜の作るジャムでかなり銀貨が貯まった、食生活に肉が出てくるようになった。
新しい服も買えた、暮らしが向上してきた。
「実はベリーの木を育ててみようと思うんです」
予想もしない言葉に驚いた。
「まさか、畑に植えるのか」
無理じゃないか、そう言おうとした。
すると美夜は笑った。
「畑に植えても、環境や土が変わったら、無理だと思うんです。森の入口にベリーの実を埋めてみようと思うんです」
「実がなるまでに何年もかかるぞ。その間に木が病気で死ぬかもしれない」
農夫としての現実的な指摘に、美夜は悪戯っぽく微笑んだ。
「ふふ、だから『接ぎ木』をするんです」
「つぎ、き……?」
「強い立派なベリーの親木から、元気な若い枝を切り取って、別の木――生命力の強い低木の幹に切れ込みを入れて、さっきの枝をつなぐんです」
美夜の説明をカイゼルは黙って聞いていた。
正直なところ理解ができなかったのかもしれない、そんな方法があるのか。
「もし、成功したら何年もかかるはずのベリーの枝が一年か二年で育つかもしれません。ただ、同じくらい実をつけるか分からないけど」
カイゼルは返事ができない。
生きている木と木を繋ぎ合わせる、そんな話、育て方なんて聞いたことがなかった。
「成功したら」
カイゼルは想像した、美夜が笑う。
「うまくいけば、森の奥まで行かなくてもベリーが食べられます。怖い獣と出会うことも少なくなるかもしれません。食べ物があれば、獣だって森の外に出てくること、少なくなると思いません」
そんなこと、考えたこともなかっただけにカイゼルは驚いた。
「ただ、今のジャムはあと少しで、やめようと思います。森のベリー、少なくなっていますから」
「そうか」
「魚を釣って干物とか作ろうと考えてるんです」
「干物?」
聞きなれない言葉だ。
いや、海、川沿いでは、昔、聞いたことがあると思いだした。
「作れる、いや、作った事があるのか」
「塩があれば、あと香草とか」
笑う女の表情を見て、この女はどこの国の人間なのかと、カイゼルは改めて思った。




