医師を捜す、騎士と宰相
「サイラス、仕事だ」
アイザックの呼び出しを受けて、騎士はどこか覇気のない表情を向けた。
自分は王と同じ、見捨てられたのだ、そう思っていたのに。
「医師を捜せ、白衣を着た、年配の医師、だが、秘密にだ、周りには気づかれるな」
「どういうことですか。俺も王と同じように」
「見限られたと、おまえは本気で思っていたのか」
違うのか?サイラスは何か言おうとして言葉を飲み込んだ。
「王を切り捨てるなど簡単にできることではない。民が不安になるだけではない、周りの国からどう思われるか。おまえは考えなかったのか」
アイザックの言葉に、はっとした。
「医師を捜すのは内密にだ。我が国に敵意を持つ人間が知ったらどうなる。考えてみろ、横取りされるかしれない。いや、医師に協力してカインを無き者にする可能生だってある」
確かにそうだ、大勢の人間で捜せば他国が何かあったのではないかと感じて、探りを入れてくるだろう。
「庭師は完治したわけではない。傷と痛みを夫婦で分け合ったんだ。もしかすれば、最悪の可能生もある」
「治療をすれば」
「旅の医師だと言った筈だ」
やはり、話を良く聞いていなかったのかとアイザックは呆れた。
「薬を使い切っていたらどうだ?」
サイラスの顔色が変わった。
そこまで考えていなかった、自分は馬鹿だ、医師が治療をすれば治ると簡単に考えていたのだ。
医師を見つけても薬がなかったらどうする。
「薬を作る事ができるならいい。だが材料が特別なもの、簡単に手に入らないものならどうする」
オクタヴィアの真っ黒になった腕を思い出す。
「聞いてもいいですか。アイザック殿、庭師は治ったと言いますが、完治したわけではないというのは」
「妻の腕は変色している、夜になると熱がでる、本人はたいしたことはないという感じで言っていた、だが、周りを安心させる為だとしたら」
「それは」
「小さな子供がいるんだ。不安にさせるか?」
夫だけではない、子供、そうだ、母親が家族を不安にさせるような言葉を口にするか。
言われてサイラスは、自分の母親を思い出した。
我慢強い性格だった。
熱があっても風邪をひいても寝込むことはなく、畑や家の中の仕事をこなしていた。
なのに流行病にかかったときはあっけなく、亡くなった。
「我慢できると思って、それを続けていると、いつか限界くるかもしれない。そんな時、人はもろいぞ」
脅かさないで欲しいと言いたかったが、その言葉を口にはできなかった。
サイラスは動いてくれるだろう、だが、一人の騎士の探索力などしれている。
もう少し人数を増やすべきだ、それも口の固い人間、城の関係者はまずい。
ふと浮かんだのは宿屋の主の顔だ。
宿には色々な人間が泊まりに来る、旅の医師だ、医師を見た人間がいるかもしれない。
そうだ、出掛ける準備をするためにアイザックは執務室に戻った。
部屋に入って驚いた、白い綿帽子が浮かんでいたのだ。
「大変な事になってるーっ」
「ああ、オクタヴィアを治せるかもしれない、医師を捜すつもりだ」
綿帽子はふわふわとアイザックの周りを飛びながら言った。
「やめたほうがいいよ」
どういうことだ、知っているのかアイザックは驚いた。
「こっちには長くいられないの。それと、愛妾のことは放っておいたら」
綿帽子の言葉にアイザックは驚いた。
「今まで、今まで好き勝手してきたんだから」
自業自得だと言わんばかりの言葉にアイザックは無言になった。
「死ぬ可能生はあるのか」
「人間だもの。わかんない。神様だって、決められないよ。そんなこと」
「そうだな」
アイザックは頷いた。
「王には恋人がたくさんいるでしょ。一人、亡くなったから国はなくなるの」
「辛辣だな」
だが、綿帽子の言葉は真実だ。
「それよりお願いがあるの」
だからここへ来たんだよ、綿帽子言葉にアイザックは驚いた。
アイザックは森の入口まで来ると、白い花を見つけた。
以前、森にきたときには咲いていなかった。
花を持って、カイゼル家に行って、綿帽子は何も言わない。
行けばわかるからと言われて、従うしかなかった。
アイザックを迎えたのはカイゼルだ。
顔色が良くない、いや、不機嫌な顔だ、何かあったのだろうか。
「彼女は?」
「寝ている」
どういうことだ、もしかして体調が悪いのか?
「会いたいんだが」
この時、カイゼルの表情が変わった、アイザックの肩にとまっている綿帽子に気づいたのだ。
部屋に入ると彼女睡っていた。
「白い花を見せてあげて」
綿帽子の言葉に言われた通り、アイザックは彼女に見えるように白い花を枕元へ、その時、彼女が目を開けた。
「いい、匂い」
かすれた声だ。
視線が花を、そしてアイザックを見た。
「先生?」
女が泣きそうな顔でアイザックを見た。
「ごめんなさい、あたしが映画に誘わなければ先生は事故になんて、死ぬこともなかった。ごめんなさい」
謝る彼女に言葉が出ない。
自分を誰かと間違えている、具合が悪いだけと思っていたが。
「医者を呼んだのか」
カイゼルは首を振った。
「三日前から寝込んで、医者は呼ばなくて良い、寝ていれば治ると」
アイザックは驚いた、三日?黒い鳥の騒ぎがあったときだ。
偶然なのかと思った時、彼女がシーツの下から手を伸ばした。
「先生」
アイザックは手を伸ばした、だが彼女の手、皮膚が赤くなっていることに驚いた。
「大丈夫だから、握ってあげて」
綿帽子の言葉にアイザックは彼女の手を握ると安心したのか、笑った。
きれいな女だと思っていた。
顔色が白い、生気が感じられないとアイザックは思った。
「先生、会えるなんて、私」
最後続かない言葉にアイザックは迷った。
「大丈夫、良くなる」
慰める言葉は幾つでもある、知っている。
それなのに、出てこないのだ。
家の外に出ると綿帽子が話しかけてきた。
「何も言えなかったね」
「すまない」
謝ったところで仕方ない、だが、アイザックもだ、自分に呆れてしまった。
「多分、同じだったよ」
言葉の意味がわからない、どういうことだ。
「先生だよ、あの人も」
綿帽子の声は笑っている、こんなときなのに。
何故かアイザック自身、自分でもわからないまま、笑ってしまった。




