愛妾は鳥を欲しがり、宰相と騎士は……
「なんて、美しい鳥」
カインの愛妾、オクタヴィアは驚いた。
全身が紫色で尾羽根が長く赤、青、緑と複雑な色、今まで見たことがない。
庭先に舞い降りた鳥は、あっという間に飛び去ってしまった。
欲しいと思ってしまった。
一緒に見ていたメイドに声をかけ、鳥を捕まえる事ができないかと尋ねた。
「冒険者組合に相談して、依頼するのは、どうでしょうか」
メイドの言葉にそうねとオクタヴィアは頷いた。
その日の午後、メイドは街に出掛けた。
冒険者組合に行き、メイドは今朝庭先で見かけた鳥のことを説明した。
「黒い鳥ですか、カラスですか」
いいえとメイドは説明した。
「尾羽根が長くて赤、青、他にも綺麗な色をしているんです」
受付の担当職員は女性だが、話を聞いているうちに、そんな鳥は見たことがないと首を振った。
「それは野生の鳥ですか?」
職員の言葉にメイドは、すぐには返事ができなかった。
「目立つ鳥ですね。飼われている可能生もあります。正直、お引き受けできません」
何故、金なら出すのにと思ったが、次の言葉に息を呑んだ。
「正直に申し上げます。冒険者は簡単には引き受けないと思います」
野生ではない、飼い鳥かもしれない。
だが、それなら金を出してもいいと思った。
気になるのは冒険者が引き受けないという言葉だ。
「仔細がハッキリしない、飼い鳥ならトラブルを引き起こす可能生もあります。他国の鳥ならどうでしょう」
自分の主人は国王の愛妾だ。
願いを叶えれば褒められる褒美をもらえると簡単に考えていた。
金だって出せる、この時、メイドは簡単なことではないと改めて気づいた。
「オクタヴィア様」
「どうだった」
帰ってきたメイドは冒険者組合で聞いた話を伝えた。
「誰かが飼っているかもしれない?」
「他国の鳥ならトラブルになる可能生があると言われました」
「飼い鳥なら金を出すわ」
メイドは無言になった。
自分の説明を女主人はまともに聞いていない、都合のいいようなに解釈していると。
このとき、オクタヴィアは考えた、冒険者が駄目なら、思い出したのはサイラスの顔だ、騎士団の一人、隊長ではない。
自分は愛妾、王の女だ断ることはしないだろうと思って呼びつけた。
「おい、今いいか」
その日、宰相のアイザックに呼び止められ、サイラスは微妙な顔つきになった。が、体決して、いい話ではないというのが顔を見て分かったからだ。
「最近、城にいないが、どこに出かけている」
「宰相殿、自分は、決して遊び歩いているわけでは」
「分かっている」
アイザックは周りを見ると、執務室に来いと小声で囁いた。
「おまえの性格は分かっている。女でもできたかと思ったが、違うな」
部屋に入るとアイザックの口調が変わった。
自分の部屋なら遠慮なく話せると安心したのだろう。
女遊びだと?聞かないでくれとサイラスは言いたかった。
「実は、オクタヴィア様から」
サイラスは数日前に庭で見かけた鳥が欲しい、捕まえてくれと言われたことを話した。
ちっっ、アイザックは舌打ちした。
全身が黒く、長い尾羽根は、赤や緑、鮮やかな色だったらしい。
一目見て、欲しいと思い、メイドに冒険者組合に行かせたらしい。
話を聞いていたアイザックは、明らかに嫌そうな顔だ。。
愛妾オクタヴィアはドレスや宝石だけではない、珍しいもの、人が持っていないものに強く執着する。
手に入れて自慢する事に喜びを感じているのだ。
「メイドが冒険者組合に行って、断られたらしいんですが」
サイラスは言葉を続けた。
「受付の職員が、飼い鳥ではないかと、他国の魔獣の可能生もあると」
「それだけか」
アイザックの表情に、他にも何かあるのかとサイラスは不可解な表情になった。
「飼い鳥の場合、主が他国、高位の人間だったら、いや、伝書のような役割を果たしている鳥ならどうだ?」
サイラスの表情が変わった。
「国の大事な文書などを運んでいたらどうする」
「そんな目立つ鳥を伝書に使いますか」
サイラスは、まさかといいたげな、呆れた顔だ、だがアイザックは違う。
お前は馬鹿か?と言いたげな視線を返した。
「密書でない可能性だってある」
「どういうことです」
意味が分からなかったようだ。
「祝い、喜びの文書を運んでいたらどうだ。子供が生まれた、病気の回復を知らせる、高位の人間が他国に知らせるだけじゃない。国中の人間に知らせるために鳥を放鳥して知らせている可能生だってあるかもしれない」
アイザックは言葉を続けた。
「それほど目立つ鳥なら捕まえる人間がいてもおかしくはない」
自分は、そんな可能生を少しも考えなかったとサイラスは改めて思った。
「周りが知っているからではないか。国の偉い人間だけではない、国民も知っている」
だから、この国までたどり着いたのか、そこまで頭が回らなかったとサイラスは改めて思った。
しばらくの間、部屋の中はしんとなった。
アイザックは息をついた。
「そういう可能生もあるということだ」
訂正するアイザックだが、サイラスの表情は晴れない。
「自分は考えが浅く、そこまでは」
「責めているわけじゃない」
「それは慰めてくれて」
アイザックは首を振った。
「あの女は厄介なことばかり引き起こす」
「オクタヴィア様のことですか」
「王の愛妾、美人だから、自分の行動はなんでも許されると思っている。それを増長させたのは周りだけではない。王の態度だ」
アイザックの言葉を聞きながら、サイラスは呟いた。
「同じ女でも違いますね」
誰と比べているのか、聞かなくてもわかると思った。
「比べること自体、間違っているぞ」
このとき、アイザックは、サイラスの表情に気づいた。
「聞いてもいいか。おまえ、まさか、あれから、会ったのか」
「実は鳥が森にいるかもしれないと、森に行こうとして」
「会っただけか」
口調が厳しくなったせいか、サイラスは無言だ。
「家に招かれて、食事を御馳走に」
アイザックは返事ができない、その沈黙に、まずいと思ったらしい。
「一緒にいた男が、気分がよくなかったようで……それで家まで、俺が送ったんです」
「言い訳に聞こえるぞ。鳥を捜しに行ったのは口実か」
申し訳ないとサイラスは頭を下げた。
「食事はどうだった」
アイザックは尋ねた。
宿の主人に、畑で採れた野菜を出されたことを思い出したのだ。
「自分は満足しているつもりでした。街の市民よりはうまいものを食べているとつもりでした」
当たり前だとアイザックは頷いた。
「城の兵士の役割を考えろ、しっかり食べさせなければ何かあったとき大変だ」
食材だけではない、料理人の腕もあるだろう。
「お前が家の中に図々しく、食事まで、あの男は、快く迎え入れてくれたのか」
サイラスは気づいた、一緒に暮らしている顔に傷のある男のことを聞いているのだ。
「それは、少し不機嫌そうでしたが」
当たり前だ、アイザックは呆れた。
「彼女に男が近づくのを、あの男は良いとは思ってはいない」
「嫉妬ですか?」
サイラスは思い出した。
「畑仕事や森にも出掛けている。それなのに日に焼けてない、肌も白い、美人ですよね。夫婦には見えませんが」
「あの男の顔のことを言っているのか」
サイラスは、少し困った顔だ、言葉を選んでいるのかもしれない。
いや、話題を変えようと思ったのかもしれない。
「実は家を出る時、畑で妙なものを見たんです、白いふわふわとした」
アイザックは思い出したカイゼルの言葉を。
「ゴミには見えなくて、捕まえようとしたんですが」
馬鹿なことをするなと言いかけて言葉を飲み込んだ。
「何か獣引っかかれてかまれたみたいな痛みが」
アイザックは、ほっとした。
「生きているんだ。あれは人の言葉を話す」
「何を」
「カイゼルに直接話しかけてくる、畑の作物の育て方を教えるんだよ」
「じ、冗談を」
だが、サイラスはアイザックの顔を見て確信した、本当なのだと。
「それだけじゃない、森にも現れてブラックベア、ボアの糞を持って帰って枯れ葉と混ぜて畑に撒けとアドバイスする」
「なんですか、それは」
サイラスは驚いた。
「ベアやボアに襲われたら、どうするんです」
「獣と意思疎通をする。襲うことはない、自分たちが話をつけたから大丈夫だとカイゼルに言ったらしい、この意味がわかるか」
サイラスは息を飲んだ、嘘だろう、信じられない。
だが、アイザックは冗談やからかいで口にしているとは思えない、真剣な表情だ。
本当なのだと思った。
理解が追いつかないのかもしれない。
この時、アイザックは気づいた。
サイラスの肩に白い綿帽子のようなものが乗っかっているのだ。




