第三の選択
勝負は一瞬だった。
リズリィの雷撃により一か所に固まっていた四人が一斉にダウン。
残る三人をルヴェルが斬り、ゼナヴィアが刺し、僕が殴り倒した。
「……最後の一人は何で倒れたんだ?」
「え? ルヴェルがやったんじゃないの?」
ま、まずい――っ!
ついノリで倒しちゃった!!
「俺じゃないな」
「勝手に吹っ飛んだってこと?」
やばいやばい!
みんな真面目だから「ま、いいか」みたいな流れにならないし、リズリィも「私のスキルでもありません」と即否定してしまった。
「……なにが起こったんだ」
だよね!
困惑しちゃうよね!?
目の前で敵が勝手にやられたらさ!
ど、どうやって誤魔化せばいいんだ――っ!
「やれやれ。少しはやれるかと様子を見ていたが所詮は落ちこぼれの見習い騎士か」
天恵――じゃなくて、二階から声が降ってきた。
見上げるとそこにはフードを目深に被り外装に身を包んだ怪しい男が二階の通路に立っていた。
貴族たちの他に第三者がいることはわかっていたけど、まさかこのタイミングで声をかけてくれるなんて……ありがとう。これで有耶無耶にできる!
「お前がやったのか?」
「何の話だ? その馬鹿どもを片付けたのはお前たちだろう?」
頼む! 有耶無耶になれ!
「……なるほど、お前が黒幕か」
「ほう?」
あ、なんかルヴェルが勘違いしてくれたっぽい。
やったぜ。
「貴族生徒たちを陰で操り俺たちと戦わせ疲弊させる。証拠隠滅のためにどちらも消すつもりだったのなら理解できる」
「面白い推理じゃあないか。違う――と答えるのは簡単だが、納得はしなさそうだな。それにこれからやることに変わりはない」
男が片手を掲げると同じような服装をしたやつらが姿を現した。
賊の数は二十人。
正直、厳しい。
僕が目を見張るような強者はいないようだけど、さすがに数が多すぎる。
聖騎士学園に入学したばかりのルヴェルたちには荷が重い相手だ。
「正解なんてどうでもいい。俺は探偵ではなく騎士だからな」
ルヴェルが剣を構えゼナヴィアが短剣を握り直す――が、ルヴェルはそのままゼナヴィアを庇うように前へ出た。
「ゼナヴィア、姉さん。俺が時間を稼ぐ。その間に逃げろ」
「――ぇ?」
「!? 弟を置いてなんて――」
瞬間、ルヴェルの魔力が膨れ上がり、その姿が掻き消えた。
「ぐはっ――!」
「なん、だと……?」
比較的近くにいた敵の一人が胸を斬られ倒れる。
リーダー格の男もルヴェルの本気には驚愕することしかできないようだ。
過分な魔力を人体に込めすぎると普通は耐えられない。筋肉が裂けて全身から血が噴き出ることがあるからだ。
でも、あの身体は僕が魔力を馴染ませて徹底的に鍛え上げた身体だ。
普通の人間には追い付けない速度で戦うことができる。
「守ってくれるのは嬉しいよ。でもね、だから選んだわけじゃないんだよ?」
一応、僕はゼナヴィアたちを護衛するために魔力霊体のまま彼女たちの隣で待機中。
もしもの時はちょっかいを出すつもりだけど……そもそもこの子たち逃げる気ないね? 数が数だから逃げる隙もないし、しょうがないっちゃしょうがないんだけど。
ゼナヴィアもルヴェルのことが心配っていうより自分が――いや、乙女心を暴くのはやめようか。
檻の中にいたときも同じ感じだったし悩みの多いお年頃なのさ。
「ゼナヴィアちゃん……」
リズリィも思うところがあるみたいだ。
でも、だからといって魔力霊体の僕には彼女たちの悩みを解決することはできない。
最優先でやるべきことはみんなを無事に逃がすこと。
「我々が馬鹿どもと同じ轍を踏むなどあってはならぬ! スキルのない『能無し』などどうでもいい! 逃げられる前にさっさと捕まえろ!!」
男の部下たちが散開して一斉に距離を詰めてきた。
身のこなしは悪くない。
少なくともさっきの貴族連中みたいに一瞬でやられるような雑魚ではなさそうだ。
「ちっ――!」
ルヴェルが引き返そうとするが敵に阻まれた。
奇襲はうまくいったんだけどね。全員を相手取ることは難しいようだ。
まずいな。
「足手まといにはならない!」
ゼナヴィアの声と同時に短剣が放たれた。
一振りは敵の足を切り裂き、もう一振りは地面へと突き刺さり――小さな爆発を起こした。
「ぐっ、千刃流の使い手か! 小賢しい!」
爆薬を仕込んだ短剣を飛ばし、起爆させたのか。
学園では使いにくいけど実戦なら遠慮する必要はないしな。
爆発に巻き込まれた奴は足を引きずってるしほぼ無力化したようなものだ。
「私も負けていられません――!」
力を溜めていたのだろう。
指の隙間から雷撃が迸り、リズリィの胸の前で紫色に光る雷の球体が形成された。
あの魔力量の雷を生身で受ければひとたまりもないだろう。
「雷撃波!」
バチン!
と両手を打ち合わせると同時に雷球が弾き出された。
ビー玉を打ち出すおもちゃみたいで懐かしい――とか呑気なことを考えていたら、雷撃波はあらぬ方向へ。
「な!? どうして!?」
リーダー格の男を狙いまっすぐ飛んでいたはずなのに別の賊へ吸い込まれるように着弾、そして吸収されてしまった。
「『雷』を扱う始原スキル持ちがいることはわかっているのだ。避雷系統のスキル持ちを部隊に組み込むのは当然だ」
そんなピンポイントなスキルまであるんかい。
汎用性なさそう。
「それよりも隙だらけだぞ? 『雷』よ」
リズリィにとってスキルを使ったメタ的対策をされたのは初めての経験だったらしい。
立ち直れていない一瞬の隙を突かれて敵の接近を許してしまった。
「しまっ――」
銀閃が彼女を襲う。
しかもその剣先には液体が塗られている。
ほぼ間違いなくに毒だろう。
会話の流れ的に命を奪うつもりはないらしいので麻痺とか睡眠を誘う類の物だろう。
このままだとリズリィが怪我をするのは目に見えているけど、僕が庇うことも容易い状況ではある。
でも、やらない。
「くっ――」
「ベルくん!?」
だって彼女の弟が颯爽と割って入ってくるのが見えていたから。
「姉さんから、離れろ!!」
腕を斬られながらも賊を斬り返し、また一人撃退。
「ルヴェル!」
今度はゼナヴィアがバルディーク姉弟を守る様に前へ出た。
その手にはいつの間にか針のような暗器が六本握られている。
本当に千刃流は忍者みたいな流派だね。
いったいどこにそんな武器を隠し持っていたのやら。
「学園生にしてはなかなかやるじゃないか。だが所詮ここまでだ」
賊リーダーの言葉通りかな。
たとえ武器が尽きなくても心もとないことに変わりはない。
手負いのルヴェルに相棒のいないゼナヴィア、そしてスキルを封じられたリズリィ。
万事休すというやつだ。
「始原スキルを警戒して人数を揃えたが、まさか『能無し』の子供にここまで手こずることになろうとは。よい余興だったぞ」
勝ちを確信しているのかお喋りが増えてきた。
実際、彼らの視点でもルヴェルたちの視点でも賊の勝利は揺らがないのだろう。
僕という存在を考慮しないのなら、ね。
ルヴェルが受けたのは強烈な睡眠作用のある毒のようだけど、僕には効かないし魔力で打ち消すことだってできる。
その間に賊を全滅させることだって可能だ。
無論、ゼナヴィアとリズリィを守りながら。
でもそれはすべてがバレるということでもある。
彼女たちの前で人格を入れ替え『獣化』して殲滅する。
ルヴェルの中に別の人格がいることが露見してしまう。
できる限り避けたい事態だ。
だからといって、隠したままゼナヴィアとリズリィが連れ去られるのを黙ってみているのかと問われれば、その答えはノーだ。ありえない。
では、どうするのか?
勿体ぶることができるくらい僕には余裕がある。
その理由を覚えている人は僕以外に誰がいるかな?
「お前たちはここで終わりだ。一人足りないがお前たちだけでも来てもらうぞ」
そう、一人足りないね。
忘れてなかったんだ?
僕も忘れてなかったよ。
獣化して助けるのも難しい、助けずに放置するわけにもいかない。二択の選択肢が選べないのなら第三の選択をするしかない。
僕が助けられないのなら、僕の部下に助けてもらえばいいのさ。
「あらあら、躾のなっていないワンちゃんがこんなにたくさん。飼い主はいったいどこにいるのかしら?」
カツ、カツ、と優雅な足音が響く。
華やかなドレスを身に纏い、フェイスベールのような布で素顔を隠す、羽織られた黒いコートの裏地には彼女の名を冠する花の刺繍が縫い込まれていた。
「誰、だ?」
眠気に抗うルヴェルが呟く。
いつの間にか傍らに立っていた彼女に何者なのかと問う。
「月季。エデンブーケの月季よ」
彼女はそう名乗り、ルヴェルたちの前に姿を現した。




