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凪の亡霊  作者: 鷹司 怜


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【凪の亡霊 特別編】  『美咲の日記(一)』


六月十二日


今日も売店は暇だった。


平日だから仕方ない。


観光客も少ない。


昼過ぎに港を見ていたら、大きな白い船が通った。


ああいう船を見るたびに思う。


どこへ行くのだろう。


東京。


大阪。


福岡。


知らない街。


知らない人。


知らない景色。


私はまだ島の外をほとんど知らない。


でも知りたい。


海の向こうを見てみたい。


そう思うことは悪いことなのかな。


時々分からなくなる。


六月二十八日


春香と話した。


また東京へ行きたいと言っていた。


春香は本当に行動力がある。


羨ましい。


私は考えてばかり。


失敗したらどうしよう。


お金はどうしよう。


家族はどう思うだろう。


そんなことばかり考えている。


春香は言った。


「考えすぎたら人生終わるで」


確かにそうかもしれない。


七月二日


今日は夕陽が綺麗だった。


島の西側の岬。


海が金色になる時間。


私はあの景色が好きだ。


たぶん島で一番好き。


ずっと見ていられる。


不思議だ。


同じ海なのに毎日違う。


同じ夕陽なのに毎日違う。


人もそうなのかな。


七月十八日


東京から来た人がいた。


遼介さん。


最初は変わった人だと思った。


港ばかり写真を撮っている。


古い船ばかり撮っている。


こんなの何が面白いのだろうと思った。


でも。


楽しそうだった。


本当に楽しそうだった。


私が見慣れてしまった景色を。


宝物みたいに見ていた。


少し羨ましかった。


七月二十一日


今日も会った。


一緒に海を見た。


遼介さんは言った。


「この島は綺麗だね」


私は笑った。


当たり前すぎて分からなかった。


綺麗なのかな。


でも東京の人がそう言うなら綺麗なのかもしれない。


少し嬉しかった。


七月二十六日


最近よく会う。


会うと楽しい。


話していると時間を忘れる。


これって何だろう。


春香に話したら笑われた。


「恋やろ」


違うと思う。


たぶん。


きっと。


いや。


どうなんだろう。


自分でも分からない。


七月三十一日


今日は灯台へ行った。


遼介さんと。


海が綺麗だった。


夕陽も綺麗だった。


でも。


それより。


帰り道が楽しかった。


何でもない話をして。


笑って。


歩いて。


それだけなのに楽しかった。


もしこれが恋なら。


恋って案外静かなものなのかもしれない。


八月三日


今日。


初めて夢を見た。


東京へ行く夢。


知らない街を歩いていた。


隣には遼介さんがいた。


起きた時。


泣きそうになった。


夢だったから。


でも少し嬉しかった。


夢の中の私は笑っていたから。


八月五日


私はたぶん。


遼介さんが好きだ。


書いてしまった。


日記だからいいよね。


誰にも見られないし。


好きです。


認めます。


恥ずかしい。


でも本当です。



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