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好きになった年上の人は、もういない  作者: 三ノ宮 みさき


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宰相と騎士、国を脱出

 「な、なんだ、これは」

 その朝、鏡を見たカインは呆然とした感情の抜けた表情になっていた。

 信じられない現実を前に、夢だと思うことにした。

 だが、再び鏡の前に立っても、それは現実だった。

 自分の顔の左半分には大きな傷跡がある、黒ずみ、赤褐色に変色した、盛り上がった傷跡に自分の手を伸ばす、こんなことはあり得ない。

 昨日まで、自分の顔は普通だった。

 愛妾たちは微笑みを向けて、自分の首腕を回して親愛の口づけをする。

 それが日常だった。

 驚きのあまり、正妃を呼んだ。

「か、顔がっ、俺の傷を」

 自分の身に起こった、驚くべき事実、不幸を訴えようとした。

 だが、正妃は不思議そうな顔だ。

 この傷が見えていない?そんなはずはない。

「顔の傷?いつもと変わらないけど」

 自分の言葉が信じられないのかと、妃は息子を呼んだ。

 だが、息子も同じ反応だった。

 自分の顔の異変に気づいているのは自分だけ。

 そんな事あるわけがない。



「母上、驚きました」

 息子の言葉に妃は頷いた。

「私もです、事前に聞かされていなければ慌てたでしょうね。いいですか、あなたと私は気づかないふりをするのです」

 息子は真面目な顔で頷いた。

「父上は気づくでしょうか。あの傷が平民の男性のものだと。不思議な力で移されたものだと」

「足掻くでしょう。どう、父親のあんな姿を見て」

 息子は首を振った。

「今までのツケです。母上、昨日、愛妾達が僕に別れの挨拶を」

「そう、どうだった」

「父は国の王です。愛妾に望まれても身分が低ければ断ることができません。でも元の生活に戻れるのは」

 簡単ではないでしょうねと妃は頷いた。

「でもね、待っている者もいる。使用人が、今日で一人、やめるけど」

「それは」

「お祝いとして少しばかり多めに退職金を出したわ」

 笑う息子の表情を見て、本当に自分の夫には似ていないわ。

 改めて王妃は思ってしまった。


「宰相殿、王妃が及びです、至急、大事な話があると」

 城に戻ったアイザックは王に会おうとしたが、それを止められた。

 王妃が自分に、しかも急いでいると?

 何かあったのか、嫌な予感しかしない。


 


 その日、昼食を食べていたカイゼルは落ち着かなかった。

 自分の顔の傷が消えたことに彼女は驚いたようだが、不思議なこともあるんですねといっただけだ。

 自分に対する態度が変わることはない。

 顔の傷を誰よりも気にしていたのは自分なのだと。

 このとき、改めて知った。


 突然、ドアの向こうから激しいノックの音、男たちの声が聞こえた。

 誰だ、驚いてドアを開ける。

「お前だな、カイゼルというのは」

 城の兵士だ、カイゼルは驚いた。

「王が、貴様を呼んでいる」

 カイゼルは驚いた。何故、自分をと思ったのかもしれない。

「女がいるだろう、黒髪の綺麗な女だ」

「同行させろ、いや、女は」

 嫌な予感がした。

「理由を教えてください」

「知る必要はない」

 なんだ、おかしい、カイゼルは不安を感じた。

 そのときだ。

「何をしている」

 馬の蹄の音と男の声が響いた。


「さ、宰相様っっ」

「我々は王の命令で」

 騎士達は突然、現れたアイザックに驚いた。

「大国の貴族を迎える為、護衛として騎士たちは街の警護似ついている。お前達は、こんなところで何をしている」

 宰相の表情に騎士たちは驚いた。

「通達を聞き違えたのか?早く街へ迎え」


 騎士たちが去っていくとアイザックはほっと息をついた。

「彼女は?元気になっただろう」

「は、はい、一体」

 何が起こったのかカイゼルはわからず呆然としていた。

「時間がない。ここを出る。脱出だ」

 その時、家の奥から美夜が出てきた。

 アイザックは馬から降りると彼女に近寄り、手を取った。

「理由は後で説明します、今は少しでも早く、この国を出ないと、馬には乗れますか」

「えっっ、馬なんて、初めてです」

 驚く彼女に大丈夫とアイザックは笑いかけた、そのときだ。

 宰相殿ーっ。馬に乗って駆けつけてきたのは騎士のサイラスだ。

「サイラス、お前はこの男と一緒に少し遅れて出ろ、国境で落ち合う」

 アイザックは美夜の手を取り、馬上に引き上げた。

「私に体を預けて怖がらないで」

「は、はいっっ」

 アイザックは振り返り、騎士を見た。

「お前は北側の通路だ、一緒にいたら目立つ」

「は、はい。しかし何故、急に」

「説明している暇はない。いいか、もし、国境近くで危ないと感じたら馬を降りろ。売るなりして歩け、旅人のふりだ。目立つ行動は避ける。今からお前は騎士ではない」

「ええっ」

 サイラスは驚いたように声をあげた。

「私も宰相という役職ではなくなった」

 そう言ってアイザックは革袋をサイラスに投げつけた。

「王妃から退職金だ。国境を出るまで油断するな」

「王は、ご存知なのですが。俺は、ともかく宰相の、あなたが辞めるのは」

 普通ではないと言いかけたサイラスにアイザックは笑った。

「私が使えているのは国と王妃、そしてこの国は共和国になる」

「宰相殿」

「やめろ、その呼び方は」

 その時アイザックはサイラスとカイゼルの周りに白い綿帽子が幾つが漂っているのを見た。

「あたしたちが、ついていくーっ」

「この人、頼りにならないよー」

「追手が来たら剣で追い払えても、頭は全然だよ」

「脳筋って、いうんだって」

「頼む」

 アイザックは綿帽子に声をかけた。


 初めて馬に乗るという彼女の為、途中で一度休む、そして事情を説明した。

 詳しいことを話すには時間が足りない、だが、顔に痣のある高齢の男性という言葉に彼女は驚いた。

 「その人物は私だけでない。王妃と王子にも会ったというのですが、普通の人間とも思えません。城にどうやって入ったのか」

「生きていたんですか、先生は?」

 アイザックは驚いた。

「先生は亡くなったんです、私のせいで」

 美夜の言葉にアイザックは驚いた。

 死んでいる、庭師の治療をした、最初は魔法や呪術だと思っていた。

 だが、死人なら、あり得るのか?

 

 鏡に映る自分の顔を見て、自分は夢を見ているのだとカインは思った。

 妻も息子も、普段と変わりない、自分の顔を見ても驚くこともない。

 だが、愛妾のオクタヴィアに愛に行った時だ。

 彼女の悲鳴が部屋中に響き渡った。


 国境を無事に抜けた時アイザックは正直ほっとした。

 だが、同時にあることに気づいた、黒髪の女性が普通にいるのだ。

 自分の国にはいなかったのに、何故だ。

 よく見ると、本当の髪ではない飾りだ、流行りなのか。

 装飾品をつけている、少し幼い子供もだ。

 黒髪は目立つと思って国を出るとき、被り物で隠していたが、必要ないのではとアイザックは考えた。

 半日近く、休みを入れながら馬を走らせ、アイザック自身、疲れを感じていた。

 国境を超えた、宿に泊まって体を休めたいと思った。


 宿の風呂に入っていると綿帽子が現れた。

「騎士だけど、途中で馬を降りたよー」

「カイゼルを捜しているね」

「大丈夫か、捕まったりしていないか」

「元の顔と違うからねー」

 それなら簡単には見つからない、捕まることはないだろうと思った。

 だが。

「愛妾がね、凄いの」

「何かしたのか」

「王様の事、化物って」

 「王、いや、カインの顔が変わったのか」

「傷を移したからね」

 まさかと思ったが、そういうことか、アイザックは自分の感が当たったことを知った。

「だから、今度は、こっちを捜すと思う」

「もしかして彼女を?」

 恋人に捨てられたんだよ、綿帽子の言葉にアイザックの表情が曇った。



最終話まで書き上げたので、UPしていきます。

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