はもの男
結論から言うとゼナヴィアとリズリィは捕まってしまったらしい。
ゼナヴィアは騎士としてそこそこ優秀だけどスキルは相棒依存で使い勝手の悪い『連携領域』。ルヴェルの姉であるリズリィを臨時の相棒にすることはできるだろうが、本領は発揮できないだろう。
そしてリズリィは『雷』という強力な始原スキルを持ってはいるけどまだまだ未熟。使いこなせるようになるにはもっと時間が必要だ。
現実問題としてレナス聖騎士学園に入学したばかりの女学生二人が複数のスキル持ちに囲まれてしまえばなすすべはない。
多勢に無勢というやつだ。
あるいは脅されて抵抗できなかったのかもしれないね。たとえば「俺たちに逆らったらルヴェルがどうなるかなぁ? ぐへへへへ」とかそんな感じ。
今のルヴェルみたいにさ。
「……本当にゼナヴィアたちは無事なんだろうな」
「無駄口を叩くな。いいから入れ」
げしっと後ろから男に蹴られる。
だが、ルヴェルはびくともしない。
「は、早くしろっ!」
「……」
ルヴェルが連れてこられた場所は王都エムブレスの外れにある廃墟だった。
使われなくなった倉庫のようにも見えるし、機材が運び出されてもぬけの殻となった工場のようにも見える。
ま、そこはどうでもいいか。
とにかくルヴェルは変装した貴族学生たちにここまで連れてこられた。
バルト&ロイスと別れた後、僕たちは怪しい連中を追うことになった。すると逆に向こうから接触してきてルヴェルにこう告げたんだ。
『お前のご主人様と姉は預かった。返してほしければついてこい』
ってね。
テンプレというかお約束というか、とりあえず罠だということはわかる。
でも無視するわけにもいかない。
残念ながらね。
ルヴェルの周りには変装した貴族の男が三人。
僕はもちろんルヴェルの相手にもならないだろう。
この程度の烏合の衆ならゼナヴィアたちの無事を確認した時点で全員で反撃に移ってもいい。
たぶんルヴェルもその腹積もりなんだろうさ。
「ルヴェル・バルディークを連れてきました」
「ご苦労」
建物の奥へと進むと見覚えのある男が待っていた。
「お前か」
入学式にルヴェルに喧嘩を売ってきたチンピラ貴族。
名前は……なんだっけ?
そういえば名乗ってなかった気がする。
んー……スキルが『手刃』だから刃物男でいいか。
周囲には見覚えのある顔と知らん顔が半々。
この馬鹿げた催しに参加している貴族学生たちだろう。合わせてざっと十二人といったところか。
「ルヴェル!」
「ベルくん!」
んで、本当に捕まってたお姫様が二人か。
「無事みたいだな」
ゼナヴィアとリズリィはでかい檻の中に閉じ込められていた。
見た感じ怪我はしてない。たぶん無抵抗で連れてこられた感じかな?
ルヴェルやここにいないエルマリアを引き合いに出されて脅されたのだろう。
というかマジでエルマリアいないじゃん。
あの子なら二人を守りながら貴族どもを殲滅するくらい造作もないだろうに。
火急の事態にはならないと判断したのかな?
とりあえず僕も様子見しておこう。一応、ゼナヴィアとリズリィにこれ以上危害が及ばないように僕も檻に入って――ん? 意外と落ち着くな、ここ。観戦者気分になれる。
「のこのこやって来て感動の再会のつもりか? 馬鹿なやつだ。罠とわかっていただろうに」
刃物男が得意げに口を開く。
どうやらあいつがこの集団のまとめ役らしい。
「何が目的だ」
「目的? 決まっているだろう。平民に身の程を教え込むためだ。その身体にな」
おー絵に描いたような三下の台詞だ。周りにいる男たちの下卑た笑みも実に様になっている。
「俺に男色の趣味はない。数だけは揃ってるんだ。お前たちだけで乳繰り合っていればいいだろ」
「はっ、つまらない冗談を言う余裕はあるみたいだな。釣れないことを言うな。俺はお前のことを忘れたことはないんだからな」
え? もしかして本当にルヴェルのことが気になるの?
その身体は俺のモノでもあるからあんまり無茶なことはやめて欲しいな……。
今からでもルヴェルの背中――ってか尻を守りに行くか?
「俺の家名に泥を塗ったお前に復讐する機会をどれほど待ち望んだことか。ルヴェル・バルディーク、俺と再戦しろ! お前に拒否権はない!!」
あ、そっち?
いや知ってたけどね。
てか最初から『手刃』を使うのか。剣すら構えないとは。
まあ聖騎士学園とは名ばかりでスキル養成校だから無理もないけど。
「俺から剣を取り上げなくてもいいのか? 卑怯者のお前たちにしては随分とお優しいじゃないか」
ルヴェルくん!?
挑発しなくてもいいのよ!
すました顔してるけどやっぱりキレてたのか!
「驕るなよ『能無し』。確かにお前の剣術は他の奴より多少優れているんだろうな。だが、それだけだ。どれだけ剣を極めようとお前がスキルを持たない『能無し』であることに変わりはない。持つ者と持たざる者の間には越えられない壁が存在することを、俺が――ゾルト・ゴレムが教育してやる」
「……」
今更名乗るのか。何かの決意表明みたいな感じかね。
ルヴェルが無言なのは気圧された――ってわけじゃなくて改めて『能無し』であることを反芻しているのかも。
刃物男改めゾルトが言っていることは間違ってないからね。
僕だって『獣化』スキルがなければ、ここまで好き勝手にはできなかっただろうし。
「お前を完膚なきまで叩きのめし、動けなくなったお前を人質にする。お前はただ目の前で大切な女たちが犯されるのを見ていることしかできない。そうして、無力な自分を! スキルが無い自分を! 『能無し』である自分の運命を!! 痛感し! 呪って! 絶望に沈め!!」
それはそれとしてこいつはボコそう。
理性もなければ性格も性根もひん曲がっていて矯正するには手遅れだ。
てか、恨みすぎだろ。どんだけ負けたの悔しかったんだよ。檻の中でゼナヴィアが「すごい逆恨み……」とドン引きしている。
「言いたいことはそれだけか」
ルヴェルが静かに剣を抜き、構えた。
「一つ忠告してやろう。あの時、俺が後れを取ったのは本気を出せなかったからだ」
ゾルトが獣のように指を広げ『手刃』を発動する。
五指の内側が包丁のように鋭利になり合計十本の刃の爪が姿を現した。
本気を出せない云々は負け惜しみの可能性もあるけど……ルヴェルは最初から油断するつもりはないみたいだ。
今回は剣を納めるような真似もしない。
「――ッ!」
最初に動いたのはルヴェルだ。
足に魔力を集中させ、一気に間合いを詰める。
すれ違いざまに放たれるのは先手必勝の一の太刀。
「鬼神流・戦技『葉斬――ッ!?」
その技は本来、相手の手首を斬り落とすためのものだ。
本来であればゾルトの刃の手が宙を舞い、血潮を噴き出すはずだった。
でも実際は違った。
「学園で習わなかったのか能無しぃ!」
ルヴェルが咄嗟に距離を取る。
腕には浅い裂傷。
まるで刃物に撫でられたかのような浅い傷が幾筋も走っていた。
致命傷というわけでなさそうだが、指の隙間から血が溢れている。
なぜ、そうなったのか。
理由は明白だ。
「スキルは申告制だ。学園の生徒が本当の能力を秘匿しているのは珍しいことじゃない。そしてそれは俺も例外ではない!」
僕はゾルトのことを刃物男と呼んでいたけど、それはあながち間違いじゃなかったらしい。
彼の服は色々なところが切り裂かれておりその隙間から鈍銀の刃が姿を覗かせていた。
そして極めつけは彼の顔だ。
まるで包丁を幾重にも積み重ね、無理やりサメの顔を模したような異様な顔になっていた。
まさに刃物男。
ゾルトが『手刃』とスキル名を叫んでいたのは周囲を欺くための偽装。
本当は手だけではなく全身刃物にできる凶器人間だったのだ。
「スキル『刃者』。剣しか扱えない『能無し』のお前に、刃そのものとなった俺は斬れない。ゆえに俺に負ける道理はない!」
そう叫ぶと、刃者男は獰猛な獣のようにルヴェルに踊りかかった。




