クエストをこなす
聖騎士学園に舞い込んでくる仕事の依頼は、魔物の討伐が大半のようだ。
畑を荒らすイノシシ型の魔物の駆除。
街道で人を襲うゴブリンの討伐。
素材採取のために鳥型魔物の狩猟を手伝ってほしい――などなど。
他にも、近隣の山に山賊が居着いたので退治してくれ、といった依頼もあった。
国に所属する騎士だけでは手が回らないのだろう。
国と冒険者ギルド、そしてレナス聖騎士学園が提携して適材適所の人材を派遣し、仕事をうまく回しているようだ。
「落ちろッ!」
迫りくる大鎌をルヴェルが剣で弾き返す。
鬼神流・戦技『落果』かな?
本来は相手の武器を叩き落とす技だけど今回の敵は大鎌を手放すことはなかった。
それもそのはず。
「やはり人間のようにはいかないか」
目の前には大きな鎌を二振り構えた敵――カマキリ型の魔物ソードマンティスが威嚇している。
あれが今回のターゲット。
ルヴェルたちが依頼を受けた討伐対象の魔物だ。
「やっぱり手強いね」
「本来は上級生になってから挑む相手だからな」
ゼナヴィアの言葉にルヴェルが同意する。
弱音――というわけではなくて、ルヴェルとしては事実を口にしただけだ。
ルヴェルたちは新入生でありながら卒業資金を稼ぐために学園が用意したクエストを受注することができる立場にある。
本来であればそれらは上級生向けの内容だ。
当然、クエストの難易度は高く、討伐対象も一筋縄ではいかない相手も多い。
今回の敵であるソードマンティスも難易度的には新入生が戦う相手ではなさそう。
ゴブリンとは比べ物にならないほど強いし、凶暴でしかも肉食だ。
二人が後れを取る――なんて心配はあまりしてないけど、もしもの時は僕が魔力霊体のまま介入するかもしれない。
ま、それもいらぬお節介になるだろうけど。
「貴方たちならきっと大丈夫。安心なさい、もう一匹はわたくしが処理しておくから」
ギルメンであるエルマリアが頼もしいことを言っている。
約束通り初期メンはルヴェル、ゼナヴィア、エルマリアの三人チームとなったため、当然エルマリアもこのクエストに同行している。
彼女がいる以上、二人が窮地に陥ることはないだろう。
「わーっ、なんかエルマちゃんの安心感すごいね!」
「本当に俺たちと同級生か疑わしいな」
ぶれない自信に圧倒されたのかゼナヴィアとルヴェルは敵を見据えながらそんなことをぼやいていた。
というかルヴェルくん、あなた――
「そもそもルヴェルがみんなより年下だよ?」
おっと、言いたいことが被ったわ。
忘れがちだけどルヴェルは従者騎士として早期入学した立場だからね。姉のリズリィともクラスは違えど同級生だしね。
「……そういえばそうか」
本人も忘れてたんかい――と虚空にツッコミつつ、ルヴェルはそのスタンスを貫くほうがいいだろう。
周囲に溶け込むために敬語とかもあえて使ってないみたいだし。
「……ゼナヴィア」
「うん、いつでもいいよ」
無駄話は終わりのようだ。
ルヴェルが疾走しゼナヴィアが追従するいつものフォーメーション。
最初の攻撃に全身全霊を込め剣を振り下ろす。
膨大な魔力と鍛え抜かれた剣術から放たれたのはルヴェルの一の太刀。
そして、その剣筋を斬るような横薙ぎの一閃。
『連携領域』によって極限にまで速度を絞られたゼナヴィアの一の太刀。
一糸乱れぬ一撃必殺の二連撃。
双神流・連携戦技『残光一閃』。
ルヴェルとゼナヴィアの戦い方は二位一体。
ある時、ゼナヴィアが気付いてしまった。
自分とルヴェルが一緒に戦うならそれはもう”二刀流”なのではないか、と。
そして二刀流なら双神流も扱えるのではないか、と。
最初こそルヴェルは呆れていたけど、強くなることに貪欲な彼は双神流を学ぶことを了承した。
そうして生まれたのが『残光一閃』。
双神流に存在する初歩戦技『十字切り』を二人で再現した我流戦技だ。
「これで、実戦でも有効だと証明されたな」
胴体を真っ二つに斬られたソードマンティスの身体はすでに地面に転がっている。
ルヴェルの初撃に反応して大鎌で頭部を守ったのはいいものの、がら空きになった懐をゼナヴィアに斬られてしまったのだ。
「エルマちゃんは――って心配はいらなかった、ね」
ゼナヴィアが振り返った先にはエルマリアの後姿が。
そしてその先には無数の槍によって地面に磔にされたもう一匹のソードマンティスの姿があった。
「こちらも終わったところよ」
身動きの取れなくなったソードマンティスの頭を斬り落とし、エルマリアが優雅にほほ笑む。
流石だ。
ソードマンティス程度では相手にならないだろう。
直接鍛えた僕としても鼻が高いよ。
「すごいっ! これがエルマちゃんの『剣嵐』の力? こんなにたくさんの槍まで扱えるなんて……」
「スキルだけでここまで圧倒できるのか」
「くすぐったい視線ね。でも、いいわ。羨望の眼差しは大歓迎よ」
エルマリアが胸を張っている。
そのせいでスタイルのいいあれやそれが強調されて大変なことに。
「わっ、ちょっと意外かも。エルマちゃんはこういうとき謙遜するタイプかと思ってた」
「俺もだ」
どうやら不純なことを考えていたのは僕だけだったらしい。
駄目な主を許してくれ、月季。
「わたくしを鍛えてくれた師匠に面目が立たないもの。それにこれでもまだ本気は出していないわ」
「おー。それどころか不遜な感じまで出してしまうと」
実際、エルマリアは本気を出してはいない。
そもそも彼女の能力ならソードマンティスを槍で拘束する必要もないし、それどころが武器そのものも不要だ。
「周りを巻き込んでしまうから抑えているのよ」
ん?
それは嘘だな。
エルマリアなら自分の能力をうまく制御して戦うことができる。味方を傷つけるなんてへまはしない。
周囲に仲間がいると本気を出せない――裏を返せば”1人なら戦える”と読み取れる。
後で単独行動に移るための布石、かな?
嘘を吐いた理由はそんなところだろう。
たぶん。
「エルマちゃんって本気で戦ったことあるの?」
「どうだったかしら。わたくしと最後まで踊ることができたのは姉弟子ぐらいしか思い浮かばないわ」
「姉弟子?」
ルヴェルも見たことあるよ。
パン屋のにゃんにゃん姉妹だ。
「可愛い子猫ちゃんたちよ」
ってエルマリアさん!?
それは所謂”匂わせ”ってやつだよ!
「姉弟子を猫扱いしちゃうんだ? エルマちゃんとこの師弟関係って規律とか厳しくない感じだ」
外聞的には師弟って体で話題にした方が楽だし都合がいいからね。僕のことを詳しく説明するわけにはいかないし。
「貴方たちが想像するような堅苦しいものではないわ。師匠の呼び方もみんな違うし、それぞれ好きなように慕っているもの」
「エルマちゃんはなんて呼んでるの?」
「内緒よ。乙女の秘密といったところかしら」
「わお、意味深だーっ」
ちょっと語り過ぎのような……エルマリアにしては軽率な言動に見える。
なにか思惑でもあるのかな?
「ちなみにわたくしは師匠の足元にも及ばないわ」
「足元にも……ってエルマちゃんが? 一太刀浴びせるぐらいしかできないってこと?」
「いいえ。まったく太刀打ちできない実力差があるの」
「嘘だろ?」
ちょっと大げさだよ。
しかも僕が聞いていることをわかっていながら発言しているからね。
エルマリアも出会った頃に比べたら物凄い急成長を遂げている。仮に真剣に戦ったとして、有効打の数発くらいは知恵と実力とスキルを駆使して与えてきそうだ。
もちろん僕も彼女たちの主人として負けるつもりはない。でも、鍛え育てた側としては成長も信じている。
期待には応えたいし、期待もしたい。
贅沢かな。
「冗談って感じじゃなさそうだね。ルヴェル」
「世界は広いってことか。にわかには信じがたいが」
ごめんねルヴェル。
世界は広くないの。狭いとか隣人とかそういうレベルじゃないの。あなたの話なの、それ。人格が違うだけなのよ。
それこそ信じられない話ではあるけどね。
「あぁ、わたくしを介してあの方が畏怖されている。彼の功績の一部になっていると自覚できて――ぞくぞくするわ」
エルマリアが己の身体を掻き抱いている。
なんというか……はっちゃけてるね。
「ルヴェルも見習ってもいいよ?」
「……急になんだ」
「あたしが褒められたら我が事のように喜ぶの」
「身体をしならせて熱っぽい顔をすればいいのか?」
「う~ん……あり!」
ありなの!?
「勘弁してくれ。それよりエルマリアがそこまで師事する人物っていうのは気になるな。機会があれば手合わせ願いたいところだ」
内なる自分との戦いか。
もしそんなことになったら最終決戦みたいな構図になっちゃうね。
「ふふ、それはちょっと難しい相談ね。あの方はとても忙しい人だから」
ルヴェルの言葉にエルマリアが苦笑している。
ゼナヴィアが「わ、自力で帰ってきた」と驚いているがそれは華麗にスルー。
「雑談は終わりよ。ソードマンティスから素材を回収して学園に戻りましょう」
区切りがいいと判断したんだろう。
エルマリアが話を締めてクエストを再開。
討伐証明として必要な部位を回収するため、ルヴェルたちは黙々と作業に取りかかるのだった。




