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好きになった年上の人は、もういない  作者: 三ノ宮 みさき


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遭遇、助かった理由が分からない

 籠を持って帰ろうとする女の後を追いかけようとしてカイゼルは足を止めた。

 草木の揺れる音がした、何かいる。

 視線を茂みの奥へと向けた時、気づいた。

 金色に光る二つの光にカイゼルは全身がひやりとした、声が出ない。

 足が動かない、茂みが揺れ、姿を現したのは黒熊だ。

 ブラックベアだ、まずい、襲ってかもしれない。

 「カイゼルさん、どうしたんです」

 離れたところから女の声がする。

 

『来るな、駄目だ、こっちへ来たら』


 カイゼルはそう言おうとした、だが、声が出ない。

 彼女の足音が近づいてくる、だが。


 自宅に戻ったカイゼルは思い出していた。

 無事に家まで帰れたことが信じられなかった。

 冒険者、城の騎士でさえも手こずり、怪我だけではない殺されることもある。

 だが、襲ってこなかったのだ。

 自分は武器を持っていなかった、襲いかかって来たら殺されていたのは確実だ。

 運が良かった、だが、本当にそうなのか。

「……運が良かったんだ」

 思わず口から出た言葉、だが、本当にそれだけかと思ってしまう。

 こちらを見ていたのに、襲ってこなかった。

 空腹ではなかったのか、それとも興味がなかっただけなのか。

 あり得ない、獣の考えることなど分かるはずがない。

 それでも、あの金色の瞳だけは忘れられなかった。


 部屋の隅では、美夜が何事もなかったように摘んできた木の実を水で洗っている。

「今日はたくさん採れましたね」

 カイゼルは苦笑した。

 彼女は熊の存在に、命拾いをしたことに気づいていない。

 その呑気さに呆れながらも、肩の力が抜けた。

 だが胸の奥に残る違和感だけは、どうしても消えなかった。


 数日後、ジャムを売りに行きましょうと美夜はカイゼルに声をかけた。

 本来なら瓶詰めにして売りたいところだ。

 だが、ガラス瓶はない。

 だから鍋ごと運ぶことにした。

「お玉に一杯、銀貨三枚はどうでしょう」

 家から入れ物を持ってきてもらって、売るのだという。

 高くないかと思った、買う人間がいるのか?

 だが、手間賃や労力を考えたら少しぐらい高い方が売れると美夜は言い切った。


 街に行き、地面に敷物を敷いて、美夜は路行く人に声をかけた。

「高くないかい」

 通りかかった女が声をかける。

「ベリーのジャムなんです。砂糖は少ないけど、良かったら試食してみます」

 そう言って美夜は小さなパンケーキにジャムを少しだけ載せて、どうぞと差し出した。

 口にした女は無言になった


 森にしか自生しない実だ、しかも小さな小動物だけではない、凶暴な生き物も好きで食べる。

 森に入って採取するだけても、下手をしたら命の危険がある。

 お玉一杯、銀貨三枚、最初は高いと思った。

 自分が森に行って、ベリーを採りにいく

「売ってくれるかい」

「入れ物を持って来てくれたらお玉一杯、銀貨三枚です」

 そばにいたカイゼルは驚いた。

「たくさんの人に味を知ってもらうためです」


 女は味見のジャムを一口舐めて無言になった。

 森にしか自生しない実だ、しかも、小動物だけではない、凶暴な生き物も好きで食べる。

 森に入って採取するだけても、下手をしたら命の危険がある。

 ジャムはあっという間に売れた。

 最初の女が買った後、気になった女たちが試食して、家に足早に帰って入れ物を持ってきたのだ。

 お玉一杯のジャム、多くはない量だ。

「今度はいつ来るんだい」

 女が尋ねる。

「赤いベリーを見つけたら、また作ろうと思います。いつ来るかは分からないんです、ごめんなさい」

 頭を下げられて女たちは残念そうだ。

 だが、味見をして、森の赤いベリーだとわかったら、値段だけではない、価値を知った今。

 文句などいえない。


「カイゼルさん、何か食べたいものありますか。買っていきましょう、肉でも酒でもいいですよ」

 それは彼女が作って売ろうと提案したものだ。

 だが、自分のためにという言葉にカイゼルは嬉しくなった。

「あんたは欲しいものないのか」

「粉がほしいんです。タルトを焼いてお菓子が食べたいと思ったんです。売るのも良いかもしれませんね」

 カイゼルは元妻を思い出した。

 自分が畑で汗水流している間、あの女は何をしていただろう。

 だが、昔、去っていた女の顔を、今のカイゼルは思い出すことができなかった。

 




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