千刃流教場にて 下
「そこまでだ、新入生。お前らの実力は把握した」
勝負はあっという間だった。
ルヴェルの不意打ちをバランが捌き、ゼナヴィアの追撃をかわす。そのまま二対一の剣術対決が繰り広げられるのか――と思いきや、数回刃を交えただけで終わってしまった。
「まだ始まったばかりでは?」
「ルヴェルもあたしも本気を出してませんよ」
そうだそうだ!
魔力量が増えたルヴェルの身体能力はそこらの人間じゃ相手にならないぜ。
たとえ学園の教師であっても敵ではないし、バランより剣術が劣っていたとしてもルヴェルとゼナヴィアを同時に相手取ることは困難なはずだ。
けしかけておきながら戦闘を放棄するのはどうなのよ。
「これ以上やっても俺が怪我するだけになりそうだからな。つまりは降参ってことだ」
おや?
てっきり負けるのが嫌で制止したのかと思いきや、あっさり敗北を認めてる。
「戦意は……本当にないようだな」
「もーっ、せっかく先生の意表を突けたと思ったのにな~」
千刃流だから騙し討ちをするための嘘の可能性も捨てきれない。でもルヴェルの言う通りバランからはもう戦意を感じられない。いや、こちらの出し抜くために戦意を隠しているだけという線もある。
……疑い始めたらきりがないな。
ホント、千刃流を相手にするのってめんどくさい。
「そう言いつつまったく武器を引かないじゃないか」
バランが苦笑しながら肩をすくめている。
「千刃流の悲しき性ってやつだな。敵対した相手の言葉は信用できない。だから先にお前たちにこれを渡そう」
そう言って彼が取り出したのは、小さなバッチのようなもの。
模様が彫られていてなかなかの意匠をしている。
なんだろう? ジムバッチ的ななにかだろうか?
他の流派の指南役を倒したら同じようなものが貰えたら熱い。
集めたところで僕はルヴェルの言うことを聞くつもりはないから意味はないけどね。
「ギルド許可証だ。それがあればギルドチームを結成できるし、正式なメンバーとして認められる」
「つまり免許皆伝試験に臨むことができる、と」
「へーっ? これが許可証なんだ? なんだか可愛いね」
ゼナヴィアはそう言ってバランから受け取ったバッチをルヴェルの制服に飾り付けた。
「……」
主の突飛な行動を受け入れつつ、ルヴェルもお返しとばかりに手元のバッチをゼナヴィアの制服に飾る。
いちゃついちゃって。
「仲いいなーお前ら。だからあんな連携もできたんだろうが……ゼナヴィア・ラウンズロッド、改めて一つ確認したい」
「いいですよ。なんですか、先生」
「どうしてお前ひとりで戦おうとしなかった?」
「そんなの決まってるじゃないですか。ルヴェルはあたしの”相棒”。剣であり盾。だから武器の一つとして使っただけです」
千刃流は”なんでもあり”の流派。だから剣の代わりに”剣を持った人間を武器”にした――とゼナヴィアは主張しているのだ。
そんなのありかよってツッコミたくなるけどありなのだ。
だからバランも可笑しそうに笑うだけで咎めることはしない。むしろバッチを渡すことでゼナヴィアの考えに賛同を示したのだろう。
「いいねぇ、最高だ。その許可証を持つにふさわしい思考だ。お前たちは最初から千刃流の心得というものを理解している。今更、千刃流の教えを乞う必要はない」
え?
ってことは実質午後の授業はなしってこと?
出席しなくても卒論だけ提出すればいい的な?
「実力が折り紙付きであることはバッチが証明してくれる。そしてお前たちに必要なのは場数――実戦あるのみだ。だからギルドチームをさっさと作ってクエストを受注しろ。卒業費は稼げるうちに稼いだ方が有利だからな」
マジか。
授業初日で単位を修得したようなものじゃん。
これ、厄介払いとかじゃないだろうな。ルヴェルが『能無し』と呼ばれてるからまともに教えるつもりがないとか――
「なにか行き詰まるようなことがあればこの森に顔を出すといい。俺や他のやつらが相手くらいはしてやる」
あまり関係なさそう。
「俺たちまだ新入生ですよ」
「規格外の魔力量を持っておきながらよく言う。それだけを見れば学園生の域を超えているぞ」
「バラン先生にはルヴェルの魔力の強さがわかるんですか?」
「伊達にレナス聖騎士学園の指南役をやっているわけじゃないからな。並大抵の者じゃ相手にもならんだろ。ゼナヴィアも優秀な武器を手に入れたじゃないか」
「……ルヴェルはあたしの相棒です。物みたい言わないで」
ん? なんか気に障ったのかな。
ゼナヴィアがちょっと不機嫌気味。
「はははっ! 自分で武器扱いはするけど他人は駄目なタイプか! ルヴェル、お前苦労しそうだな~」
「覚悟の上なんで」
「えーっ! 否定してよ!!」
それは難しいでしょ。
ゼナヴィアって結構強引なところあるし、その結果として僕を含めルヴェルがここにいるんだからさ。
何はともあれ剣術修行だけで終わるはずだった午後の時間がギルドクエストで上塗りされるのは大歓迎だ。日中の暇な時間が外の世界を知る機会に変わるってことだしね。
僕としては願ったり叶ったりである。
ただ、ギルドってことはパーティーを組む必要があるよな?
この二人組に混じれる仲間か。
候補としてはまず一人は確定――というか確実にこの情報を仕入れてコンタクトを取ってくるハーフエルフのお嬢様がいるのでなんとかなるだろう。
三人ならそうそう危ない目に遭うことはないはずだ。
あと一人加えてもいいならあの娘だろうけど……難しいか?




