騎士は医師を捜す……
「大丈夫か」
声をかけても返事はない、代わりに笑うだけだ。
カイゼルは不安になった。
もしかしてと思う。
最初に少し気分が悪いと言われたときは、たいしたことはないだろうと考えていた。
一晩、いや、一日寝ていれば治ると思っていた。
だが、宰相のアイザックが来た、綿帽子が話しかけてきた。
彼女具合は寝ていれば簡単に治るものではない、
軽いものではないのかと思ってしまった。
先生、そう言って笑おうとした彼女の表情を思い出す。
誰に向かって笑いかけたのか、自分ではない、それが分かっているからなのか。
この時、カイゼルは羽絞めて感じた、それは嫉妬だ。
旅の医師を探していることは秘密だ。
他国の人間にバレないように捜せ、簡単なことではない。
最初、自分も王と同じで見捨てられたと思っていた。
だが、アイザックの話を聞いて、あまりにも自分の考えが浅はかで、考えなしだったことを実感した。
自分は剣を振るって敵を倒す事はできても、それだけだ。
相手の言葉を、そのまま受け取って、疑うこと、言葉の裏に隠された事実を読み取る事ができない。
「くそうっっ、俺は馬鹿だ」
もし誰かが、いやアイザックが聞いていたら否定しないだろう。
考えが浅いと言われたかもしれない。
しかし、旅の医師を捜すと言っても、簡単ではない。
一度、庭師のところに行って話を聞くのはどうだろう。
年配、白い服、だが、それだけではわからない。
詳しく容姿を聞いて、それから探そうと思った。
突然、家を尋ねてきたサイラスに庭師は驚いた。
「実は宰相から話を聞いた、聞きたいことがあって来たんだが、その後、どうだ、容態は」
サイラスの言葉に安心してくださいと庭師は奥に声をかけた。
「おーい」
妻を呼んだのだ。
「実は数日前に、また尋ねてきたのです」
誰が、聞こうとしてハッとした、まさか医師が、再び訪れたのか。
庭師は自分の腕を見せた。
「かなり薄くなりました、これ以上は」
見せられた腕の色は変色している、濃い茶色、火傷の跡に見えないこともない。
「妻が治ったんです。熱も徐々に、今ではぐっすりと眠れています」
サイラスは驚いた。
「本当に感謝しています。あの方には」
家の奥から出てきた妻はサイラスを見ると笑いカムアたのを下げた。
「主人の腕は、これが限界だと。でも私の腕は綺麗に治ったんです。信じられません。それより、熱がぶり返すことなく驚きました」
妻はサイラスに腕を見せた。
「最初は妻の方がひどかったんです。色が変わっただけでなく。腕が熱くて」
良かったとサイラスはホッとした。
「実は、その医師の事について聞きたくて来たんだ」
庭師と妻の表情が変わった。
「あの方は帰ると、それと主人には城で働くことやめたほうが良いと言いました」
妻の言葉に庭師も頷いた。
「それは」
庭師は、すぐには答えなかった。
サイラスは驚いた。
城へ戻る途中、アイザックにどう報告をすれば良いのかと迷った。
だが、黙っているわけにはいかない。
その頃。
カイゼルは畑を耕していた。
数日前、畑の周りを漂っていた綿帽子は、今は一つも見えない。
まるで、最初からいなかった存在すらなかったようだ。
「こんにちは、暑いのに大変だね」
突然、声を賭けられて振り返ると、見たことのない男が立っていた。
街の人間ではない、驚いたのは男の顔だ顔の左半分に大きな痣がある。
「私は医者だ」
カイゼルは驚いた。
「診てほしい人間がいるんだ」
男は頷いた。
「条件がある。大事な話だ、彼女を元の世界に戻したい。君も気づいているのだろう。この世界の人間ではないと」
「そ、それは」
「垣見の顔の傷を治す、そうすれば出ていった君の妻が戻っくるかもしれない。彼女は元の世界に戻って以前と同じ生活に」
待ってくれ、カイゼルは叫んだ。
顔の傷が消える、元通りになる信じられなかった。
出ていった妻が戻ってくる?以前のような生活。
それが幸せになれるのか、彼女は、いや、自分は。
「君は、似ているな、私に」
カイゼルは男の顔をまじまじと見た。
「臆病で、本音が言えない。後悔することになる」
言葉が出てこない、カイゼルはわずかに俯いた。
「大事に思っているなら、手放すことも必要だ」
「頼む、助けてくれ。金ならあるだけだす、でも、今生活を、失いたくない」
男は無言だ、カイゼルは地面に膝をついた、額をこすりつけた。
懇願するように。
「もういいよー」
「何、やってんの」
子供の声にカイゼルは驚いた。
顔を上げると、先ほどまで眼の前にいた男の姿はない。
足音はしなかった、消えたのか。
自分の周りに白い綿帽子がふわふわと浮かんでいる。
「部屋に戻ったら」
「喉が乾いたって」
「答えが出たんだよ」
楽しそうな声だ、意味がわからず家の中に急いで戻ったカイゼルは驚いた。
「おい、大丈夫なのか、起きていて」
台所に彼女が立っていた。
「おはようございます。ずっと寝ていたばかりで、喉が乾いて」
「俺がやる、まだ寝ていろ」
顔色が良くなっている?どういうことだ。
「気分がスッキリです、長く寝ていたせいでしょうか」
良くなっているんだ、カイゼルは内心ホッとした。。
「夕飯、食べたいものありますか。野菜の揚げ浸しなんてどうですか」
食事支度は俺がする、だが、返事が聞こえてないのか、彼女はハイハイと笑うような声で返事をする。
「あのね、大変なのは、これからだよ」
いつの間にか、自分の周りに綿帽子が集まっている。
カイゼルは綿帽子の言葉に驚いた。
「準備したほうがいいよ」
準備、いったいなんのだ、意味が分からない?
「引っ越しだよ。隣国は近すぎるよね」
「もう少し遠いところがいいよ。森の近く」
「新しいお家、台所も大きいから、美夜は喜ぶよー」
引っ越しだと、しかも綿帽子たちは二人で引っ越すことを前提にした言い方だ。
「引っ越すだと、家だって」
「用意してくれてるよ」
「その為に来たんだよ。あの人」
誰のことを言っている。
「さっき来たでしょ。白衣の人」
カイゼルは言葉を失った。
「大変って引っ越しのことか」
「ちがーうよ。城、きっと大騒ぎになってるよ」
意味がわからなかった。




