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凪の亡霊  作者: 鷹司 怜


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【凪の亡霊 特別編】  『真実を見つけた夏(一)』


夏が好きだった。


暑いのは苦手だった。


日焼けも嫌いだった。


虫も嫌いだった。


それでも夏が好きだった。


島が一番元気になる季節だから。


観光客が増える。


港が賑わう。


子どもたちの声が響く。


祭りの準備が始まる。


島全体が少しだけ明るくなる。


春香はそんな夏が好きだった。


そして何より。


美咲がよく笑う季節だった。


美咲とは小学校から一緒だった。


家も近い。


学校も同じ。


高校も同じ。


気付けばいつも隣にいた。


美咲は優しかった。


優しすぎるくらいだった。


だから損をすることも多かった。


頼まれたら断れない。


困っている人を見ると放っておけない。


春香は時々腹が立った。


「もっと自分勝手になればええのに」


そう言うと美咲は笑う。


「春香が二人分わがままやから大丈夫」


その返事も腹が立つ。


そして少し嬉しい。


そんな関係だった。


高校三年の夏。


東京から一人の青年が来た。


三上遼介。


春香はすぐ分かった。


ああ。


これは駄目だ。


美咲が恋をする。


なぜ分かったのか自分でも説明できない。


ただ見れば分かった。


美咲が笑う回数が増えた。


髪を気にするようになった。


服を選ぶ時間が長くなった。


全部分かりやすかった。


だから春香は黙って見ていた。


友達には色々な役目がある。


背中を押す役目。


叱る役目。


止める役目。


今回の自分の役目は決まっていた。


見守ることだった。


ある日。


美咲が照れながら話してきた。


「ねえ春香」


「何?」


「もし好きな人がおったらどうする?」


春香は吹き出した。


あまりにも分かりやすかった。


「告白する」


即答だった。


美咲は顔を赤くする。


「できんよ」


「何で?」


「怖いもん」


春香は呆れた。


この島で一番優しい人は。


この島で一番臆病だった。


「人生なんか失敗してなんぼや」


「春香は簡単に言う」


「簡単やない。やったことあるから言うんや」


それは本当だった。


春香は何度も失敗していた。


夢も。


恋も。


進路も。


それでも思う。


挑戦しなかった後悔より。


失敗した後悔の方が軽い。


だから美咲には前へ進んでほしかった。


数日後。


二人が付き合い始めたことを聞いた。


予想通りだった。


そして。


心から嬉しかった。


島の西側の岬。


夕陽が見える場所。


そこに並ぶ二人を見たことがある。


遠くから。


偶然。


夕陽の中で笑っていた。


春香は邪魔をしないように引き返した。


そして思った。


良かった。


本当に良かった。


美咲は幸せになれる。


そう信じていた。


だが。


その夏。


もう一つの運命が動き始めていた。


祭りの準備で神社の倉庫へ入った日のことだった。


古い木箱。


埃をかぶった木箱。


誰も気にしない箱。


だが春香だけは気になった。


なぜだろう。


今でも分からない。


ただ。


呼ばれた気がした。


箱の前で足が止まる。


潮の匂い。


古い木の匂い。


そして。


蓋に触れた瞬間。


胸がざわついた。


何かがある。


何かが眠っている。


知らなければならない何かが。


春香はゆっくり蓋を開けた。


その瞬間。


三十年間眠っていた真実が目を覚ます。


そして。


自分自身の運命も



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