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好きになった年上の人は、もういない  作者: 三ノ宮 みさき


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2 同じではない、顔の傷

 目を覚ますと、そこは見知らぬ場所だ、森の中だろうか、木々が空を覆い、湿った土の匂いが鼻をくすぐる。

 自分は、確か飛行機のタラップを降りていたはずだ。

 だが、足を滑らせそうになったとき、悲鳴が聞こえた。


 そこから先の記憶がない。

「おい、誰かいるのか」

 突然、聞こえてきた男の声、思わず返事をしそうになる。

「ここです」

 叫ぼうとして、言葉を飲み込んだ、草木をかき分ける音がして、一人の男が姿を現した。

 左半分の顔には、獣に裂かれたような大きな傷跡があるね肌の色が赤黒く変色していた。

 驚いてすぐには言葉が出ない。

 慣れているのかもしれないね自分の顔を見て驚く人間のはんのうに。

 わずかに視線を伏せた。

「怖がらなくていい」

 その声に、はっとした。


『驚かせてしまいましたね』

 初めて診療室に入った時のことを思い出した。

 少し困ったような、すまなそうな顔、丁寧な言葉づかい。

 何故か、思い出してしまった。



 自分を助けてくれた男性はカイゼル、家に案内された時、大丈夫だろうかと不安になった。

 外国でも簡単に人を信じると、とんでもない事件に巻き込まれたりすることがある。

 家に来るように言われて、三日もたつと大丈夫ではと思ってしまった。

 ただ、困ったのは食事だ。

 ジャガイモを焼いただけで、味付けは塩だけ。

 男の一人暮らしなので仕方ないのかと思ったが、自分は農民で食べていくのがやっとなのだという。

 海外旅行に行くのでスーツケースの中にはちょっとした調味料、携帯食を入れていたことを思い出した。

 コーン、卵スープ、ショートブレッド、大事に食べなければいけないとスープだけを出した。

 お湯を入れたらスープになる、不安だったが、無言のまま、ずずずーっっとすすっている姿を見ると、美味しいのだろう。

 それにしてもジャガイモが焼いているのに固いのはどういうわけだろう。

 病気の芋なのだろうか。

 家の周りの畑を見て納得した。

 作物が順調に成長しているようには見えない。



 森の中で見つけた女は変わっていた、黒髪に黒い目。

 大きな鞄を持っていたが、見たことのないものばかりが入っていた。

 湯を入れるだけでスープになる、あれには驚いた。

 城に知らせるか、いや、言わないほうが良いかもしれない。

 面倒な事に巻き込まれるかもしれないと思った。


 カイゼルは生まれたときから農民として暮らしている。

 森の近くに住んでるのは人と接することを少しでも避けるためだ。

 顔の傷を見られたくないからだ。

 自分は世捨て人ではないが、全てを自給自足というわけではないので、必要な食材、農機具などを街に買いに行く。

 街には大勢の人間がいるが、黒髪の人間はなんて見たことがない。

 商売女が染めていたという噂を聞いたことがあった。

 だが、黒く染めると、肌がかぶれたり、真っ赤になってまう女もいる。

 体調が悪くなって病気になったという話を聞いた。

 本当なのかと思ったが、正直、わからない。

 街の人間は殆男女関係なく、金色か茶色だ、しかも、くすんだような色だ。

 だが、この女は違う、髪は真っ黒でさらさらとしている、肌も白い。

 街には綺麗な女はいる、商売で財を成した金持ち、その愛人たちだ。

 城の貴族の中にも綺麗な女はいるだろう。

 



 その夜、カイゼルは外から聞こえてくる声に気づいた、笑い声だ。

 外に誰かいるのか。

 女は眠っている、奥の部屋から寝息が聞こえる、慣れない畑仕事のせいもあるのだろう。

 街から離れた場所にある自分の家、しかも夜になって外に人がいる。

 おかしいだろう。

 もしかして、泥棒、いや、こんな離れに住んでいる人間は食べ物どころか、金だって持っていない。

 気になって家のドアを、こっそりと開けて外を覗く。

 すると、畑の周りに白いぼんやりとした影のようなものが見えた。

 光はゆらゆらと揺れながら畑の周りを漂っていた。

 時々、跳ね上がったりしている。

 まるで、踊っているかのように見えた。

 なんだ、あれは、わけがわからない。

 怖いと思った、だが、それはしばらくすると消えてしまった。



 翌朝。

 いつものように畑へ向かったカイゼルは、足を止めた。

「……嘘だろっ?」

 思わず声が漏れた。

 数日前、ようやく芽を出したばかりの野菜だ。

 ところが、茎は伸び、葉も大きくひろがっている、成長しているのだ。

 こんな事はありえない。

「……どういうことだ」

 自分は畑仕事しか知らない人間、だからこそ、わかる。

 信じられなかった。

 思い出したのは、あの光景、畑の周りを漂っていた白い塊だ。




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