表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

第2話「懐くな」

第2話です。


今回は、ちょっとだけ人との距離が近づく回です。


本人はあまり認めていませんが、

少しずつ面倒なことになっていきます。


ゆるく読んでもらえたら嬉しいです。


第2話「懐くな」


 木曜日がくるたびに、気が重くなった。


 別に学校が嫌いなわけじゃない。木曜日のコンビニ肉まんが嫌いになったわけでもない。ただ、木曜日の夕方になると、胸ポケットのあたりがそわそわする。


 「今日もありますよ、たぶん」


 学校からの帰り道、ニルが胸ポケットから顔を出して言った。


 「たぶんって何だ」


 「敵の出現はある程度予測できるんですけど、完全じゃないので」


 「いい加減だな」


 「魔法ってそういうもんです」


 俺はため息をついた。先週も同じ会話をした気がする。先週も同じ道を歩いて、同じ路地で変身して、同じフリルを着た。慣れていない。慣れるつもりもない。


 コンビニに寄って肉まんを買った。会計のとき、ニルが胸ポケットに引っ込んだ。一応、人目は気にするらしい。


 「偉いな、隠れるんだ」


 「晶さんが困るでしょう」


 「そういう気遣いができるなら、最初から契約を強行するな」


 「あれは緊急措置でした」


 「どこが」


 「まあまあ」


 こいつの「まあまあ」は何かを誤魔化すときの口癖だ。二週間で学習した。


-----


 その日の敵は、商店街の裏路地に出た。


 変身して、ステッキを構えて、三十秒で片付けた。先週より早かった。体が慣れてきている。それが少し、嫌だった。


 「上達してますよ」とニルが言った。


 「うるさい」


 戦闘後の路地を出ようとして、俺は立ち止まった。


 男の子がいた。


 先週の、あの子だった。


 膝に泥がついている。走ってきたのか、転んだのか。でも顔は怖くない。むしろ、ぱっと明るくなった。


 「いた!」


 「……」


 「かっこいい!」


 「やめろ、そういうの」


 「なんで?かっこいいじゃん」


 俺はため息をついた。


 「かっこよくない。フリルついてんだぞ、これ」


 男の子は俺のスカートを見た。ふむ、という顔をした。


 「フリルもかっこいい」


 「なんで」


 「なんかひらひらしてる。かっこいい」


 「それは理由じゃない」


 俺は腕を組んだ。男の子は特に動じなかった。じっとこちらを見ている。目が大きい。茶色くて、まっすぐで、なんか押しつけがましくない目だ。


 「名前」と俺は言った。


 「コウタ」


 「何年生」


 「一年生」


 「家、ここらへんか」


 「おばあちゃんちが近い。毎週木曜に来る」


 それで合点がいった。こいつが毎週ここにいる理由。俺が毎週ここで戦う理由。タイミングが悪すぎる。


 「危ないから、近づくな」


 「でも見たい」


 「見てどうする」


 「かっこいいから」


 「だから、かっこよくないって」


 コウタはまた俺のスカートを見た。ひらひらを確認している。それから顔を上げて、「かっこいいよ」と言った。


 こいつは話が通じない。そう思った。


 追い払えばよかった。でも俺は「もう来るな」とも言わなかった。なんでかは、うまく説明できない。ただ、コウタが俺の話をちゃんと聞くやつだったからかもしれない。否定しない。茶化さない。フリルを見て「かっこいい」と言う。頭がいいのか悪いのかわからないが、変なプレッシャーがない。


 それが、なんか、悪くなかった。


 「帰れ」と俺は言った。


 「うん」とコウタは言った。「またね」


 またね、と言って帰った。


-----


 「懐かれましたね」


 変身が解けた後、ニルが言った。


 「うるさい」


 「意外と面倒見いいですよね、晶さん」


 「どこが」


 「追い払わなかったじゃないですか」


 「……別に」と俺は言った。「追い払うほどでもなかっただけだ」


 ニルは黙った。また変なタイミングで黙るやつだ。


 俺は夜の商店街を歩いた。肉まんはもう冷めていた。


-----


 翌週も、コウタはいた。


 翌々週も、いた。


 毎回「かっこいい!」と言って、毎回俺が「やめろ」と言った。コウタは全然やめなかった。ただ、それ以上でもそれ以下でもなかった。べたべたしてくるわけじゃない。ただ、いる。見てる。「かっこいい」と言う。それだけだ。


 三週目に、コウタが聞いた。


 「魔法少女って、大変?」


 俺は少し考えた。


 「まあ」


 「何が大変?」


 「衣装」


 コウタはしばらく考えた。ちゃんと考えていた。


 「そっか」


 それだけ言った。余計なことは言わなかった。


 なんか、変なやつだ。でも嫌いじゃない。俺はそう思って、また「帰れ」と言った。コウタは「うん」と言って帰った。


-----


 もう一人の魔法少女に会ったのは、四週目だった。


 その日は場所が違った。いつもの裏路地じゃなく、川沿いの道に敵が出た。変身して走ったら、すでに誰かがいた。


 水色のコスチュームだった。


 スカートに金の縁取り。髪を高く結んでいる。背筋がまっすぐで、ステッキじゃなくて細い槍みたいなのを持っている。


 俺のより、明らかにデザインがいい。


 それだけで少し腹が立った。


 向こうがこちらを見た。警戒していない。ただ、確認するみたいに見た。


 「あなたも、ここの担当?」


 落ち着いた声だった。


 「さあ」と俺は言った。「担当とか、よくわかんね」


 「そっか」


 それだけ言って、向こうは敵の方を向いた。


 一緒に戦った。息は合った。言葉はいらなかった。向こうは速くて正確で、無駄な動きがない。俺は力任せに見えるかもしれないが、ちゃんと考えて動いている。お互いの動きが邪魔にならなかった。


 五分かからずに終わった。


-----


 終わってから、向こうが聞いた。


 「なんで戦ってるの?」


 唐突だった。でも嫌な感じはしなかった。ただ、純粋に聞いている声だった。


 俺は少し考えた。


 「契約。仕方なくだけど?」


 「そっか」


 否定も肯定もしなかった。少し間を置いて、こう言った。


 「私は違うよ。守りたいから、戦ってる」


 「……そっか」


 それだけ言った。


 別にすごいことは言っていない。正義とか使命とか、そういう話だろ。よく聞くやつだ。俺には関係ない。


 なのに、なんか、引っかかった。


 喉の奥に、小さい何かが刺さった感じがした。飲み込もうとしても、飲み込みきれない。


 向こうは「またね」と言って行ってしまった。コウタと同じ言い方だった。


-----


 帰り道、ニルが聞いた。


 「どうでした?あの子」


 「別に」


 「引っかかってるじゃないですか」


 「引っかかってない」


 「顔に出てますよ」


 「出てない」


 ニルはふうん、と言った。信じてなさそうな声で。


 俺は川沿いの道を歩いた。水の音がした。風が来た。五月の夜は、少し肌寒い。


 守りたいから、戦ってる。


 頭の中で、その声がまだ鳴っていた。


 俺は仕方なく戦っている。それは本当だ。契約したくなかった。フリルも嫌いだ。ステッキも持ちたくない。


 ただ、一個だけ、うまく処理できないことがあった。


 コウタが毎週来る。コウタが「かっこいい」と言う。コウタの「そっか」が変なところで刺さる。


 仕方なく戦っているやつが、それでいいのか。


 「ねえ、ニル」


 「はい」


 「あいつ、名前なんていった」


 「水色の子ですか?聞いてませんでした」


 「そうか」


 「気になりますか」


 「別に」と俺は言った。「次会ったら聞けばいい」


 ニルはまた黙った。


 俺は夜の道を歩いた。フリルはもうない。胸ポケットがそわそわしている。


 来週の木曜日が、少しだけ、怖かった。


-----


第3話へつづく

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


少しずつですが、

関係と考え方の両方に変化が出てきました。


まだ本人は「仕方なく」と言い張っていますが、

そのズレがこの先どうなるのか、という話です。


よければ、続きも読んでもらえたら嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ