新入生歓迎パーティー 上
「……すみません。お誘いは嬉しいのですけど、私はゼナヴィアちゃんのギルドに入ることができません」
やっぱりリズリィには振られてしまった。
予想していたことだから驚きはないし、断る理由もわかる。
「免許皆伝試験の許可が下りてないから、かな?」
「はい、その通りです。そもそも入学してまだ一週間ほどしか経っていません。卒業資金を稼ぐ話をしているのはルヴェルくんとゼナヴィアちゃんくらいですよ? あの日、別れた後、二人とも先生相手に何をしたんですか?」
「あー! 疑いの眼差しだーっ! ひどいお姉ちゃんだねルヴェル!」
糸目だから瞳は見えないけどね。
でも勘繰るのも仕方ない。何かカラクリがあるんじゃないかって思うのは当然だ。
「……姉さんの目は見れないだろ」
同じツッコミ。
僕たち気が合うね。
「気分の問題だよ。そういう気配をリズちゃんから感じたの!」
「あのっ、私は別にルヴェルくんのことを疑ってるわけじゃなくて――」
「大丈夫、わかってるよ。姉さん」
それ以上言葉にしなくてもいいってか?
信頼してるねぇ。
「そう、ですか? それならいいんですけど」
「え? よくないよ! その場合あたしに問題があるって流れにならない!?」
実際そうじゃない?
ルヴェルのことを武器の一つと言い切って先生相手にけしかけたんだから。
あの頓智が決め手であることは確かだよ。
「落ち着きなさいゼナヴィア。貴女もレディーなら服装に見合った振る舞いを意識しなさい。ドレスに必要なのは派手な装飾ではなく慎ましさを着飾ることよ」
貴族のエルマリアらしい意見だ。
「堅苦しいのは苦手だなーっ」
僕も苦手。
会社の飲みの席とかずーっと早く終われ~って思ってたし行きたくもなかった。
今日のこの新入生歓迎パーティーだって僕が表に出ていたら絶対に参加しなかっただろうさ。
「だから友達とお喋りできて嬉しいよ。ルヴェルと二人っきりだったら今頃どうやって抜け出すか相談してたに違いないもん」
「……部屋に戻って剣を握りたいからな。しょうがない」
「ねー」
二人で抜け出してしっぽり――なんて話にならないのがこのコンビらしい。
ま、お互い意識してないなんてことはないみたいだから時間の問題だとは思うけどね。
ここ半年の間ずっと覗き見してた僕が言うんだ、間違いない。
「ちなみにさっきのお話の続きだけれど――わたくしは貴方たちの勧誘を受けるつもりよ」
「ほんと? やったー!」
「いいのか?」
「ふふ、むしろお誘いが無かったらこちらからお願いするところだったわ」
先日の約束通りパーティーに集まった五人。
ルヴェルとゼナヴィア、リズリィにエルマリア。そして僕。
ゼナヴィアは開口一番にギルドの結成を宣言してリズリィとエルマリアに加入しないかとアプローチをした。それが冒頭のやり取りだ。
これがゲームなら軽快なSEかBGMが流れて『エルマリアが仲間になりました』とポップアップが表示されるに違いない。
「エルマちゃんはあたしたちのことを気にかけてくれているみたいだしいけると思ってたんだーっ」
「否定はしないわ」
表立って動けない僕の代わりにルヴェルとゼナヴィアのサポートをしてくれるのだろう。
頼もしいね。
僕の秘密――ルヴェルの裏人格というのは、仲間の――それこそごく一部の人間しか知らないトップシークレット。
エルマリアがバレないように手回ししてくれるだけで心強いし、僕が表に出ないといけない状況を未然に防ぐことだってできるだろう。
僕の学園生活は安泰と言っても過言ではない。
「じゃあエルマちゃんはギルドに参加できるようになったら合流ってことでいい?」
「心配には及ばないわ。すでに双神流の指南役の先生から許可は貰っているの」
ルヴェルたち三人が驚いた表情をしている。
僕はエルマリアの実力を把握しているので彼女が学園に認められる状況は不思議ではない。
でも、リズリィはともかく、ルヴェルとゼナヴィアは何に驚いているんだろうか。
単純にエルマリアの強さに驚いたのかな? それとも自分たちの他に許可が下りている新入生がいるとは思わなかったとか?
「千刃流の先生は他の流派の先生より免許皆伝試験の許可を出しやすいって話は聞いたことがあります。ですが双神流の先生が新入生に許可を出したなんて話は聞いたことがありません」
なるほどそういうことか。
リズリィによるとそもそも流派によって難易度が違うらしい。
千刃流は実戦の中で学んでいく技術が多いから必然的にそうなるのかもね。
逆に鬼神流や双神流は基本を大事にしているから、ちゃんと時間をかけて修練を積む必要があるのだろう。
「只者ではないんだろうなーって思ってはいたけど……エルマちゃんって、もしかして相当強い?」
ゼナヴィアの問いにエルマリアは上品な笑みを浮かべるだけで何も答えなかった。
「わお。圧倒的強者感」
「……少し気になってきたな。もしよければ後で手合わせしてくれないか?」
ルヴェルくんさぁ、もうちょっと剣から離れてもいいんじゃない?
「せっかくの申し出だけど遠慮しておくわ。摸擬戦とはいえ貴方と戦うなら本気にならざるを得ない。でもわたくしにはスキルの秘匿情報があるからそもそも本気を出せないの」
「スキルが逆に枷になることなんてあるのか?」
僻みとかではなく純粋な疑問が口から出たのだろう。
ルヴェルは”スキルがない”という枷を背負って生まれてきた。そんな彼からしてみればスキルを持つこと自体が枷になるなんて与太話にしか聞こえないのかもしれない。
「学園に申告したわたくしのスキルは『剣嵐』。武器を宙に浮かせて操ることができる能力」
「強力なスキルだ」
「ここで問題よ。武器とはどこまでを武器として扱うのか。重量に限界はあるのか。数は何本まで操ることができるのか」
「それは……秘密にしていた方が確かに強そうだ」
でしょ?
とエルマリアが目を細める。
「学園であっても手の内は明かさない。むしろ思惑が交錯する場所だからこそ隠すべきね。師匠が言っていたわ。能あるタカは爪を隠すものだと」
「どういう意味?」
ゼナヴィアも気になるらしい。
「真に実力がある者は、それを軽々しく誇示したりひけらかしたりしないということよ」
「耳が痛い話だな」
「入学式の決闘のことなら思い出す必要はありません。あそこでバカにされたまま引き下がっていたら、今も絡まれ続けていたはずです」
フォローしてくれるところはさすがお姉ちゃんって感じ。
というか――
「見てたのか」
「だって心配で……もしものときは、その……私もやらなきゃって」
何をやるつもりだったのだろうか。
リズリィは何かと思い詰めるような感じになってしまったから無茶をしないか少し心配だ。
「ありがとう、姉さん」
「……家族、ですから」
「あたしは気づいてたよ。それにリズちゃんってたしかルヴェルが勝つ方に賭けてたよね?」
「姉さん?」
お姉ちゃん?
あなた、どさくさに紛れて賭けに参加していたのかい?
「……私の弟が負けるわけないもん」
そりゃそうだ。
確実に儲けられるならそりゃあ賭けにも参加しますわ。
誰も責められないね。
というかちょっと昔の雰囲気を感じて懐かしい。
「それよりもエルマリアさんの師匠ってどんな人なんですか?」
あからさまに話をそらした。
ま、話題転換というよりは話題矯正って感じだけど。
「あら、いいのかしら?」
「え」
「夜が明けてしまうわよ?」
「……今日は遠慮しておきますね」
賢明な判断だ。
エルマリアはくすくす笑いながら「残念ね」と肩を竦めている。でも、これはきっと狙い通りの展開のはずだ。
だって彼女の師匠って僕のことだからね。
長話ができるほど詳細な会話はそもそもできない。
「えー、あたしは聞いてみたかったけどなー」
ゼナヴィアは好奇心旺盛だから納得の反応。
その隣にいるルヴェルも興味深そうにしている。
「機会があれば語りましょう。でも、そうね……一言で師匠を――あの方を表すなら……」
なんだか芝居がかった口調でもったいぶっている。
だけど次の言葉が出てこない。
……もしかして僕って個性ないのかな。
そんなに悩む?
「わたくしは愚かね」
「急にどうした」
ホントにどうした?
思わずルヴェルと思考が被ってしまったじゃないか。
「あの方を一言で語るなんてできるわけがなかったわ」
「……そうか」
「エルマちゃんってもしかして愉快な人?」
う~ん、否定できない。
昔はもっとザ・貴族のお嬢様って感じの子供だったけど、最近はいつもこんな感じだし家族や”仲間”の前だとさらにタガが外れる。
余所行きの姿なんて久しく見てないような?
……いや、そういえば学園初日に見たか。
またあの時みたいにちょっかいをかけてくる暇人でも現れれば、貴族な彼女を垣間見ることができるだろうさ。
「歓談中に失礼するよ。エルマリア・ビターロック嬢」
噂をすればなんとやら――って、たぶん僕しかしてないだろうけど。
名前を呼ばれたエルマリアと会話の邪魔をされたゼナヴィアたちが一斉に振り返る。
そこには貴族の証を身に着けた男子生徒が三人。しかも制服のネクタイの色がルヴェルたちと違うので上級生のようだ。
はてさて何をしに来たのやら。
「――なにかご用かしら?」
さっそく威圧的。
感情を感じさせない底冷えするような落ち着いた声だ。
でも中央に立つリーダー格らしき男子生徒は気にした様子も見せず一歩前に足を踏み出し、エルマリアへ向かってゆっくりと右手を差し出した。
「この一曲、お相手願えるかな」




