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好きになった年上の人は、もういない  作者: 三ノ宮 みさき


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3/23

街へ出掛ける

 「カイゼルさん、どこか行くんですか」

 その日、出掛ける用意をしていたカイゼルに女が声をかけてきた。

「ああ、街へ行く、留守番を頼めるか」

「は、はい」

 頷くが、その顔は少し不安そうだ。

「一緒についていっては、駄目ですか。荷物持ちでも何でもします」

 すぐには返事ができなかった。

「あんたの髪は目立つ、黒髪は、この国には殆ど、いや、いないんだ」

 女は驚いたようだ。

「だったら隠します」

 スーツケースから派手な大きな布を取り出して、女はそれを頭に巻くというより、すっぽりと覆った。

「これならどうです」

 カイゼルは悩んだ、大丈夫だろうか。

 だが、ここへ来てから女は自分の家から殆ど出たことがない。

 畑仕事と家の中のことをするだけだ。

 手伝ってくれることはありがたいと思っている。

 畑の作物も育ちが良い、特に芋の成長が早い。

 だから、今日は畑で取れた芋を売れないかと思って持っていくつもりなのだ。

「わかった」

 カイゼルは頷いた。

 正直、彼女が頭に巻いている布も見たことのない派手な色だ。

 だが、ずっと家の中に色というのも可愛そうだ。


「久しぶりだね」

 屋台の女主人はカイゼルを見ると笑いかけた。

「ああ、実はこの芋、買い取ってくれないか」

 自分で屋台を出して得れば金になる。

 だが、そうなったら、人付き合いが得意ではないし顔を見られるのも正直嫌だ。

 女主人は芋を見て目を細めた。

「蒸してある、食ってみてくれないか」

 一口、齧った女の表情が変わった。

「どうしたんだい、これ」

 自分が見た不思議な夜の光景を話したところで信じないだろう。

「俺も驚いている、突然畑にできていたんだ」

「甘いよ。持ってきたのはどれくらいあるんだい」

 カイゼルは下げていた袋を見せた、中には十個ばかり芋が入っている。

「全部買う、銀貨五、いや十枚で買うよ」

 カイゼルは驚いた。」

「いいのか」

「ああ、でも、売らないよ。家で食べる、あと種芋にして栽培してみようかね」

 女はにんまりと笑った。

「これが育つなら、いい儲けになる」

 カイゼルは驚いた。

 確かに普通の芋ではないと思った、自分が食べても美味いと思ったのだ。

 あの夜の光景を思い出した。

(……やはり、あれが原因なのか)

 そう考えるしか、説明がつかない。


 女は家に帰り、芋を蒸して食べた。

「何、これ、甘い」

「本当だ、美味しい、食べたことないよ」

 二人の子供は十歳になったばかり、どちらも食べ盛りだ。


 ところが、夕方、種芋用に残しておいた生の芋は亡くなっていた。

「あんた達、芋を知らないかい」

 すると少年が食べたと一言。

「凄く美味かった」

「生のまま食べたのかい」

 女は驚いた。

「甘いんだよ、蒸したのもいいけど生でもうまいんだ、あんな芋初めてだよ」

 女はがっくりとした。


 芋を生で食べたということに女は驚いた。

「腹は大丈夫かい」

 男の子は不思議そうな顔だ、何故、そんなことを聞くのか分からないという顔だ。

「いつもの芋じゃないよね、皮が少し赤っぽい色だった」

 子供の言葉に女は驚いた。

 全部同じ芋だと思っていた、自分がムシたのは白っぽい皮の芋だった。

 袋の一番奥に違う種類の芋が入っていたのかもしれない。

 今度、カイゼルが来たら、頼んでみようと女は思った。

 

 街から帰ってきた美夜は始終、無言だ。

 何かを考えているようだ。

「カイゼルさん、私たちもお店を出しませんか」

 何を売るんだ、驚くというより、呆れて言葉が出ない。

 畑は自分が食べるだけを作っている、売るものなんてない。

 そう言うつもりだった。

「森で採れた果物を売るんです。ジャムにすれば売れると思いませんか」

 森の果物?、予想もしない言葉にカイゼルは返事ができない。

「果物は森の奥に自生しているが。危険な生き物もいるんだ」

 そこは注意しますと美夜は笑った。

「森の奥にまで採リに行きません。カイゼルさんは猟師ではないでしょう」


 翌日、森に出掛けるという女の言葉にカイゼルはついていくことにした。

 彼女は、この国のことを知らない、森にどんな危険な獣がいるかなんて知らないだろう。

 籠を持って森に入るまで、カイゼルは緊張していた。

 赤いベリーの茂みを見つけて、熟した実を摘んでいく。

「これぐらいにしませんか」

 籠に半分くらいで美夜はカイゼルに声をかけた。

「いいのか、それだけで」

 茂みにはたくさんの実が、なっている。

「獣がいるって言ったじゃないですか。獣だって食べますよ、果物」

 すぐには返事ができなかった。

「来年も実をつけてもらわないと」

 今まで、そんなこと考えたことなどなかった、人間だけではない、森には動物もいる。

 人間だけものではない、そんなこと自分は考えた事がなかった。

「……あんたは変わってるな」

 思わず漏れた言葉は聞こえていなかったようだ。




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