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凪の亡霊  作者: 鷹司 怜


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【凪の亡霊 特別編】  『美咲の日記(二)』


八月七日


今日。


遼介さんに好きと言われた。


今こうして書いていても信じられない。


好きです。


そう言われた。


私は何を言ったっけ。


たぶん顔が真っ赤だった。


心臓が壊れるかと思った。


でも。


嬉しかった。


本当に嬉しかった。


だから私も言った。


好きです。


人生で一番勇気を出した瞬間だったと思う。


八月八日


朝起きた。


昨日のことを思い出した。


夢じゃなかった。


ちゃんと現実だった。


何だか笑ってしまう。


一人で。


変な人みたい。


春香に話したら案の定笑われた。


「やっとか」


だって。


そんなに分かりやすかったのかな。


八月九日


岬へ行った。


夕陽を見た。


遼介さんは写真を撮っていた。


私はその横顔を見ていた。


たぶん。


ずっと見ていられる。


こんなこと本人には絶対言えないけど。


八月十日


将来の話をした。


東京の話。


仕事の話。


夢の話。


不思議だった。


未来を話しているのに怖くなかった。


今までは未来のことを考えると不安だった。


でも今日は違った。


隣に誰かがいるだけでこんなに違うんだ。


八月十一日


遼介さんが言った。


「美咲さんなら大丈夫」


たったそれだけの言葉。


でも泣きそうになった。


今まで誰かにそんなことを言われたことがない。


島ではみんな現実的だ。


夢なんて語らない。


挑戦なんてしない。


だから。


信じてくれる人がいることが嬉しかった。


八月十二日


今日は海が綺麗だった。


青い。


本当に青い。


瀬戸内の海は静かだ。


凪の日なんて鏡みたいになる。


遼介さんは何枚も写真を撮っていた。


私は思った。


この人が帰った後も。


この海を見るたび思い出すんだろうな。


八月十三日


少し怖い。


祭りが近付いている。


祭りが終わる。


夏が終わる。


遼介さんが帰る。


考えたくない。


でも考えてしまう。


会える時間が減っていく気がする。


時計が早く進んでいるみたい。


八月十四日


今日は遼介さんからお守りをもらった。


青いガラス玉。


海の色。


綺麗だった。


今、机の上に置いてある。


月明かりで光っている。


宝物が増えた。


八月十五日


最近少し体調が変だ。


眠い。


朝が辛い。


疲れやすい。


夏バテかな。


春香は違うことを言う。


でも違うと思う。


たぶん。


八月十六日


島の診療所へ行った。


帰り道。


足が震えていた。


信じられなかった。


何度も紙を見た。


何度も。


何度も。


そして泣いた。


嬉しくて。


怖くて。


信じられなくて。


私は。


母親になる。


八月十六日 夜


まだ誰にも言っていない。


春香にも。


家族にも。


遼介さんにも。


でも言いたい。


早く言いたい。


きっと驚く。


でも笑ってくれる気がする。


そんな気がする。


八月十七日


今日も言えなかった。


タイミングがなかった。


でも明日なら言える。


祭りの日。


終わったら岬へ行く約束をしている。


その時に話そう。


全部。


東京へ行きたいことも。


子供のことも。


未来のことも。


全部。


八月十七日 深夜


眠れない。


嬉しいからかもしれない。


不安だからかもしれない。


窓を開けた。


海の音が聞こえる。


静かな夜。


凪の海。


この島で生まれて良かったと思う。


遼介さんと出会えて良かったと思う。


まだ先のことは分からない。


でも。


きっと大丈夫。


そんな気がする。


八月十八日


祭りの日。


朝。


快晴。


海も穏やか。


良い日になりそう。


今から準備。


忙しくなる。


だから日記はここまで。


夜。


全部話してきます。


ちゃんと。


笑って。


未来の話をしてきます。


帰ったら続きも書こう。


だから。


行ってきます。



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